71.別人の存在
彼が要求してきたのは
・出た本数とでた媒体を正直に答えること
・どういうプレイをしたかを正直に答えること
でした。
意味が分かりませんでした。
そんなものはDVDを見れば一目瞭然ですし、DVDになっていない配信だけのものも、女優名で検索すれば済む話です。
「見てないの?」
そう聞くと、今現在配信になっている動画、販売済のDVDは見たと言います。
「じゃ、意味なくない?時間の無駄だよね?」
そう言うと逆に彼から、発売順、配信順でプレイ内容について聞き返されました。
快楽に反応し始めると記憶が途絶えていた私に、答えられるわけがありません。
「覚えてないのか?」
頷いた私をみて彼は小さくため息を付きました。
私と付き合う中で、怒りや悲しみなど負の感情に襲われている時だけではなく、その場では大喜びしたことや、楽し気に振舞っていたことなど、二人が共有した出来事を私が全く記憶してしないことが多々あり、彼は前からおかしいと思っていたと話し始めました。
最初DVDを見た時は、経済的にも精神的にも支えていると自分自身では思っていた男としてのプライドをズタズタにされ、怒りに震えたそうです。
でも数本見ているうちになぜか確かにこれは私であって、私ではないと感じ繰り返し見るうちにその感覚が強まったそうです。
するとその場では普通に振舞っているのに覚えていない私の状態にも思い当たったそうです。
「俺は心理学とか精神病とか全くわからないけど、よく聞くハッキリとした二重人格ではなく、時々桜瑚は周りの人には違和感がないような別人になっていると思う」
彼はそう言って言葉を切りました。
不思議なことにそれまで私は自分の記憶の欠損について、不思議だけどそういうこともあるんだなという感じでなぜか自然に受け入れていました。
でもよく考えたら、彼の指摘の通りかもしれないと思いました。
記憶が途切れていてもそこで失神して倒れているわけではなく、普通に会話して体も動いているのも、そう考えると辻褄が合います。
「病院行ったとしても桜瑚も気が付かないようにそいつが出てきて、周りの信頼を得て治療なんて不要だという風に持っていくだろうから意味ないと思う」
じゃあ、この人はどうするつもりなんだろうと思っていると、彼はカバンから私のデビュー作を取り出しました。
「もし、本当は覚えてるのにしらを切ってるなら今ならまだ間に合うから、正直に覚えている範囲で中身を答えて欲しい。
本当に覚えてないなら、これを見せて思い出させるまでだ」
そう言うと彼はプレイヤーにDVDをセットしました。
「もう一人のやつは、桜瑚にこれをみられたくないと思えば表に出てくるしかないだろうからな。
さあ、どうする?話すか見るか、どちらかだ。
5分だけ待ってやる」
話せと言われても、覚えていないものは話せません。
でも話さなければ、見たくもないものをしかも彼とともに目にしなければならない…
時間は過ぎ、タイマーがなると彼がリモコンを手にしました。
画面が切り替わり、エピローグなのか私がインタビューを受けている画面が映し出されました。
私は呆然と見ていました。
記憶にないシーンでした。
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