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不意打ちのデート、魔法の名残

その日はお昼を食べすぎたので、あまりお腹がすいていなかった。
仕事を終え、何か軽く食べて早く寝よう、と思っていたところで電話が鳴る。
Bさんからだ。
たまーーーに、深夜の酔っ払ったタイミングで電話がかかってくることはあるが、この時間(18時半)の電話は彼が関西に戻ってから一度もない。
不思議に思いながら電話に出た。

佐久間「もしもし?」
Bさん「何しとん?」
佐久間「家に帰ってきたとこやけど」
Bさん「飲み行こう」
佐久間「え???どこおるん???」
Bさん「◯◯(隣県)!30分くらいで着くと思うわ」

よく分からなかったが、急いで化粧を直し、財布とハンカチとリップだけ小さな鞄に入れて支度をする。
こういうお出かけが久しぶりで嬉しい。
週の前半なのが幸いして、大人気のいつものお店もスムーズに予約できた。
私のほうが先に着き、顔馴染みの店員さんに挨拶しながらBさんを待つ。

お店に入ってきたBさんは、少し髪が伸びたことを除けば全くもっていつも通りだった。
大阪では年末にも会っているけれど、この店に入ってくるBさん、という景色があまりにも懐かしくて驚く。
ハイボール、お刺身盛り合わせ、あじのたたき、カニクリームコロッケ、ぶりかまの塩焼き、〆に焼きそば。
お刺身を一切れ食べた瞬間に
「うまー!!!これが食べたかってん!!!!!」
と叫ぶBさん。ここでの生活ですっかり舌が肥えてしまい、大阪のスーパーの刺身に辟易しているらしい。分かる。

聞けば隣県で仕事があり、もともとは午前中で終わる予定だったのが午後にずれ込んで、急遽泊まりになったとのこと。
Bさん「そうなったらもう、この店に来たくてしょうがなくて」
佐久間「私じゃないんかい笑」

Bさんがいなくなってから私もこのお店に来ることがほとんどなくなっていたので、久しぶりのごはんがどれもこれも美味しい。あまりお腹がすいていないと思っていたのも忘れて、夢中で食べた。
途中から日本酒も頼み、テンションが上がるままにじゃんじゃん飲む。
佐久間「このところほとんどお酒飲んでないから、急にこんなに飲んだら死ぬかもしれん」
Bさん「何言うてんねん。おまえがこれぐらいで死ぬわけないやろ」

お酒のせいもあって何を話したのかあまり憶えていないが、とりとめのない会話をしながらひたすら食べて飲んだ。つかの間の夢みたいな、ぎゅっと凝縮された、楽しくてキラキラした時間だった。

1月のあいだ、次に会ったらなんて言おう、と考えてばかりいた。
年末に大阪で会ったとき、うまく言えないけれどもう「終わった」感じがした。
中途半端に会い続けたら傷ついてしまいそうだから、次に会ったときにちゃんと決着をつけようと思っていた。

でも思いがけず会えてしまった時間があまりにも楽しくて、全然言い出すタイミングを掴めなかった。

たぶん、この町のこの店だからだ。
ここで会えば、まだ私たちの間の魔法は続く。続いているような気になる。でも大阪で会ったらまた、私はBさんとの距離を感じて孤独な気持ちになるのだろう。

会社が指定したホテルに泊まらないといけないから、と、Bさんはうちには泊まらなかった。強く言えば引き止められたのかもしれないが、私も「はーい」と言って別れた(生理だったし)。

別れ際、たぶん初めてだと思うのだけど、Bさんから抱きしめられてキスされた。不意打ちすぎて
「待って!いまマスク外すから、もう一回して!」
と謎のおねだりをしてしまう。笑
ニヤニヤしながら雪道を踏みしめて帰った。本当にちょろい女である。

翌朝たまたま読んだ2月のしいたけ占いに、「いきなり全部をブロックするとか、切り捨てるのではなくて、『泳がす』みたいなことも大事」「断捨離をすごくしていく時だからこそ、人間関係の切り過ぎには注意」みたいなことが書いてあった。

そうか、すぐに決着をつけなくてもいいのか。

と、自分に都合よく解釈して、少しだけ延長された魔法はそのまま温めておくことにした。

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