47.反対された結婚

その外泊の時に、両親に彼の事を話しました。

父はしばし何かを考えるようにしていましたが、特にこの時は何も言いませんでした。

その後順調に外泊を重ね、当初の退院予定日より早く退院することになりました。

退院してからも、薬をもらいに通院することになっていましたが服用している間の脳内に膜がかかり思考が緩慢になるような感じでは仕事に就いてもうまくいかないだろうと思い、親には通院していることにして二度と行きませんでした。

過食嘔吐は続いていましたが、治ったから退院したと両親は思っているので自宅でするわけにはいかず、車で出かけて車内で過食し商業施設のトイレで嘔吐していました。

退院してほどなく、彼は私の両親に将来を見据えての挨拶に来ました。
父は愛想よく応じており、和やかな雰囲気で会話が広がりましたので、これで大っぴらに彼と外泊も外出もできると思いながら彼の車を見送って家に入ると父が難しい顔をしており、母はどこか申し訳なさそうな視線を私に送ってきました。

私が座ると父は
「付き合うのはいい。でも結婚となると話は別だ。
桜瑚にはもっといい人がこれから出るから、あの人はやめなさい」
と先ほどの対応からは想像もできないことを言い出したので、私は面食らっって返事ができずにいると、母から
「あの人自身は素直だし、人柄も悪くはないと思うんだけど……あの人離婚歴があるってあなたに話してあるの?」
と聞かれました。

寝耳に水でした。首を横に振りながら、私はあることを思い出しました。

彼と映画を見に出かけた先で、近寄ってきた女性に彼は声を掛けられました。

その時の彼の様子がとても不自然な感じなのにも関わらず、その女性は私に親し気に「こんにちわ~、彼女さん?ずいぶん若いのね~。あなた気を付けてね、この人…」と声を掛けてきました。
すると彼が私の手を引き挨拶もなしにその場を足早に離れました。

手を引かれながら、振り向くと女性は私達の方をまだ見ていました。

その後彼に聞いても、「知り合い」としか答えてくれず、その人と一体どういう関係だったのかは分からずじまいでした。

離婚歴と聞き、その女性が前の奥さんで、その人が言った「気をつけてね」という言葉が意味するのがなんであるかを両親は知っているのだと思いました。

父は彼について独自に色々調べたらしく
「嘘をついているのは離婚歴だけではない。問題は親だ、結婚するのはやめなさい」
と言い
「きっと嫌われるのが怖くて言えないのかもしれないね、嘘つくつもりはなくても」
と困り顔で私を見ました。

彼の両親へ何度か会う中で、私はなんとなく違和感を覚えましたがなぜプロポーズを断らず、結婚へ突き進んだのかは自分でもはっきり分かりませんが

・退院する為に、彼の好意を利用し感謝を上回る罪悪感があったから
・仕事ができると幼馴染みから聞いていたから
・親への反抗心
・東京で別れた彼以外であれば、誰でも同じだと思ったから

考えられる理由はこのくらいで、その中でも「親に反対されたからこそ、やり遂げて成功させてみせる」という気持ちが強かったような気がします。
遅れてきた反抗期のように、結婚はやめなさいと言われれば言われるほど私は結婚話を進めていきました。

私の両親はどうせ別れると思ったのでしょう。
結婚式を行うことには同意せず、彼の側だけは親戚一同を集めて結婚報告会のようなものをしました。

その場に行かないわけにはいかず、私は両親とともに参加しましたが、まるで私や両親の存在は無視され、彼と彼の父親を親戚中がお世辞で盛り上げるというなんとも異様な会でした。

帰宅の車の中で父から、自分達ら金輪際向彼の両親と関わるつもりはないし、子どもができる前に早く別れなさいと言われました。

婚姻届けを二人で出しに行く時に、彼の両親は私達がちゃんと出すのかを見届けにわざわざ市役所までついてきました。

そして、この日を皮切りに彼の両親の異常さが日に日に目につくようになりました。




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