フィクション

この話はフィクションである。

彼女は震災で両親を失った。

介護職だった母は利用者と避難する途中に、警察官だった父は住民の避難誘導中に津波に巻き込まれた。

これが絶望かと思った。未来が真っ暗で、光が少しも見えなかった。

復興をしよう!と張り切る住民に同意も出来ず、復興がなんだ、復興してもあの街は帰ってこないとそう思った。

頼りはアイドルだけだった。
アイドルに縋って、ギリギリのところで生きていた。
でも限界だった。
毎日、震災を思い出し、死と向き合う度に絶望で月が光ってるのさえ分からなかった。
現実から逃げたかった。考えたくなかった。

だから彼女はアイドルに縋った。
アイドルになった。
忙しくなれば、震災を考える頻度も減り、乗り越えられると思った。あの時救ってくれたアイドルなら、それならばと縋って縋って。

現実はそう甘くなかった。

途中加入の彼女を受け入れてくれる人は米粒程度しかいなかった。アンチコメントは常日頃。存在価値を否定されることもあった。

なにが救いだ。彼女は思った。

いつか、いつか、認めてもらえるよう、そう頑張っても未来に光は見えなかった。

彼女はまた絶望した。

絶望から逃げたくて、ここまで来たのに何にも変わらないじゃないか。何も知らないくせに、勝手な偏見と判断で人を好きかってしやがって。おまらえら良いよな、親がいて。安心出来る家庭があって。不平等だろ。私、両親が既に他界してるんです〜って可哀想な子アピールすればいいのか??可哀想な子で同情を得ればいいんですか??可哀想な子と思われることがどれほど屈辱が、大切な人を否定されてる気分なるかも知らないくせに。なんで、なんで、なんで。

彼女はアイドルを辞めた。
6年間耐えて耐えてしのんだアイドル人生だった。

彼女は生きるのを辞めた。

自由

この話はフィクションである。

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