見出し画像

詩 | そよ風

その子は、前から吹いてくる風に向かって手を伸ばしました。

小さな手をゆっくり広げます。

その風を掴もうと思っているのです。

様々な足音が聞こえるその街中で、小さな子は手を広げました。

周りの音は聞こえません。

そこにあるのは気持ちのいい風だけ。

見えるのは遠くの方にある青い空だけ。

まだ慣れない様子で手を広げてみました。

風を掴みたいからです。

そこにあるのは男の子と風だけ。

見えるのは遠くの方にある青い空だけ。

今度は左手を伸ばしました。

前から吹いてくる風に向かって左手を伸ばしました。

気持ちのいい風が吹いてきます。

白いカーテンが舞う時にも同じようなものを感じたことがありました。

白いカーテンがふわりと揺れる瞬間。

あの白いカーテンがきれいに空中を舞うあの瞬間。

あの時と同じものを今感じています。

そこは、人で溢れる街の中。

でもその子には風しかありませんでした。

遠くで見えるのは、雨が降った翌日の青い空。

もうすぐ空がオレンジ色になるその時刻は、涼しい風が吹いていました。

その風を誰よりも感じていたのはその男の子です。

小さな手をゆっくり広げて、男の子は風をつかもうとします。

遠くに見えるのは青い空。

もうすぐ夕焼けが美しくなる青い空。

その時、男の子は手を伸ばしました。

まだ慣れない様子で、小さな手をゆっくりと。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?