傑作・高校生クイズ2021

 「第41回全国高等学校クイズ選手権」は同番組の長い長い歴史の中でもかなり面白い部類に入ると考えられ、なぜそう思うのか書き上げたのがこの文章です。ネタバレあり。

 たとえば「テーマの一貫」は大きいと思われます。「ソウゾウ脳」というワードが出たときには若干ざわつきましたが、いざ始まるとこれがまさに良いテーマ。
 まず「これをやってみるとどうなる?」と高校生が想像するシーンが多くありました。アイテムを使ったり部屋のものを触ったり、手当り次第にいろんなアイデアを試すシーンで、「トトトトトラ~イ!」というキャッチフレーズと合わせて納得度が上昇しましたね。
 また、2回戦/決勝を勝つためには「装置を創造する」ことが必須。地頭力時代にも「アイテムを組み合わせる/分解する」程度の「具現化」はあったのですが、今回は「選別機」と呼ばれる既存機械を即席で用意(車輪の再発明)したり電気の力を借りたりと、より「ものつくり」に特化していたと感じます。
 「ソウゾウ力」で良かったのではないか(『脳』ねぇ……)というのはありますが、全体的に「地頭力」よりもスッと入ってきました。

 また「"知力ベース"の拡大」もポイントだったと。体を動かして解く問題では、「テレビでやっていた」「本に載っていた」ような「見たことあるアレ」を再現できれば正解となる……というルートが舗装されていたと思います。また準決勝で筆記&早押しというのは、後述しますがこれまでと大きく異なる傾向。そうして出題された問題にも「この日付を知っているか」「ここはどういう都道府県か」という知識を問う要素があって、それと想像力とをミックスする塩梅がよかったと思います。それだけに1回戦の短さはやや残念。3問誤答で敗退、というのはけして厳しくはないのですが、何十問もできる形式だけに惜しさが残ります。

 知力が問われた一方で「高校生たちの全力」も見どころ。特に2回戦、スマートなアイデア一本で攻める「知」の高校生が活躍して勝ち抜いた一方、結果に恵まれず「体力」や「運」に頼って祈り続けたチームもちらほらいたのが、「知力・体力・時の運・チームワーク」の高校生クイズならではだと映りました。そういうチームの感情絶叫、これぞ高校生クイズなんですよ。
 ちなみに地頭力路線になってスタッフも大きく変わっているのですが、それと同時に、高校生をしっかりピックアップするようになったというイメージがあります。ここらへん、現高クイのかなり信頼できるポイントです。1回戦でも50校をできるだけ多く見せようとしていたのはよく見えました。

 また個人差が大きそうな着眼点だと思われますが、今回、地頭力路線からみてはじめて、「すべての問題が均一」なのが良かったと思いました。同じサドンデス筆記問題、同じ仕分け問題、同じ条件で増えるカウンター、同じ問題が出る解答席、同じトロフィー。同じ問題に挑戦したチーム間の差で勝敗が決まったわけですね。
 これまでの大会ではどこかに「チームごとによって挑戦する問題が異なる」ステージがあり、それらはくじ引きで決まるのが常でした。時の運といえばそれまでなのですがその結果の差が激しいと思われたのも事実。今回は終了後に若干残るモヤモヤをも(ないとは思いますが操作の可能性とかも)晴らしたわけですね。良いことだと思います。ちなみに自分は、運は知識の多寡を前提としたうえで、その後に加えられるべきエッセンスだと考えています[ex.多答クイズの正解数だけ抽選・早押しクイズに正解したら抽選]。

 ここで、過去3回の地頭力路線の回と今回、計4回のステージを列挙してみます。

スクリーンショット (233)

 黄色地は参加者が身体を動かして解く(やってみるまで結果が確定しない)クイズで、青地はそれ以外と判断したクイズです。
 今回は放送時間が約80%になり、ステージ数もコンパクト。しかし不足感は全くありませんでした。そもそもこれまでが若干多いな(=各ステージが駆け足だな)と思っていたのもありますが、準決勝の存在が大きいのかも。これまで受け継がれていた「ファインド・ザ・ルール」「迫りくる二択ウォール」「サバイブ・ザ・4ゾーン」の「ひらめき系の系譜」を絶った今回、代わりの"青地"に入った準決勝は、形式こそバリエーションがやや少なめでしたが、問題数は多めで、質も良かったと思います。先述3つの「ひらめき系」の欠点は視聴者目線で若干ダレること。一度分かってしまうとそれまでですからね(それを裏切る構造の問題もあるにはありましたが)。それを質高めな10問に置き換えたのがナイスだと。

 ここからはいい問題をピックアップ。今回の白眉は3回戦、「謎のカウンターを100にしろ」ですね。ありとあらゆる「仕掛け」の部屋に3校が集結するという、これだけでワクワクする画面。そして何よりびっくりな答え「水槽の金魚が水草を通過する」。この答え(裏切りともいえる)は、「トライして突破した2回戦」(もしくは、『これまでの「高校生クイズ」』)を前提にしていたと考えます。つまり「高校生が知恵を絞り、行動し、うまくいく」という成功体験をボール仕分けなどで植え付け(増幅させ)、この部屋でも実際にいろいろなアクションを起こさせ、その上で開始後しばらくのカウンター増加は全く関係なかったわけです。「何をやっても思うようにならない」という状況での「想像」が答えにつながるのがシビれました。団体戦形式もGOOD。一蓮托生となった9人の敗退シーンも合わせてよかったです。チームごとに9回やったらカットは必然ですしね(自分は高校生の活躍がカットされるのが好きではない)。
 準決勝の「Go To」もよかったですね~。時事クイズ×発想。自分の好きなクイズ組み合わさっちゃいました。そして決勝は画がいい! 画がいい「高校生クイズ」の決勝といえば2018年「ビヨンド・ザ・ウォール」での「身長の3倍くらいある壁を乗り越える」ですが、それを連想させる「クソデカトロフィーを引っこ抜く」という画! 素敵です。

 総括として、非常に面白かったクイズ番組でした。
 以前自分は、「高校生クイズ」について書いた文章の中で、クイズを「答え(唯一でなくともよい)がある設問に、知識や経験、発想を活かして解答すること」としました。そして番組に対し、「『クイズ』という言葉の持つ意味を限界まで拡大しながら、クイズをやってくれる」と期待しました。

 今回、この期待は、上回る形で実現しました。知識や経験、発想を活かして解答する高校生たち。挑戦、成功、そして裏切り……。様々なクイズを見せてくれたこの番組はフロンティアです。
 およそ40年前、第1回「高校生クイズ」のオープニングでは、「祈った! 笑った! 泣いた!」というアツいテロップが表示されました。予選であれだけの人数が(いろいろな理由で)集まれなくなった今大会でも、十分画面に出せるテロップでしょう! 来年もどうかお願いします。ありがとうございました。

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