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こごえる夜は、こんなふうに

すっかり辺りが暗闇に沈んでしまう夜。
外に出た途端、身構えていてもぞっとするほどの空気のつめたさ。
このごろの寒い日の帰り道には、どうも気持ちが憂鬱になってしまいます。

しかしでも、そんな日にも少しいいことはあるのです。

なぜなら、そういうときこそ、干し柿を最高においしく食べることができるタイミングだからです。

そのためにもまず、干し柿を持ちましょう。
そうですね、寒い季節には常に1日ひとつはあるといいかもしれません。
ラップにくるんで、ポケットにひとつだけ。

寒くて憂鬱な帰りみちの日は、
暗くて人気のない場所をあるくタイミングをみつけつつ、ポケットからとりだしたそれをすこしずつかじるのです。

そうしますと、空腹だったこともあり、また寒さから意識を逸らそうと、口にはいってきたその甘いカケラに身体中の神経が全集中するのがわかります。

するとどうでしょう。ざらりとした外側、ゼリーのようにやわらかな部分、たね周りのところどころ歯ごたえのある部分、じつに様々な食感があることがわかります。
そしてその噛みちぎった欠片からは濃厚な甘みが、じんわりと舌の上にひろがっていきます。からっぽだったおなかにもその味わいはあたたかく、こごえていた心を溶かしていくようです。

こんなふうに干し柿のおいしさにうっとりしている間もつめたさは感じるのですが、頭のなかは干し柿おいしいなぁという感情でいっぱいになり、その間は憂鬱にならずにすむのです。

まったりと濃厚なあまさの干し柿。家で食べると甘すぎてくどいと感じるひとにも、
こごえる外ではおいしくたべられるかもしれません。

冬にみつけたライフハックです。
さむくて辛い日、わけもなく心細く、どこかに消えたくなりそうな日に。

つめたい空気の中であじわうささやかなご褒美は、心にすこしだけ寄り添ってくれます。

もうすこしあたたかい春がくるまで待ってみよう、と思えるのです。

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