【音響機材の話】歌ってみた、配信、DTMなど用途に合わせた音響機材の選び方

はじめに

この記事を読む方はきっと題にあるような機材に悩んでいる人かと思う。

昨今では自身の歌を公開したり、Webで配信活動をしたり、作曲したりする方が増えてオーディオインターフェースやマイク、ヘッドホンなどの音響機材を求める一般ユーザーが増加している中で、Twitterなんかで機材関連のトピックスを調べると「何を買えばいいかわからない、オススメはないですか」と悩める投稿する人をちらほらと見かける。

その中で、Googleで簡単にオススメの機材を探すとたいていは一括りで「これがオススメ!」という形で機材が紹介されているが、残念ながら用途に合わせたような紹介記事が少ないように感じる。

この記事ではまず一括りにオススメされる機材を「オススメしない理由」と、それぞれの用途に合わせたオススメの機材について主観による独断と偏見をたっぷり交えて解説していく。

総文字数が2万文字強というかなりの長文になってしまったため、必要ならば目次から自分の目当ての項目に飛んで読んでいただければと思う。

各項目で具体的にどういう機材なのか、どういう点でオススメなのか、オススメじゃないのかという細かいことを書いているので、そういった点を押さえたい人は申し訳ないが長文を読んでほしい。

自身が使ったことがある、実際に音を聞いたことがある機材しか言及できないので、当記事に出てくる機材の8割は使ったことがあるものの話だ。
実際には使用したことがない機材も調べた限りの知識で言及する場合があるが、あくまで主観による意見であることを念頭において読み進めることを推奨する。



一括りにされる「オススメ機材」

機材に悩んで調べると、たいていオススメされるのがオーディオインターフェースだとYAMAHAAG03/AG06、マイクだとaudio-technicaAT2020、ヘッドホンだとSONYMDR-CD900STが挙げられているように感じる。

YAMAHA AG03
YAMAHA AG06
audio-technica AT2020
SONY MDR-CD900ST

これらはすべて素晴らしい機材であるのは間違いではない。

しかし、機材はそれぞれに得意とする用途や領域があるので、一概にこれを買っておけば間違いはないというようなモノではないし、断じてひとまとめにオススメされるようなモノでもない。

以降は長々とその理由を一つずつ書いていくので興味の無い方はスキップすることを推奨するが、ここを読んでおくと後述の「オススメ機材」も何故オススメなのかが理解しやすいのではないかと思う。


YAMAHA AGシリーズ

YAMAHA AG03
YAMAHA AG06

ひとつめにYAMAHAAG03/AG06は正確には「ライブストリーミングミキサー」と言われる製品で、言葉の通り得意とするのはライブ配信(Web上での配信)とそのための入力音声を取り纏めることだ。

これを読むあなたがYouTubeやTwicasなどの配信プラットフォームでゲームの実況やリスナーとの雑談、カラオケのような配信をしたいのであればこの製品はとても扱いやすく機能的にもおおむね満足いくだろう。

しかし、例えば歌や音声の収録といった録音をしたいということであればわざわざAG03/AG06を選択するのはあまり良い選択肢とは言えない。

AG03/AG06でマイクやギター、キーボード等の音をPCやスマートフォンに録音することはもちろん可能なのだが、この機材はあくまでも配信の機能に特化した機材であり録音に特化した機材ではないのだ。

なぜかを説明するのに少し難しい話を挟むが、マイクからの入力音というのは実は極めて小さい音で、その音をアンプで増幅して大きくする。

エレキギターとアコースティックギターで例えるが、アコースティックギターはボディ内の空洞で音を反響させて「サウンドホール」から大きな音を出すのに対し、エレキギターは「ピックアップ」というマイクが弦をはじいた際の振動を感知して音を増幅する。

ただし、エレキギターの音はピックアップ(マイク)が拾った音を「シールド」と呼ばれるケーブルを使ってアンプに送り、アンプ側で音を増幅しないと普段みんなが聴いているようなイメージする「ギターの音」にはならない。

