さなコン2 感想 72 - 95

前回の続きです。

 4ページ目、24作品。コンテスト的にどうかって言われると微妙だけど、本ページでは「対決 | あああ」で爆笑してしまった。台詞の切れ味が抜群。
 その他の作品としては、UX設計がよい「人類の声 | あぼがど」と、SFに囚われていると出て来ない発想で驚かされる「ハルシネヰション | 和泉アリオ」、そしてゾンビ映画を援用して現実を皮肉る「ゾンビは夢など見ない。だから | 石田空」の3作がピックアップ対象。このページは当たりが多いものの、ドカンと来る作品はなかった。惜しいね。

忘れられない物語、そして、 | Re:I -零-


課題文から始まる作品を探して、古本屋で働く主人公の話。世界滅亡後で、何者かの独白が入る。
ほぼこれだけの話で、人類の滅亡の仕方も取ってつけたような雰囲気が否めない。ラストのテキストもひらがなと漢字の開き方に無理がある。
日常パートをもっと丁寧に描いた方がいいし、この最後を存在させるなら、そのためにもうすこし紙数を費やすべきなのではないかと思った。全体として、話の繋げ方に難がある。

“生”にしがみつき僕は生きたいと願った | チョコ(ちーくん)

世界が(また)隕石で滅びる。主人公は救われる側に選ばれ、生き残る。生き残る際の展開が胸を打つ。字義通りのお話なので新鮮な驚きはなく、展開的には生への渇望を強く感じさせる感じではない。
せめて主人公が生にしがみついてあがくさまをもっと深く描写されていれば、と思うのだが、話の展開がこのままだと、どのみちそこまで深くはならなそうだなという感じもする。ラストシーンの描写がよかっただけに、冷静に振り返るべきじゃなかったかもしれない。

惹句に愛を込めて | まふー

まさかの現代ドラマ。
課題文をキャッチコピーとして用いるという発想はなかった。結果としてのびのびと書いてはいるが、ドラマとしての厚みはそれほど感じなかったので、発想に対して物語がついてきていない印象。ひとつひとつのシーンに対する描写が薄く、小説として読むというよりかは、長いあらすじを読んでいるような体験になってしまう。

魔法使いの歩く時間、王子様の止まった時間 | 猫隼

話の内容的があらすじを読んでも頭に入って来ない。そういうタイプの話で、結構読むのにエネルギーを使う。
ファンタジー世界とSF科学的世界が融合したような作品。残念だけど読んでて何が書いてあるのかよくわからなかった。だからこれをどういうふうに遇すればいいのか不明である。

墓守人形の眠るまで | 顔付き豆腐(名前変えました

墓守として作られた人形が新たな人形を生み出し、それが新たなる人類として新たな世界を形作るまでを描く。
非常に簡素な文章で淡々と書かれているおり、ボリュームも少ない。そうであるにも関わらず、じんわりとあたたかな印象を受ける作品。わかりやすいことと、感情の温度を伝えることが同時にできていることは素晴らしい。
ただ、この作品はラストの文章でレギュレーション違反を発生させている。直さないとコンテスト作品としては失格となるので、気づいてくれればよいのだが。(20220522)

二人だけの王国 | くろ

父と子が生き残りを探して放浪する話。父は科学者だった嫁の幻影を見て思い悩むが、それと対比するように子供が無邪気に描かれ、それが救いとなっている。
細かい文章のおかしさ、矛盾をはらんだ記述が多い。もうすこし精査した方がいいだろう。物語の筋も普通だったので、あまりいい印象を受けない。もうすこし大切に書かれていて欲しかったかな。

アカシャブレインによる例の一文について | 一匹針鼠

アカシックレコード(アカシア記録)を使ったSFだが、婉曲表現が多すぎて何が書いてあるのかわからない。おそらく非人道的方法でアカシャブレインは作られているのだが、それを作ったのが何者なのかもわからずに消化不良を起こしている。
細かいことなのだが、アカーシャ記録という単語を使っておきながらアカシャブレインという呼称を使うのがなんでなのか気になって仕方がない。こういうくだらんことで読み手の気は散ってしまう。ちなみにwikiではアーカシャ記録という記載が載っている。私はアカシック・レコーダーという曲が大好きなので、こういうもん読まされると普通に粘着するぞ。

