ボトルメール

482文字/SCRAPさんのボトル謎から派生してできた話


ずっと旅をしていた。愛するあなたの手から離れて、もうどれくらい経っただろう。
あなたが選んだコルクのふたは水がすっかり染み込んでしまった。

ゆっくりと遠ざかる私を見て。念願の旅に出る私を祝福して。
死してなお、あなたと共に居られない私を赦して。

わたしはきっと戻ってきます。いろいろな海岸でさまざまな人に祝福されて、そうして出会いと別れを繰り返し、真っ黒になった私をどうか迎えにきてください。
そうしたら、今度こそ。私はあなたと共に生きたい。

私が「彼女」を拾ったのはほんの気まぐれだ。散歩していた犬が離さなかっただけ。
湿気たコルクのフタを取り、縛られていた羊皮紙を広げる。真っ白な世界地図。
大西洋に広がるインク溜まり。やじるしと、START me とも読み取れる文字。
さらにヒントを探して裏返す。きっと綺麗に綴られていたであろう長い文字列があった。
滲んだ言葉はもう読み取れない。

あの日の父の背中を覚えている。夕日に向かって脇見をしないボトルをじっと見つめていた。太陽がボトルに反射して、私の目に飛び込んでくる。
ああ、なんて綺麗な別れだろう。

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