エレキギターの例えと同じで、マイクはそれ自体が拾って機材に送る音は小さく、アンプで増幅することで音を大きくする

AG03/AG06はマイクやギター、AUXケーブルを介した音楽プレイヤーの音を機械の中で混ぜたり、リバーブ(カラオケでいうエコー)やコンプレッサー(入力した音を出力する際に大きすぎて割れないように圧縮する機能)を搭載していたりと配信のための便利な機能を多彩に搭載していて2万円前後という良心的な価格で販売される企業努力の結晶と言える素晴らしい機材なのだが、当然この価格で販売するためにほかのパーツなどはコストの削減が行われている。

端的に言えば、AG03/AG06の音を増幅する「アンプ」の部分にはあまりコストをかけたパーツが採用されていないため、マイクで取り込んだ音を増幅すると「ノイズ」が発生しやすい安価なパーツで構成されている

そのため、「録音をしたい」という用途で機材を探しているのだとしたら
AG03/AG06は選択肢とするには勿体ない結果になる可能性がある。


SONY MDR-CD900ST

SONY MDR-CD900ST

ふたつめに、同じように例えばPCとDAW(Digital Audio Workstation)を使用してDTM(Desk Top Music)をする人が、録音やミックスをするためにヘッドホンを探すとたいていのオススメにSONY MDR-CD900STが挙げられている。

そして記事を鵜呑みにして購入した人が実際に使ってみて違和感を覚え、少し機材を知っている人から「MDR-CD900STはミックスには向いてないよ」なんていうことを言われて残念がっているのを見かける。

そして、「MDR-CD900STは時代に合わない」なんていう扱いをされてたびたび論争になっているのを見かける。

前提として「SONY MDR-CD900ST」が何かというと、日本の音楽系のスタジオには100%といっても良いほど一つは置かれている超定番のモニターヘッドホンと呼ばれるヘッドホンのことだ。

例えば音楽が好きな人でYouTubeの「THE FIRST TAKE」の映像を観たことがあるのなら大抵は目にしたことがあるヘッドホンだ。
(※補足として同チャンネルで収録に使っているのは基本的にはMDR-CD900STだが、たまにMDR-CD900STの後継機と言われるMDR-M1STが使われている)

このヘッドホン自体はとても優秀だし、筆者も保有しており好んで使用することがあるが、「一括りにオススメするヘッドホン」ではない。

だいたいMDR-CD900STをオススメしている方や、それを否定している方の発言に「業界標準」だとか「定番」だとかいう言葉が広く使われている。

業界標準だから大丈夫、業界標準だけど使える音じゃないから今買うならもっといいのがある、といった具合にネット上ではよく論争が起きているが、それらの意見はすべて的外れなのであてにせずに無視することをオススメする。

ではなぜこのヘッドホンが日本のスタジオで超定番、業界標準として置かれているのかと言えば、ひとえに「業務用のヘッドホン」だからである。

「サウンドハウス」などの音響機材をメインに取り扱っているサイトを確認してもらうとわかりやすいが、MDR-CD900STパーツが壊れても自分で修理ができるようにとこのヘッドホンに使われているパーツのほぼすべてがパーツ単位で購入できるのだ。ヘッドバンドもハウジングもドライバーユニットも、ネジのひとつまでもパーツ単位で買える。

調べてみてほしい、例えばあなたがこれから買おうと検討しているヘッドホンやすでに持っているヘッドホンで、ヘッドバンドやハウジングやドライバーユニット、果てはネジまでものパーツがすべてひとつ単位で個人で購入できる製品はあるだろうか。

業務用のスタジオでは多くの人が利用する、扱いの丁寧な人から雑な人までいるので当然使いまわされる機材は壊れる

壊れたら片っ端から買い直すのでは当然その分のコストが掛かるし、いちいちベンダーへ修理に出していたら工賃もかさむし時間もかかる、いざ業務で使いたいタイミングで手元にないなんてことも起こる。

そのため、パーツ単位で個人購入できるように販路が整備されており、簡単なハンダ付けをして修理すればずっと使い続けられるようにと業務用スタジオで広く普及しているのがこのMDR-CD900STだ。

当たり前のようにもっと音の良い製品はある、音質にこだわるなら一つ15,000円程度のヘッドホンをいちいち置く必要はない。

よって、決して音がいいとかそういった理由で日本国内の音楽スタジオで普及しているのではない。

ただし、MDR-CD900STの特性としてドライバーユニットから耳までの距離が近いため長く使用すると耳疲れするものの、音が近い分ノイズなどの判断がしやすいという特性がある故に、録音物のノイズに気づけやすいというのは大きな利点であると筆者は思っている。

