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「その時」が来るのは存外早かった

先週、Bさんの転勤が決まった。
転勤先は大阪だ。

昼間LINEでそのことを知らされたときは、仕事中だったこともあり、そこまで動揺しなかった。
夕方、会社のお手洗いに行って鏡を見て、びっくりした。
マスクをしているのにどう見ても泣きそうな顔をしてるじゃないか。
会社を出て帰ろうと歩き出したら、なんだか地面がふわふわしていて、そうか私はショックを受けてるんだなと気づいた。

でも、そのときにはまだ、悲しくはなかった。

その夜はBさんと飲みに行くことになった。
「飛ばされるのかと思ってたら、栄転みたいな異動やったわ」
と嬉しそうにしていた。
これから引き継ぎが忙しくなること、大阪に戻ったら今より激務になること、でも自分に合った仕事だと思うこと、家を探す時間がないからしばらく実家に戻ること、などを話すBさんを見ながら
ああ、もうここに気持ちはないんだなあ。
と思った。

Bさんの目はすでに10月からの未来に向いていて、そこに私はいないのだ。

その日はたくさん飲んで酔っ払った。
寝入りばな、酔いに任せて
「大阪に行っても一緒にいれる?」
と訊いた。
「大阪に来たら遊べるよ」
がBさんの答えだった。


その日から約1週間、Bさんが出張や飲み会だったり私が大阪に行ったりしていて、会えなかった。
たまたまタイミングが合わなかっただけといえばそうなのだけど、こんなに会わないのは多分半年ぶりで、こういう時って何もかもうまくいかないものなんだなと落ち込んだ(自分もいなかったくせに)。

大阪から戻ってきて、1週間ぶりに会った。
近場のスーパー銭湯に行き、たまに行くお店で飲んで、ついでにカラオケにも行った。
いつも通りで楽しかったけれど、やっぱり遠かった。Bさんはもう、私の手の届かないところにいる。


最初から分かっていたことだ。
知っている人が誰もいない、何もない場所でお互いを慰め合うために出会い、どちらかがここを出ることになったら関係は終わるんだろうと知っていた。
だからなるべく好きにならないように、と気をつけていた。
Bさんだって何度も私に伝えてくれていたのだ。結婚はしない、そういう関係じゃない、と。

でもやっぱり好きになってしまったし、思いのほか関係を深めてしまって、一緒にいる時間が楽しくて、期待しないはずの「約束」を心のどこかで欲してしまっている自分がいた。
もちろん、そんなものは無かった。

Bさんは独身で働き盛りの34歳だ。
大阪に戻ったら、知っている人たちやこれから知り合う人たちに囲まれて、仕事ももっと充実して、そして良い頃合いで同年代かちょっと下の女性と結婚するんだろう。

分かっていたことなのに、それを想像すると心臓が痛い。
そして何より、この町にひとり取り残されることが淋しくて怖くて辛い。
どうしよう。
どうやって冬を越そう。

時間が解決してくれる、と知っているけど、何度経験したって慣れるもんじゃないな。

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