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ふられり

ピアノのレッスンの後のホッとした気分で近くのカフェに寄り、本を読んだり、文章の下書きをしたりしてひとりでのんびり過ごすのが好きだった。家に帰る前の、家事をせずにいられる自由な時間が好きだ。

けれども、このご時世もあってまっすぐ家に帰るようになり、一年以上、横目で店の中を見ながら通り過ぎるだけだ。過去の自分を店のテーブルの前に思い描くと、なんだか今より余裕があって心も充足しているように思える。でも、それは錯覚だろう。単に習慣が変わっただけなのだ。……というようなことを以前ブログの方に書いた。

寄ろうと思えばいつでも寄れる。ただ、今はそんな気にならないだけ。そう思っていたのだ。

ところが今日、いつものようにそのカフェの前を通ると店は閉店していた。窓にはベニア板が貼られ、過去の私を覗き見ることもできない。「ええー?」と声が出そうになった。

あるのに寄らないのと、ないから寄れないのでは大きな差がある。好かれていることに乗じて素っ気なくしているうちに、いつのまにかキミは他に彼女を作っていたのね、みたいな。私が振るつもりだったのに、これじゃ振られたみたいじゃないの、という感じだ。

来週からどうしたらいいんだろう。レッスンの後、どこでホッとしたらいいんだろうと考えてしまった。

今日だってまっすぐ家に帰るくせに。

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