とある四つの星のお話 | 湯屋

四つの星それぞれのひとたちが繋がって交流する物語。個々の星で描かれる情景や世界背景は美しいと思うのだが、肝心のコミュニケーションシーンが、誰がどうやって話してるのかわかりづらい。()【かっこ】の使い方もどういう法則によるものなのか掴めなかった。そして開幕レギュレーション違反。
細かい瑕疵を取り除けばもっとすんなりと受け入れられたのではないかという予感がある。もったいない作品だ。

対決 | あああ

ダメこれめっちゃワロタwwwww 意外とシリアスで枯れた文体から、時折繰り出されるギャグで頭がおかしくなりそうだった。「シュミ デース」でもうマジで無理。オチも「終わったああああああwwwwww」でよかった。
ゲラゲラ笑ってしまったのでスキした。疲れた時に読むと元気が出る。

杪夏 | apolly

話の大筋は仮想現実で生きる主人公と、そんな主人公を活かそうとするAIの物語。ありきたりな筋だが、主人公の真っすぐな思いが青春を感じさせる。でっかく見ると、エンドレスエイトに近い展開ではあるが。
別ページのラストにはドキッとさせられた。荒っぽいが、そんな作品も悪くない。この作品は主人公とAIとのラスト付近に至るまでの物語がもっと濃密であれば、より高い評価を受ける作品になっていただろうな、と詮無きことを思う。

FOR GOOD | 貞久萬

書いてあることが難しすぎるシリーズ。ナノマシンの説明だけで蹴り飛ばされる感じがする。話の筋的にはおもしろい。意識不明となった娘のために、他人の意識を乗っ取る(そうは書いてない)話で、ここだけがすんなり入ってくればな……。
この手の話については、長編ならば全体の中のほんの一パーセントに過ぎない説明が、掌編では二割三割と紙数を持っていってしまうことに留意すべきだ。それがたとえ物語の中枢だとしても、読み手が先に進めない結界を形成する恐れがある。

アドミン | 草村のなか

人類以外のすべての生物が死滅するような現象が発生し、人々は眠りながら環境を復活するための中和剤ができるのを待つ。この話はそれを実行するためのAI視点の話だが、中和剤の生成に失敗してしまう。
AIは状況に悲観し、人類を巻き込んで自爆する。
自我が育った結果、自殺と言う手段を取るのは人間らしい。話としては普通だ。

最後の人類 | Pulmo

二十億光年先に樹があり、その樹にすべての人の人生が集約されていき、知覚される物語、その樹が倒れた時に人類は真の終焉を迎える。アイディアはすごいが、地の文でつらつらと書かれている物事をストーリーとして捉えるのはちょっときつい。設定が並べられているのを摂取しているような気分になってしまった。結構いい話が書かれているはずなのだが、小説として読むとどうかな。

ポストたちのみる夢 | ぱらしゅー

妙な余韻の残る小説。人間のあとに残されたロボットたちが人間たちを玩具にしているのだが、ロボットのうちの一体がなぜか人間に執着する。ラストシーンも含めて謎だらけ。
人間たちがどのような物理的状態変化も受けなくなったというのは、おそらくエネルギー状態が不変となっているのでは、という気がした。エネルギーの変化が完全に停止していれば、あらゆる物理的影響は受けない気がするので。でもそうすると人間たちでお人形遊びをしてるシーンとかのつじつまがまったく合わん。まったく、不思議な小説だよ。

