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「勇者は僕の世界から帰れない」第3話

ゼラ「適当なことを言うな!」
ゼラは激昂していた。自分たちが待ち望んでいた勇者を侮辱されたように感じたのだろう。俺は勇者についての話はレデから聞いていて知っていたが、面倒そうなので知らないふりをしていた。しかし世界の情勢についての話を聞いて、王権を倒して勇者になれば、地位や名声、金も全て手にし、好き放題できるだろうからなってやってもいい、と言った。そして勇者になるためにはどうしたらいいか、爺さんに聞いた。爺さんは、もし俺が勇者であるなら、自分たちの持っているものを全てを賭けて俺を必ず勇者にする。だから、俺が本当に勇者の器であるかを見極める必要がある、と言った。そして、爺さんはレデを殺した犯人をここに連れてくることを俺に課した。
 俺は承諾をし、すぐ外に出て、最後にレデといた小屋に向かった。ゼラも俺の後をついてきた。しっかりと見極めつもりなのだろう。小屋の近く一帯は、火は沈静化されていたが、焼き切れていた。遠い目をして座り込む村人に、ここを焼いた犯人について聞いた。そしてそれは、ゴーデス大佐という人物であることが分かった。彼はレデをずっと探していて、帰ってきた噂を聞きつけ、この村に来たらしい。レデのことを追っていることを知っていた村人たちは、レデの抱えている事情は知らなかった。それでもレデを守るために、誰もレデの居場所について口を割らなかったらしい。その結果、村を焼き払われてしまった、という。その村人にそいつを追いたい、と言うと、ゴーデスの向かってる方角を教えてくれ、自身の馬を俺に貸してくれた。そいつを捕まえて、この村人たちや、レデの前に連れて行く必要がある、と思った。
 俺はゼラと共に無我夢中で馬を走らせた。その最中、ゴーデスは1人で50人ほどの兵士を倒すほど、王権にも信頼されているほど強い、とゼラは言っていたが、俺はそれどころじゃなかった。そして、遠くの方で集団の人影を見つけた。あれだ、本能的に分かった。俺の心臓は激しく動き始め、頭に一瞬で血が上るのを感じた。姿をはっきりと捉えるほど横から近づいたとき、馬から降りて、全力で駆け出し、1番偉そうなやつに思い切り腕を振り切った。しかし、片手で止められ、逆に地面に投げつけられてしまった。力の差はまるで熊と兎の如く歴然だった。それでもこいつが大事な親友を奪い、その親友の大事なものも奪っていったと思うと、俺は攻撃を止めることはできなかった。俺の中の怒りがどんどん高まっていくのを感じた。それは目の前の相手に対してだけでなく、自分への全ての不甲斐なさを含んでいた。情けなくて、悔しくて、どうしようもない感情が湧いてくるほど、力も比例して増幅していった。ゴーデスもそれに気付き、驚いていた。ゴーデスは俺をとっ捕まえ、俺のTシャツをめくった。俺は自分のへそをみて驚いた。レデが光っていたのと同じように、光っていたのだ。ああ、レデが最期に俺に力をくれたんだ。そう思ったらさらにその光が増していった。ゴーデスの手から逃れ、対等に戦えるほどになっていた。全身から力がみなぎっていった。俺の頭には今までのレデとの思い出が一つ、一つと流れていた。ゴーデスは俺に攻撃を当てることができなかった。それは、俺の体がゴーデスの拳をおばけのように通り抜けていたからである。これもレデがくれた力なのだろう。そして、その精一杯の力を込めてゴーデスの腹に拳を入れ込んだ。

「俺こそが、お前の世界を救う勇者だ。」


この世界はどこなのか、レデをやったのは誰か、どのように元に戻るのか、勇者とは何なのか、そのような疑問を少しずつ解決しながら話が進んでいく。

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