心をうごかされたライン

「あなたが退職願い出して帰ったって主任から泣きながら連絡きたんだけど、何がどうなったの?」

Rさんは単刀直入に聞いてきました。

「これまで園の為、入園してくれた子ども達の為と思って自分の職域以外のことも園の運営が滞らないように仕事してきましたが、園長の職務怠慢とパワハラに絶えて仕事をしていくことがアホらしくなりました。
仕事をこなす人間ではなく、園長は自分をちやほやしてくれるイエスマンが欲しいだけですのでどうぞお気に召す方を雇ってください」

おとなしかった学生時代の私からは想像がつかないくらいこの頃の私は、相手の立場がどうであろうと自分の言い分を多少言えるようになっていました。
その理由として自分なりに考えられるのは
〇子どもをひとりで育てるには、なめられないように強くならなければいけない
〇若さと外見でちやほやされる時期が過ぎた時に、仕事をする上で何のスキルもない人間になりたくない
この2つが大きかったと思います。

複数の事業のトップであるRさんは、トラブルには慣れっこなのでしょう。
私の歯に衣を着せぬ言い方にも動じず

「電話ではなく、一度対面して話をしましょう」
と日時と場所を指定してきました。

Rさんとは料亭の個室で会いました。
男性と2人きり、しかも個室という状況はこれまでの性被害を思うと正直怯みましたが、服装はパンツスーツにし、ジャケットの胸ポケットにはライターほどのボイスレコーダーを仕込んで出向きました。

Rさんは園長と話しをする前に、私の仕事ぶりを繋がりのある他事業の責任者の方々に聞いたそうで「辞められたら困る」と言ってきました。
ある事業所の方は、そっちを辞めるならうちで迎えたいとも言ってくれたそうで、わかってくれている人達がこんなにもいたことに多少報われた気がしました。

「退職願いは受理していないから考え直してくれ」
最後に深々と頭を下げられ、個室を後にしました。

帰って来たあの日以降、何人かの先生達からは労わりと励ましと、戻ってきて欲しいというラインをもらいました。
その中にひとつ、とても印象に残ったラインがありました。

「どうせ辞めるならもっと仕事覚えて、役場にも県にもこの園で仕事分かってる本当のトップは自分だと認められてからにしたら?今まで必死に頑張ってきたのに勿体ない。園長の仕事も主任の仕事も経理も事務も保育もできるって無敵じゃないの」

定年後再雇用で稼働している先生からのものでした。

それから数日後、Rさんに退職願い破棄の連絡を入れました。
その翌週に出勤すると先生方が「春子が帰ってきた!」「春子、おかえり!」「気が付かなくてごめんね、春子」等々、涙ぐんだり抱きついてきたりしながら迎えてくれました。

私は先生達に、篠原涼子さん主演「ハケンの品格」の大前春子と秘かに言われていたことをこの時初めて知りました。








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