人類の声 | あぼがど

乾いたような文体と、淡々と綴られる事実。そして無常を感じるラスト。これはなかなかいいストーリーだった。人類という単語の取り扱い方にも工夫がみられる。いいね。
こういうのが人気なのね、って思わせるところもあって、この作品は参考になる。その一方で、語られている内容そのものに新規性があるかと言われると、それはあまり感じない。それがなぜなのかは私にもわからん。ただ、UXはいいはずなので、これは読んで損がない。

おやすみなさい、人類 | 金銀花

むちゃくちゃ悲しい話。アンドロイドから見た人類という内容だと読んだ。主人公が人類の生体を知らず、永遠の眠りにつくのにわけもわからず「おやすみなさい、人類」と伝えるシーンがいいですね。
ここから数値が伸びてくるタイプの作品かというと違うというか、まだ伸びしろのある作品だと思うけど、発想と視点がいいので、その部分を大切にして欲しいと思った。

ハルシネヰション | 和泉アリオ

塩が降ってくる世界。その塩が錆を生み、その錆を吸った人間の肺は壊れ、死に至る。この病を治す方法は愛する人の心臓を食べること。恐ろしく耽美的な世界。
これはすごいな。設定の独自性がいまのところ抜きん出ている。惜しむらくは、最初は幻想小説風味が強い描写だったのが、徐々に普通の恋愛小説になっていき、あっけない締めに収束してしまうところだ。応援の意を込めてスキした。どう伸ばすかは作者次第だが。

そーゆーふーに、できている! | はるかなつ

ちょっと話の構造が難しすぎて、俺が話についていけない。でも「記憶術」は別のものを連想して、ふふっ、ごめん。財布ないわ。
人を寝かせる、寝かせた個体の夢が現れる、その夢を見ている人のことを観測する、というような形で話が流れて行くのだが、ここからどうやって課題文に繋がるのかさっぱりわからない。
磯野! 私にもわかるように説明しろ。

僕が早めたさだめの果てにて | ライア

真の永遠――に近いものをもった主人公が人類を看取る。というような形の話。内容を精査すると、単なる死では――というような気がするが、一応、死ではなく眠りという形で課題文を消化している。うーん。なんかよくわかんないなという感じだった。

伝わらない男 | 横倉 悟

クズ男が他の惑星に移民して、その先で死んでいく物語。なんでラストの課題文に繋がるのかがよくわからなくて、フムン、どうしたものか。私にも伝わってないです。この物語のことが。取ってつけた感かもな。

求める答え | rintaro_game

へへへっ。ちょっとワロタ。ラストの一文でね。それ以外は中身がなさすぎてなに言っていいのかわかんねえよ! インスタントすぎるだろうが!

その感情というもの | 佐島瑞希

演劇を題材にした青春小説で、地球人類が滅びた時の感情をどうやったら知れるのか。この題材は面白いのでどうなるのかと思ってた。なんだこのラストはよおおおおおおおおおおおお!! デウスエクスマキナじゃねええええええええか!!
俺のこの感情を、どうやったら伝えられるかを考えている。ボク、サクラクロニクル。いまあなたの近所の秋葉原、サトームセンにいるの。

ゾンビは夢など見ない。だから | 石田空

主催ゾンビ!のお手並みを拝見させてもらうゾンビ! 初のゾンビテーマの作品が登場。不健全生活をしている人たちが、ゾンビたちの様子を見て羨ましく思うくだりに皮肉が利いている。これはよくできていて、評価を受けそう。分類としてはゾンビテーマのショートショートとして見た方がいいだろうな。

静かなる大侵略(予告編) | 夏川冬道@胡乱型

ナルコレ星人(ナルコレプシーから取ったのかな?)が地球を侵略するが、どっかで聞いたことのあるようなやつらが彼らを待ち受けていた! という映画の予告編だけが上映される作品。それだけ。パロディは面白いんだが…
この映画の予告編だけが何故残されているのかとか、よくわからないことが多いオチなので、予告編として期待感を煽る部分はいいかなと思うけど、他がよくない。

というわけで以上です。
お読みいただきましてありがとうございました。

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