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大人げないったらない

 なんとなく納得できないまま反論もできずに受け取ってしまった言葉というのは、なかなか忘れられない。先日も、なぜだか20年くらい前にあったことを思い出し、どうしてあんなふうに言われなきゃならなかったのかと、ネチネチと考えてしまった。思い出したって今更なんの教訓にもならないようなことを、どうして思い出すんだろう。

 言われたことを説明するのは少し面倒なので割愛するが、いわゆる「考え方の違い」なんだろう。その人(Aさん)のことは嫌いじゃないし、悪い人だとも思ってはいないけれど、生活圏が離れてからは積極的に会うこともない。そういう「知り合い」だ。

 さて、そんなAさんのことを久しぶりに思い出した次の日のこと。自宅近くの緩い坂道の途中で、前から自転車が2台やってきた。見通しもよいので、2台並んで話しながらやって来る。車が来たらどうするんだろうとぼんやり見ていたら、どうも左側の人のシルエットに見覚えがある。そう、この流れからお分かりの通り、Aさんだった。5、6年ぶりじゃないだろうか。

 私は懐かしさに「わぁー」と声を上げ、ブンブン手を振りながら「久しぶり〜!」……と、言うこともできた。そうしていたらよかったのにと、今ちょっと思っている。でもその時は前日に思い出した記憶のせいか、すっかり心が閉じていて、視界には入っていても焦点を合わすことができなかった。Aさんかな? いや、Aさんじゃないかもな……と、自分で自分を騙してただぼーっと前を見ていた。

 彼女は連れの人と話しながら視線だけこちらに向け、通り過ぎるときにかすかに会釈をしたように見えた。私が目を合わさないので、あちらも半信半疑だったのかもしれない。書いていてだんだん恥ずかしくなってきたけれど、それがその時の私の正直な気持ちだったんだから仕方ないな……

 それにしても、だ。 たまたま久しぶりに思い出した次の日に偶然会うってどういうこと? それとも、今回はたまたま前日に思い出して記憶の浅いところにあったから気づいただけで、普段から人の顔をあまり見ない私は、知らない内に「知り合い」としょっちゅうすれ違っているんだろうか。…ちょっと待て。右側の人の顔は全く見なかったけれど、知っている人だったということはないだろうか。

 巷では「あの人は挨拶をしない」と評判かもしれない。ま、いいんだけど。