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キミは恋人でもサンタクロースでもない。

どういうわけかこの時期になると、「彼氏」という存在が欲しくなる。
普段から「彼氏が欲しい」、「一人は嫌だ」と言っているタイプではない私としては、一念の一度のこの時期だけが「誰かと一緒に歩きたい」と思う。これは精神的な「歩く」ではなく、肉体的なものだ。
誰かと手をつないで、お気に入りのイルミネーションの下を歩きたい。疲れたらホットワインなどを飲んで、街を歩くカップルを眺めたい。
「あのカップルいいね、いい雰囲気」などと述べたい。そう思っている。
しかも困ったことに、毎年12月から翌年1月の10日くらいまでのおよそ40日間がその時期にあたる。逆を言えばその時期にしか、恋人という存在は不要ということなのである。

「ほしいなら作ればいい」とおっしゃる向きもあろうが、そう簡単にできるものでもないし、なにしろ40日後には不要になっている存在。どうかするとその前に面倒になってお別れという未来しか見えない状態で、おいそれと作るわけにもいかない。
でもやっぱり誰かと一緒に歩きたい気持ちは変わらないので、だいたい毎年、同じ結論に落ち着く。
簡単で、あと腐れなく、かつ、手軽にオンオフできる存在。
そう、「友だち」というやつである。

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今回、私のターゲットになる「H」は、私にとっては貴重なタイプで、話していて一切ストレスを感じないタイプである。これが本当に珍しく、常日頃他人と話すときは、相手とつねに意思疎通を図れているのかを気にしながら、時折状況確認しつつ話をするというタイプ。だがこの「H」については一切不要。最初から気兼ねなしに話ができる稀有なタイプだった。
それは先方も同様で、変な感じで頭を使わなくていいとお互いに、褒めているのかけなしているのか、わからない表現を使う。
頭や口からあふれてくる言葉をそのまま相手に伝えられるのは、こうもストレスがないものか。なのでいつもの調子で、私は繰り出した。
「クリスマスカラーに染まった街を、一緒に歩いてみない?」と。

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とかく、人込みとカップルイベントが嫌いときている「H」の返事は、おそらくかんばしくないであろうと予想していたが、その予想は裏切られた。
つまり、あっさりOKが出たのである。「いいよ別に」と。
困ったことに、やつは、「私が期間限定で彼氏が欲しくなる病気」にかかっていて、その発作が「たった今起きている」ことをよく知っている。
だから逆に、あまりにもあっさり受け取られたことに拍子抜けしたのは事実。もちろん付き合う気なんてないし、単なる友だちなのだけれど。

「いいよ、別に。丸の内? 六本木?」
この、小憎たらしさを感じずにはいられない、私の性格をわかりきった返答。丸の内のイルミネーション大好きで毎年行ってるのだ。
「丸の内もいいけど、横浜の、赤レンガ倉庫なんてどう?」
「ああ、クリスマスマーケットやってるね。いいよ」
話は意外とスムーズに決まった。
ただこの話にはちゃんと私らしいオチがある。
それは、彼の目的がもちろん「クリスマスカラーに染まった街を歩く」ことでも、「私に会う」ことでもなく、もちろん「横浜に行く」ことですらない。単に「彼の愛犬とともに(彼が)クリスマスの雰囲気を楽しみたいだけなのである」ということだ。
まあ、チワワとダックスで、かわいいからいいんだけどね。

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というわけで、今度、彼と二人と二匹で、横浜の街をクリスマスデートに見せかけた、単なる犬の散歩に行ってくる。
そのレポートはまた後日。

繰り返すけれど、彼は彼氏じゃない。恋人でもない。好きな人でもない。
単なる友だちである。そしてそれが昇格する可能性はZEROである。ゼロ。
大変かなしいことに。大変当たり前のことに。大変喜ばしいことに。

私は自分に言い聞かせる。
彼は、恋人でもサンタクロースでもない。
でも少なくとも、この上なく平和で楽しい最良の時間をくれる人なのだ。

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