見出し画像

腹はらはら

どうしようもなく落ち込む瞬間がある
生きていたくないような瞬間
私の全てを否定されたかのような瞬間

わたしの心拍数は上がり続け
このまま心臓が爆発するんじゃないかと
不安になる


そんなとき私は
目を閉じて
夫の腹を思い浮かべる

ズボンの上に乗っかった白い腹
ワイシャツのボタンが引っ張られて
中の肌着が顔をのぞかせる

歩く度に
たゆんたゆんと波打つ腹

針を指したら
パンッと音を立てて破裂しそうな腹

私の心拍数は一気に正常値へと戻り始める

あの白い腹は私が作り上げたものだ
来る日も来る日も飯を作り続け
その私の飯を喰らいつづけた腹

大してうまくもないのに
「今日も美味しゅうございました」と
食べてくれるあの人

この世でたった一人
私のご飯を待ってくれている人
美味しくもないのに
喜んで食べてくれる人

例え世界中の人が私を受け入れなくても
私の飯を頬いっぱいに詰め込みながら
貪るあの人がいるならば
私はそれで良いと思える

私の生きる意味なんてそれだけで十分だ
それに気付かせてくれる
ぷくぷくの腹

風船のように
飛んで行きはしないだろうかと
はらはらしながら夫の腹を眺める

うん
今日も絶好調だ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?