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和声法⑸〜属九の和音

今回は属九の和音について勉強します。

この回を乗り越えると、和声Ⅰ巻(赤色の本)の内容を修了したことになります。

⑴三和音
⑵三和音の第1転回
⑶三和音の第二転回とバス定型
⑷属七の和音
⑸属九の和音 👈
⑹Ⅱ7の和音
⑺準固有和音
⑻ドッペルドミナント①
⑼ドッペルドミナント②
⑽Ⅳ7、ナポリ、ドリアの和音

参考文献はこちらです。


タイトル画像は、19世紀フランスの作曲家セザール・フランクの《♪ヴァイオリンソナタイ長調》です。
冒頭から属九の和音が使われているので、和音のイメージをつかむためにも聴いてみましょう。


2023年1月14日(土) 少し加筆修正しました。

属九の和音

属九の和音はドミナント和音の一種です。
名前のとおり、Ⅴ度和音や属七の和音の仲間で、
根音より9度上の音を追加で重ねています。
よってコードネームは、G9と表記されます。
(Gadd9の場合は、7thの音がありません。)

構成音は、ハ長調(Cメイジャー)の場合、「ソシレファラ」、ハ短調(Cマイナー)の場合、「ソシ♮レファラ♭」となります。

現代のポピュラー理論では、ダイアトニックコードのどの和音にもテンションとして9度の音を付加することができますが、ロマン派までのクラシックでは、単独での使用は、属和音に限られていました。

和音を聴いた感じは、長調の場合、どことなく浮遊感のある響きになります。
長調の属九はロマン派の頃から使われはじめました。
シューマンの幻想曲や、フランクのヴァイオリンソナタといった曲の冒頭で、属九の和音が印象的な効果を出しています。

短調の属九の場合は、もっと深刻な、現実味のある響きになります。
ベートーヴェンの楽曲にもよく登場します。
ピアノ協奏曲第3番第3楽章、などが好例です。

📍基本情報

❶和音記号は、ローマ数字Ⅴの右横に9を書きます。

❷四声体の場合は、常に第5音「レ」が省略されます。
つまりハ長調(Cメイジャー)の場合は「ソシファラ」、
ハ短調(Cマイナー)の場合は「ソシ♮ファラ♭」が構成音です。


📍配置

構成音を配置するときは、気をつけることが2つあります。

❸第9音「ラ」は、根音「ソ」の9度以上上に置きます。
❹とくに長調(メイジャー)の場合、第9音は第3音「シ」より7度以上上に置きます。
ただし第9音が予備されている場合はこの限りではありません。

長調(メイジャー)は「ソシラ」、
短調(マイナー)は「ソラ♭」の位置関係が固定されているということですね。

❺また属九の最適配置は、第9音高位の密集または開離です。

《属九の和音の最適配置》


📍連結→

属七の和音と同様、新しく登場した第9音(ラ)は限定進行音となります。

❻第9音は下方限定進行音です(「ラ→ソ」)。

第3音、第7音も限定進行音でしたね。
いつもどおり「シ→ド」「ファ→ミ」と進ませます。
『シドファミラソ』と呪文のように覚えましょう!


📍→連結

❼外声(ソプラノとバス)の並達9度は、「ソ→ラ」の場合だけOKで、それ以外は避けましょう。

並達とは同じ方向へ動くことです。


つづいては根音省略形です。

属九の根省

属九の和音は、基本形よりも根音省略形の方がよく使われます。
根音省略形とは、属七の和音にも出てきましたが、根音(ルート音)をはぶいた和音のことです。

構成音は、ハ長調(Cメジャー)の場合、根音(ルート音)の「ソ」を省略するので、「シレファラ」(Bm7-5)となります。
ハ短調(Cマイナー)の場合、「シ♮レファラ♭」(Bdim)となるため、減七の和音です。

(要するにⅦ度の和音なのですが、芸大和声ではⅦ度の和音を属九の根音省略形として理論づけしているということです。)

減七の和音は、悲劇的な響きがすると例えられます。
減5度音程(トライトーン)を2つも含むため、属七よりも不安定なドミナント和音といえます。
また後述するように配置が自由なこともあり、クラシック音楽では頻繁に使われます。



