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セメダイン風船

忘れていたことさえ忘れていたようなことが、遠い遠い記憶の彼方から、まるでひと時も忘れたことなどなかったみたいに光速で蘇ることがある。

「あれってたしか駄菓子屋でも売ってたよね。アタシたちの方では風船玉って呼んでたけど。あれって基本、セメダインじゃない?  少なくともガラスではないよね。風船ガムみたいに、セメダインの匂いがするかたまりをストローの先にあてがって膨らませるのよ」
—『おやすみ、東京 (ハルキ文庫)』吉田篤弘著

あったあったあった!!

ここを読んだ途端、セメダインの匂いや、膨らませた時の手触り、すぐシワシワになって、液体もじきに固まってしまうこと、そして、それを遊んだのが、子供の頃に住んでいた家の二階の畳の上だったこと、明るい日差しまでも思い出した。

私は何と呼んでいただろう。「風船玉」だっただろうか。名前には懐かしさを感じないから、それこそ忘れてしまった?

Wikipediaには「風船玉」とあった。製品的には「酢酸ビニル風船」なんだそうだ。メーカーによって商品名は違うらしい。

いや、名前はいいのだ。あの細いストローの先に粘性の液体を丸く塗りつけて、そっと息を吹き込んで膨らませたことと、あの匂いが懐かしい。そんなに上手く円にはならなくて、歪になったり、潰れてしまったり……で、すぐに飽きてしまうんだけれど。その潰れたのを指先でくにゅくにゅ丸めたっけ。

昭和の遊びだ。既に過去の遺物なんだろうと思ったら、今でもちゃんとあるらしいから驚いた。

それじゃあ、さっそく手に入れて、久しぶりにやってみようかな!

……とはならないものよね。

ああーーー懐かしい! って、思い出したその瞬間が最高。