マガジンのカバー画像

さまざまな話

8
自分の書いたさまざまな話が入っています。二次創作もあります。よしなに。
運営しているクリエイター

#小説

【話】クイズ短編『人生好転クイズ』

6問正解し、2回間違えた。人生ってこんなもんでしょ。 次に正解したら優勝。次に不正解したら劣敗。ここにいる5人から勝利できるのはひとりだけで、王手をかけるのも私だけ。勝つしかない。絶対勝つ。来い問題、「問題。」、来い── 「日本銀行法第8条第1項……」 「あーーーーっ!?」 私の解答席のランプ、光ってない! 「……」 思わず叫んでしまったあと、暴れ出しそうになるのを抑えて抑えて、数時間のようなシンキングタイムを過ごした。今にも崩れ落ちてしまいそう。 「……1億円」 解答権を得

【話】焼いたグッエンコーベ

きょう知ったのだけど、彼女はグッエンコーベを生で食べるひとだった。こればっかりは嗜好の話であって、私にはどうしようもなかった。でも、それでも聞いてしまう。 「……焼いたグッエンコーベは、食べないの?」 「えっ」 喫茶店の窓から差し込む光が、彼女の黒いミディアムヘアを、きらきら、といっそう輝かせている。「あ、ごめんね、なんか、気になって」と言葉をつなぐと、「食べないかな」と返事が届く。 「……なんで?」 「このぷつぷつしたのが好きだから。こいつを食べたいから」 「……そっか」

【話】花火大会

 暗い世界に光が灯る。  音と一緒に光は消える。  繰り返し繰り返し、何度も何度も、灯っては消える赤青緑。  わたしは観客の集まりに同化して、何も言えずにそれを見ていた。  今回も叶わなかった。 「あっついねぇ」  屋台の群れに連なる提灯はどれも偽物で、その中には蝋燭じゃなくて電灯が入っている。それでよかった。彼女の晴れやかな顔がしっかりと照らされて、よく見える。会場の入り口で配られている薄っぺらい団扇を仰ぐと、青い浴衣の袖がひらひらと揺れる。わたしは、「暑すぎだよね」、な

【話】カード売り場駅のバイト

家から自転車で行ける距離に、カード売り場駅があった。 毎月1回、わたしの家の近くの線路を、青や赤に塗られた電車が爆速で通過していくのを見ながら育った。幼いころは、そのときが来るとお母さんに「ガタンゴトン来るよ」と言われて、お父さんにベランダで抱っこしてもらって、一向に止まる気配のないその電車を3人で見ていた。 たまに新幹線やリニアが在来線の線路を走ることがあって、それを見たお父さんは「強いな~」と、よくわからない感想を言ってたっけ。 ときおり化け物に周囲を荒らされることも