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【毎週ショートショートnote】文学トリマー

 芥川龍之介は、水羊羹を前に腕組みをしていた。
 水羊羹。
 この涼菓について思うことがある。
『羊羹』
 この漢字はいかがなものか。
 何だか、菓子に毛が生えているような気がしてならぬ。
 若干気持ちが悪い。
 この漢字でなければ、もっと美味しく食べられるものを。
 ひとつ、毛を剃るか。
『ようかん』という響きは、濁点がなく滑らかである。
 よって響きを変えずに漢字を変えてみる。
 羊、妖、陽、要、洋……。
 食べ物であるゆえ、ケモノくささや不浄を思わせるものは論外として、あまり意味のある文字も排除しよう。
『容』
 これだ。
 次に『かん』である。
 文豪は瞑目して、考えこんだ。
 そして、長い時間をかけ、かんの字を選んだ。
『閑』がよい。
『容閑』
 この菓子の漢字が決まった。
 毛を思わせる要素がなくなり、さっぱりしている。
 文豪は満足して、水ようかんを口に運んだ。

 水ようかんは、すっかりぬるくなっていた。

(406文字)

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