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短編小説

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これまでに書いた短編小説をまとめています。
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#詩のようなもの

金の魚

その子は魚屋さんへ行きました。 いろいろな魚が並んでいます。 金の魚、銀の魚、ピンクの魚、青い魚。 彼女はこう言いました。 「金の魚をください」 金の魚が紙に包まれる様子を 彼女はじっと見ています。 綺麗に紙に包まれるのです。 その紙の手触りを感じました。 そして、紙が綺麗な折り目をつけていくのを うっとりしながら眺めていたのです。 その晩、彼女は金の魚を食べました。 細い指で丁寧に、金の魚を食べました。 翌週もまた魚屋さんへ行くと、 いろいろな魚が並ん

ショートショート |葉っぱの一生

葉っぱが、また一枚地面に落ちました。 夕方の光がきれいなときです。 コツンという小さな音を立てて、 その葉っぱは生涯を終えました。 葉っぱが好きだったのは、人間の足音です。 コツコツコツという足音を、葉っぱは この世に誕生したときから聞いていました。 足早に過ぎ去る音もあれば、 ゆっくりと過ぎていく足音もありました。 じっくり耳を済ませていると、 その人となりというものが見えてきます。 怒りっぽい人、寂しそうな人。 楽しそうな人、悲しい人。 葉っぱにはすぐに

ショートショート|白い天使

もう人間が住まなくなったその星に、 一人の天使が降り立ちました。 緑で生い茂った森に入ると、 そこには小さな池があります。 人間たちが愛の言葉でささやき合い、 一生を共にすることを誓った場所です。 天使は池のそばに腰かけると、 人間たちの言葉を真似して言いました。 「好きだよ。」 「愛しているよ。」 「僕と結婚してください。」と。 真似して言っては頬が赤くなりましたが、 天使は続けてこう言いました。 「はい、お願いします。」と。 池の水は冷たくて、白い天使の

ショートショート  | くすぐったい

空に向けて思いっきり手を伸ばしてみた。 そこには太陽があって 指の間から光が差してくる。 しばらくそこに寝そべって 両手を上に向けていた。 白いシャツを着たイーサンも 私と同じ動きをしている。 空に向けて両手を上げて、 太陽の光を手のひらで受けていた。 ときどき指の間から太陽の光が差して、 彼は眩しそうに目にしわを寄せた。 洗濯した後のシャツの匂いなのか、 それとも彼の匂いなのか。 私はその匂いに夢中になった。 太陽の光は相変わらず注いでいて、 甘酸っぱい匂い

壮大な愛の物語

彼はこの世界に、宝物を散りばめた。 彼の愛するひとのために。 手紙だけではだめだったんだ。 言葉だけでは表せないこともあるから。 それに、ウィットに富んでいたほうが 面白いと思ったんだろう。 この世のありとあらゆるところに、 彼が彼女のことを愛しているという 証が散りばめられている。 空から落ちてくる雪の中にも、 海の中に住んでいる生き物の中にも。 7歳の時、初めてその宝物の一つを見た 彼女は目を見開いて驚いた。 彼女は手袋についた雪を見て、 信じられないとい

流れ星

女の子が泣いているのを 僕はこっそり見ていた。 その涙はやがて川になり、 夜の星のしずくとなった。 小さな粒が夜空に向かい、 そのあと金色に輝いた。 涼しい夜風がそれを左右に揺らしながら、 ゆっくり空へと流れていったのだ。 その静かな光景を目撃していたのは、 一体どのくらいのことだっただろう。 あの星も、この星も。 静かな夜の風景の中で、 僕たちに優しく光っていた。 女の子もそれに気づいたようで、 目を真っ赤にしながら空を見ていた。 うるうるした瞳に、 無数の

短編小説 | 海賊船

クラシックバレーの発表会終了後、振り付けを間違えてしまった妹のもとへお兄ちゃんはすぐさま駆けつけました。 そして妹にこう言ったのです。 「お前が一番綺麗だったよ!」と。 * 郵便局で働くフェルナンドは、残業の依頼を進んで引き受けました。 今度の週末は土曜日も日曜日も働く予定です。 すべては美しい恋人ルイーゼのため。 あのダイヤモンドの指輪を購入し、ルイーゼにプロポーズするのです。 ルイーゼはなんと言うだろうか。 ダイヤモンドの指輪を見た時にどんな顔をするだろ

【短編小説】星の夜

それは、寒い冬の日のことでした。 一人の女の子が、お気に入りの靴を履いて、外へと出かけて行きました。 「もうこの世界とはお別れにしよう。」 そう思って、森の中へと入っていったのです。 もう考えることなんてありませんでした。 悲しくもないし、涙も流れません。 感情なんて、とっくの昔になくしてしまった。 寒いと感じる感覚はまだ残っていたけど、それ以外に思うことは特にありませんでした。 「この辺でいいかな。」 たどり着いたのは、一本の木の下でした。 がっしりとし

短編小説 | ジーナさんと庭の花

ジーナさんは、一人で過ごすことが好きでした。 とくに、きれいな花が咲く庭の中で過ごしていると、嫌なことも忘れることができました。 庭にはテーブルと椅子があります。 よく晴れた日は、ときどき庭の椅子に座って、本を読んだり、日記を書いたり、物語を書いたりしたのです。 そして、ときどき庭の中を歩いては、花の様子を観察するのでした。 「この子は大きくなったな。」 「この子はもう少し水が必要かな。」 「また蕾ができている。」と。 花を見ていると、心がとても落ち着きました

【短編小説】 ぼくのマリア

わたしは、小さいときからおばあちゃん子だった。 おばあちゃんの家は、わたしとお父さんとお母さんが住んでいる家の近くにあったから、よく一人でおばあちゃんの家に遊びに行った。 おばあちゃんはとても素敵な人だった。 髪の毛はグレーで、髪はいつも耳にかけていた。 そうすると、耳にいつもしていた上品なゴールドのイヤリングが光るのだ。 それは、おばあちゃんのセンスの良さを物語っていた。 おばあちゃんの部屋はいつもきれいに整えられ、無駄なものが一切なかった。 テーブルの上には