クリスチャン_ツェル

チェンバロ研究⑺〜ドイツとイギリスの様式


【この記事のまとめ】

①ドイツの楽器はイタリアに似ていますがそれよりも重構造です。明快さと重厚な響きを併せもった音色なので、バッハに最適です。

②ドイツチェンバロは多声音楽に向いており、対してフランドルやフランスのチェンバロは和声音楽に向いています。全ての曲に向いている楽器はありません。

③イギリスでは始めスピネットが愛好されました。18世紀後半にはカークマンとシュディがチェンバロ製作を牽引し、シュディの弟子ブロードウッドはフォルテピアノを製作しました。


【ドイツの楽器(ジャーマンハープシコード)】

素材など、イタリアの楽器にに近い所が多いですが、それよりも重構造に作られています。

ケースの奥が角形でなく、ピアノのように曲線に作られているものが多いです。

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音色は、音の立ち上がりの明快さと、重厚な響きが両存ているため、バッハを弾くのに最適です。

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《画像 製作者不明のバッハ・チェンバロ》


次に見るクリスチャン・ツェルは、修復に最も成功したチェンバロの1つです。

蓋の内側が西洋、ケースの外側が東洋という、東西を折衷したデザインになっています。また、変わった形状の足がついています。

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《画像 18世紀のクリスチャン・ツェル Christian Zell (ハンブルクの博物館所蔵の二段式チェンバロ)》


《動画 ♪トッカータホ短調 J.S.バッハ 演奏:トレヴァー・ピノック》


【ドイツとフランスの楽器の比較】

・ドイツ → ポリフォニー音楽
 (各音程の響きが明瞭なチェンバロ)
・フランス → ホモフォニー音楽
 (和音を調和させることを目指したチェンバロ)

ここから言えることは、「全ての曲に向いている楽器はない」ということです。


【イギリス】

16〜17世紀にかけて、イギリス国内でチェンバロのための楽曲がたくさん作られるようになりました。この時期の楽曲を集めた「フィッツウィリアム・ヴァージナルブック」という曲集があります。

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初めはイタリアやフランドルから楽器を輸入していましたが、しばらくすると国内でもチェンバロの製造が盛んになりました。


【主な製作者】

①ジェイコブ・カークマン Jacob Kirkman

②バーカット・シュディ Burkat Shudi

装飾はなくシンプルな外見で、ペダルでストップ(弱音装置)を切り替えられます。

スウェルと呼ばれる、音量を調節するためのペダルもあります。ペダルを踏むとスウェルが開き、音量が大きくなる仕組みです。元はオルガンにつけられている装置で、強弱がつけにくいチェンバロにも実験的に取り付けられました。

シュディ

《画像 ベネツィアン・スウェルが取り付けられたシュディのチェンバロ in the Museum of Musical Instruments in Brussels 》


浜松の楽器博物館には、カークマンの楽器が所蔵されています。


③ジョン・ブロードウッド John Broadwood

シュディの弟子で、現在も存続するピアノメーカー「John Broadwood & Sons」の創業者です。後年はピアノの製作を行い、現代のピアノにも用いられている「イギリス式アクション」を完成させました。


((余談))

1818年、ブロードウッドからベートーヴェンへ、6オクターブのピアノフォルテが贈られました。

この時期に作曲されたピアノソナタ『ハンマークラヴィーア』は、第1〜3楽章はシュトライヒャーのピアノ、第4楽章はブロードウッドのピアノを用いて作曲されており、鍵盤の音域の問題で、当時この曲を通奏するにはピアノが2台必要だったそうです…

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《画像 ベートーヴェン・ブロードウッド in the Hungarian National Museum》



次回は、チェンバロ研究⑷〜⑹で述べてきた、各国の様式についてまとめます!

チェンバロ研究⑺へ続きます♪


さくら舞


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