📍基本情報

❶和音記号は、ローマ数字Ⅴの右横に9を書き、さらに打ち消し線をかきます。

📍配置

❷基本形と同じく、長調(メジャー)の場合、第9音は第3音より7度以上上に置く必要がありますが、
第9音が予備されていれば、この規則は守らなくて大丈夫です。

❸属九根省の最適配置は以下の通りです。
《1転》 第7音高位の密集
《2転》 第9音高位の密集か開離
《3転》 第9音高位の密集か開離

《属九根省の最適配置》


実習課題では、最適配置になるための配分転換は積極的に行い、曲調に変化をつけましょう。
大胆に配分変換しても大丈夫です。

📍連結→

普通の属九と同じで、限定進行音を正しく進ませます(『シドファミラソ』)。

❹属九からⅠ度へ進むときは、
「レラ(♭)」→「ドソ」という連続5度ができやすいので、チェックすると良いでしょう。

(実践!の課題を解いているときも、何度かやってしまいました😅)


また、時々でてくる下記のような例外的な進行があるので、余裕があれば覚えておくと得です。

❺『属九根省2転+第9音高位の開離配置』の場合、例外的に「ファ→ソ」という進行をおこないます。

❻その他の属九根省2転→Ⅰ度1転の場合、上三声に「ミ」が登場してしまいますが、例外的に許容されます。


和音設定(バス定型)

属九の和音は、基本形は「ソ→ド」のときのみ使います。
(ただ和声課題では出番は多くなく、曲の真ん中などで半終止が起きている場合は、属七の和音を使う方がよいでしょう。)

属九根省のバス定型には、以下の3パターンがあります。

「シドレミファミ」と覚えましょう!



実践!

今回の課題はこちらです。
(洗足オンラインスクール 『和声の祭典』和声課題集Ⅱ 第2部 属九の和音 課題14の1番です。)

この課題では、属九の和音を3個以上使わないと減点されてしまうので、
初めにバス定型の部分を探しておきましょう。

ハ短調2/2拍子で、全部で15個の和音があります。


❶バス《ド→ソ→ド→レ→ミ》
   機能《T → D→ T→ D→ T》

バスが全体的に上行しているので、ソプラノは下行させたいところです。よって第5音高位(ソプラノがソ)の開離配置でスタートさせてみます。
2つめのバスが「ソ」なので、ⅤorⅤ7orⅤ9の和音です。ソプラノの「ソ」を「ソ」or「ファ」or「ラ」のどれにするかということですが、「ファ」だと次で連続5度ができてしまうし、「ソ」だと旋律に動きがなくなってしまうので、属九の「ラ」にしてみます。アルトとテノールは開離で配置します。
3つめのバスは「ド」なので、素直に1つめの和音と同じ配置に戻します。


4つめから5つめのバスは「レ→ミ」となり、「D和音→I度1転」というバス定型です。属九根省も使えますが「ソラソラ」というソプラノのメロディが微妙なので、「ファ」とすると、属七の根音省略形の「レシファ」が、前後のつながりから見て良さそうです。
このような『属七根省2転からの連結』の場合、例外的な定型の進行をとります。テノールの「レ」は「ソ」に進み、また1転の上三声に第3音「ミ」が登場してしまいますがOKです。(Ⅰ巻 p81)


❷バス《(ミ)→ファ→ファ→ミ》
   機能《 ( T )→ S  →  D  → T》

D和音の直前のS和音はⅡ度を使う方がよいので、Ⅱ度1転を配置すると考えると、ちょうど最適配置が使えました。
7つめから8つめは「ファ→ミ」という属九根省のバス定型なので属九を使います。この課題は短調なので、属九根省は減七の和音となり、配置が自由です。バスに反行させると「シ→ド」というラインが浮かび、それに合わせて内声を密集で埋めました。


❸バス《(ミ)→レ→シ→ド→ファ→ソ→ソ→ド》
   機能《(T) →S→ D→ T→S→ D→ T》

ソプラノを主音(ド)で終わらせたいので、後ろから作ります。「ソ→ソ→ド」という頻出の終止型です。最後から3番めのソが高いので、密集で配置して、規則どおりに配置・連結します(属七からⅠ度への全終止の上三声は5欠となります)。
その前の「ファ」はⅡ度一転の最適配置にしましょう(バッハなどによく登場する古典的な和声進行です)。


曲の前半部で広く音域を使えたので、後半部はあまり動きがなくても良いでしょう。「レ→シ→ド→ファ」というバスから、「レ→レ→ド→レ」というソプラノが浮かんできました。
前後の流れに合わせて、アルトとテノールを密集で配置します。



☆完成です!


別解答

今回は、前半部分に少し悩んでしまったので、配置が良くなかったかもしれないと思い、別の配置でもスタートさせてみました。

☆第3音高位の開離スタートです。こちらの方がテノールの旋律もいい感じになりました。
☆根音高位の密集スタートバージョンです。4つめ以降は同じですが、こちらの方がより印象的なソプラノになったと思います。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

さくら舞🌸



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