避けたのか避けられたのか
山が好きなヤマズキさんという仕事仲間がいる。私より10歳くらい年上だが、男性は貴重な存在だし、年齢が近い分、年配の生徒さんたちにも慕われる。
一年ぶりくらいに、そのヤマズキ氏と同じ現場になった。
講座が終わって生徒さんを送り出した後、他の女性仲間二人は着替えもゆっくりだし、お喋りも長くてなかなか帰り支度が整わない。私はひとりでさっさと帰りたい方なので、「お先に失礼しまーす!」と言って部屋を出る。ヤマズキ氏はいつも、いつの間にか消えている。
そうして、私たちは最寄りの駅のホームで出会うのだ。(って、示し合わせてるわけではないよ)
「おつかれさまでした」と改めて挨拶をして、なんとなく一緒に電車に乗れば、あれこれと話も弾むし楽しい。2回目の乗り換えで先にヤマズキ氏が電車を降りるから、30分ちょっとの同行である。
それじゃまたと手を振って、分かれて一人になるとほっとする。たぶん、ヤマズキ氏も同じだろう。だからこそいつも、いつの間にか先に教室を出ているんだと思う。
さて次の時、私が会場を出ると、前方をヤマズキ氏が歩いている。私はいつもとは別の道を行くことにして、後から駅に向かったつもりが、最後の信号待ちの時に後ろから来たヤマズキさんに追い抜かれた。すぐそばをタタタタっと。
立っていたのが私だと気づかなかった? いや、気づくでしょう、特徴的な荷物があるし…。気付いたんなら「お先に」くらい言ってくれてもいいのに、やっぱり気づかなかったのかな。……と、モヤモヤ。
そうして、私たちは駅のホームで出会うのだ。
……ということになるから、私はいつもと違う階段を降りて、いつもと違うドアから乗った。次の乗り換え駅では、ホームを歩いているとヤマズキさんがいるのが見えたから、私は気づかないふりで後ろの方を通って、離れた車両に乗ることにした。
知らないふりはお互い様だ。(本当のところはわからないけど)
と思うけれど、なんだか悪いことをしているような気持ちにもなる。
全然、一緒にいるのは嫌ではない。
でも、特に話したいということもない。
なんてったって、ひとりの方が気楽だし、ほっとできる。
疲れているから黙っていたい。座れたら目も閉じていたい。
さてさて、次回はどうしたものだろう。
あの人やこの人の動向を気にせずに、スマートにひとりで帰りたいものだ。