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記憶喪失の女の子に聞きたい10の質問


皆さんこんにちは。桜士(オウジ)と申します。
普段は会社員として、切手に斜め45°の角度で歯形をつける仕事をしています。

まずは皆さんにお詫びがございます。

当初予定をしていた、世界的ウインドチャイム奏者の鉄骨原 高音(てっこつばら たかね)さんのロングインタビューですが、皆さんもご存知の通り、鉄骨原さんは先日の大雨の影響で右脹脛にクサウラベニタケが生えてしまったことにより活動休止を発表されたため、インタビューをすることができなくなってしまいました。

楽しみにされていたファンの皆さん、申し訳ございません。


そこで今回は急遽予定を変更し、
私の勤務先の近くにある喫茶店で働く、アルバイト店員・豊田 美央(トヨタ ミオ)さんにインタビューをしてみたいと思います。

彼女はなんと、


【記憶喪失】とのこと。


漫画や小説でしか見聞きしたことがありませんが、実際にいるんですね。

これは貴重なお話が聞けそうです。


題して、



今回訪れたのは喫茶店「鏡天国(ミラーヘブン)」さんです。

昔ながらの純喫茶で、珈琲ソムリエであるマスターが入れるブレンドコーヒーは、珈琲マニアでお馴染みの俳優・キャロライン山田さんも絶賛する一品。

店内は落ち着いた雰囲気とアンティーク調の装飾で、非日常感が味わえます。




本日はよろしくお願いいたします。


ミオ:どうも。

それではまず、簡単に自己紹介をお願いします。

ミオ:豊田 美央(トヨタ ミオ)です。



・・・・・・。

ミオ:・・・・・。



え、それだけですか?

ミオ:私記憶がないので。自分のことについては名前ぐらいしかわからないんです。

ああ、そうでしたね。失礼しました。では、早速質問よろしいですか?

ミオ:はい。


今回は事前に、豊田さんに聞いてみたいことをSNS上で募集いたしました。

その中から厳選して10個の質問をしていこうと思います。






ミオ:マスターから聞いた話なんですが、ちょうど一週間前の夜、マスターがカウンターで帳簿をつけていたところ、奥のソファー席の方から「バタン」と大きな物音がしたそうです。

野良猫が入ってきてモノでも倒したのかと思ったマスターが様子を見に行くと、床に倒れている私を発見したそうです。

ミオ:私は気を失っていて、マスターの声で目が覚めました。目を覚ました時にはもう記憶がなくて、自分が誰なのか、なんでここにいるのか、それまで何をしていたのかもわかりませんでした。今もそうです。わかったことといえば、自分の名前ぐらいで。

自分の名前は覚えていたんですね。

ミオ:いえ、覚えてはいなかったんですが、胸ポケットに写真付きの学生証のようなモノが入っていたので、それで自分の名前がわかりました。

なるほど。それからどうされたんですか?

ミオ:マスターと近所の交番に行って、警察の人に相談をしました。ただ警察の人は私たちがふざけてると思ったのか、全く相手にしてくれませんでした。

その「学生証のようなモノ」は見せたんですか?

ミオ:見せたんですが、「こんな学校存在しない!」と言われてしまって。

見せていただいてもよろしいですか?

ミオ:これです。



確かに学生証っぽい。でもなんて書いてあるのか読めませんね。

ミオ:警察の人もそう言ってました。ちなみに私も読めません。



それで、その後は?

ミオ:家の住所も電話番号すら思い出せないので、帰ることもできません。それでマスターのご厚意で、しばらくの間喫茶店で寝泊まりさせてもらうことになりました。

それは大変でしたね。じゃあ、続いて・・・。


ミオ:自分のことが思い出せないだけで、全ての事が思い出せないわけじゃないです。普通に喋ることもできるし、文字も読めます。
あと、これが「鏡」だとか、そういった物の名前もわかります。


なるほど。記憶がないといっても自分に関することだけで、社会的なことは覚えているんですね。


ミオ:困ったことは、やっぱり家に帰れないことでしょうか。

このままずっとマスターのお世話になるわけにもいかないですし。お金もないから、食事とか必要なものとか全部マスターに用意してもらっていて、申し訳ないなと思ってます。

良かったことは、私を見つけたのがマスターみたいな親切な人で良かったなと思います。

まぁ確かに……いい人…ですよね。

ミオ:なぜ言い淀むんですか?

いえ、別に。


ミオ:ありません。


ミオ:ないですけど……なんかこの質問してる人おかしくないですか?

そうですね。多分アニメかラノベの見過ぎなんだと思います。


ミオ:趣味が楽しめないと言うことは、もしかしたら心が疲れているんじゃないでしょうか。気晴らしに旅行でも…、


って、これ別に私に聞くことじゃないですよね。


左くるぶしのため息

ミオ:質問じゃない。


……え、なんで会話できてんの?こわ…。


ミオ:は?






ってサボテンってこっちのサボテンかい!!!



んでお前がそっち側なんかい!!!!




ミオ:誰が貸すか!!!


つかこれお前じゃねぇえかああああ!!!!


ミオ:はぁ……はぁ……。


覚えていないですけど、おそらく過去1腹立たしい気持ちです。




質問は以上です。ありがとうございました。

ミオ:……どういたしまして。

また機会がありましたら宜しくお願いします。

ミオ:もう二度とやらない。

じゃあ私はこの辺で。

ミオ:え?

マスターに挨拶するの面倒くさいので、ヨロシク伝えておいてください。

ミオ:ちょ、ちょっと待ってください!話が違うじゃないですか?

話とは?

ミオ:だってマスターが、「変な人がくるけど、その人と小一時間話せば帰る方法を一緒に探してくれる」って。

あー、あの人珈琲とパチンコのこと以外、適当なことしか言わないからあまり信用しない方がいいですよ。

ミオ:そんな…じゃあ私はいったいどうしたらいいんですか?!

私に言われましても。警察に相談したらいいんじゃないですか?

ミオ:だから警察に言ってもダメだったんだって!!

私はただ、イケスカない女にインタビューをドタキャンされたからその穴埋めに来ただけなんで。何もできませんよ。

ミオ:最悪だ・・・。









???:こらぁ!!アンタ!!こんなところで何やってんの!!!

???:塾から全然帰ってこないと思ったらぁ!どーっせテストやりたくないからってサボったんでしょ!!!


ミオ:えっ…誰…?

お知り合いですか?

ミオ:いや、覚えてない…。というか、この人どこから…。

???:あんたお母さんにどんだけ恥かかせるの!この間も近所の人から「おたくのミオちゃん、匍匐前進でアリの行列を追いかけてましたよ」って言われちゃったんだからね!


ミオ:えっえっえっ?

???:もういーから帰るよ!帰ってお父さんに謝んな!


ミオ:いやいや待って!


ちょっと助け…


助ける気がミリも無ぇなこの野郎!!



ちょほんと、た、たすけ…て





…………………。






〈完〉

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