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ショートショート67:種も仕掛けもございません

 男は学生時代、クラスの王として君臨していた。

 情けない奴弱いやつ頭が悪いやつ運動ができないやつ見にくいやつ太ってるやつ痩せてるやつとにかく自分が「劣っている」とみなした人間は全員迫害した。特に手品研究会とかいうワケのわからない部活に所属していた男子のことは、徹底して攻撃していた。男には手品ができなかったからだ。自分にできないことをやってのけるやつも嫌いだった。

 今になって思えば「若気の至り」というやつだったのだろう。

 しかしそんなクラスの王様も、20代後半を過ぎたあたりから角が取れはじめ、35の今では社員100人を抱えるITベンチャーの社長である。

 今日は忘年会の日だった。
 設立5周年の記念日でもあるその日、男は昨年よりも盛大に社員を労いたいと、ホテルのパーティー会場を借りて会を企画し、さらにはサプライズで最近話題の仮面マジシャンも呼んだ。YouTubeやテレビなどさまざまなメディアで見かける人物だから、若い社員は特に喜ぶだろうと思ってのことだった。

 案の定、仮面マジシャンの登場で会場は大いに盛り上がった。男は社員の反応を見て満足した。かつては手品が嫌いだったが、やっぱりあの頃は尖っていた。尖りすぎていた。今では純粋に手を叩いて楽しめる。

 パフォーマンスも終盤に差し掛かったとき、マジシャンは男をステージに呼んだ。

「これから人体切断マジックを披露いたします」

 とマジシャンはフロアに宣言する。社員たちも社長を使っての人体切断マジックとあって、大盛りあがりだ。

「おいおい、危険なことしないでくれよ。まだ後継決めてないんだから」

 男もそう軽口を叩いてステージに上がり、仮面マジシャンに言われた通りストレッチャーのような台に横になった。

 仮面マジシャンは小道具が入ったバッグからフィクションに出てくるような大ぶりの曲刀を抜き放ち、ステージ前方に歩いていくと、フロアに向かってアピールした。

「今からこれで皆さんの社長を切断します!持ち株を売るなら今です!」

 マジシャンはジョークでひと笑い取ってから台の方に戻ってきて、男にだけ仮面の下を見せた。

 あまりにも何気ない見せ方と、そして覆面の下に現れた素顔に、言葉を失った。

 目の前にいたのは自分が学生時代に1番攻撃していた、手品研究会の同級生だった。

 マジシャンは仮面を戻し、声を張る。

「種も仕掛けもございません。シンプルな切断です」

 マジックが抜けてるぞ、と言うより早く、マジシャンは曲刀を男に向かって振り下ろす。

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