あなたが求める用途が「レコーディングとそのチェック」であるのならMDR-CD900STはベターな選択肢と言えるが、普段使いやミキシングといった用途でこのヘッドホンをオススメしてくる人の意見は無視した方が無難だろう。


audio-technica AT2020

audio-technica AT2020

三つめのaudio-technica AT2020に関しては、単純に1万円ちょっとの価格帯で買えるコンデンサーマイクとして定番というチョイスでオススメされている印象がある。

しかし、筆者からするとこれも用途や環境次第と考えている。

例えば筆者がオススメの機材を尋ねられた場合に、「用途が配信」でなおかつ「それなりに反響音の対策ができている」が「質問者がずぼらな性格をしている」というのであればAT2020AT2035をオススメすることは大いにある。

しかし、上述のような用途ではなかったり「反響音の対策」ができていないのであれば、近い価格帯のなかでもSHURE SM58などのダイナミックマイクを推奨するだろう。

SHURE SM58

理由はたくさんあるが、そのうちで最も大きな理由は「コンデンサーマイクは広い範囲の音を微細に拾うから」である。

配信や録音をしたいとマイクのオススメについて調べると、周波数特性的に「コンデンサーマイクはダイナミックマイクよりも綺麗に録音できる、ダイナミックマイクは音が篭る」という話がある。

上記の説明は決して間違っていない。
実際、コンデンサーマイクの方が下の帯域から上の帯域まで綺麗に収録されるだろうし、マイクグリル内に詰め物(ポップフィルター)の内臓されているダイナミックマイクは比較的音が篭ることもあるだろう。

ただし、それはマイクを選ぶ基準のひとつに過ぎないので、そのひとつの基準だけでマイクを選択すると場合によっては後悔する結果となることがある。

まず音の面に関して言及すると、AT2020自体はオススメされるほど綺麗に収録できるわけでもなければ、逆に非難されるほど音が悪いというわけではない。

端的に言えば価格帯的に「普通」である。
機材の組み合わせ次第では音が良いとも悪いとも言えるマイクだ。
しかし、一般的な人が用意しているであろう環境でこのマイクを使うと「音が悪いマイク」と判断される場合が多い。

前提としてコンデンサーマイクは音を広く微細に拾うと書いたがこの「音」というのは「声」に限定した話ではない。
当然ながら「空調などの環境音」や「隣人の生活音」や「声を発した際に生じる反響音」も含まれる。

それらの対策をした上でそれなりに質の保証がされたアンプで音を増幅するのであれば、コンデンサーマイクはとてもオススメだ。

あなたの声を原音に忠実に、モノによっては原音よりも色気を帯びて収録することだろう。

ただし、それらの対策が一切できていない環境で、なおかつ質に拘りのないアンプで音を増幅して収録したコンデンサーマイクの収録物は、あまり聞き心地の良い音像ではないのだ。

遠くで犬や猫、鳥の鳴く音が載っていたり、果ては隣人の足音、家の外で子どもの遊ぶ声や近所で行われているであろう工事の音、室内の空調の音が満載でなおかつ収録者が発した声が部屋で反響して収音されており、とてもではないが聞くに堪えない収録物が出来上がってしまうことも大いにありうるのだ。

実際、一般の方が個人で宅禄した収録物の編集を承っていた時にお預かりしていた音源の中には、上述のようなとても綺麗とは言えない音像の収録物を取り扱ったことが何度もある。

これに対してダイナミックマイクは指向性(収音する範囲)が狭いものが多く、マイクの前で発している音以外はあまり拾わない性質のものが多い。

アナログのマイクである以上は反響音なども確かに拾ってしまうが、コンデンサーマイクに比較するとダイナミックマイクは環境音や反響音は狙って録ろうとしない限りではあまり収音しないのだ。
(ただし、普通に喋ったり手を叩くだけで強く反響するような環境の場合はダイナミックマイクでも部屋鳴りを拾うため、布団・毛布やぬいぐるみなどの布製品を多く置いて可能な限り吸音することを推奨する)

ちなみに、「コンデンサーマイクに比べてダイナミックマイクは音が篭る」という件に関しても、極端に聞き心地が悪い音になるというわけではない。

楽曲のミキシングを専業で行っているエンジニアのKeinoaza氏が自宅録音で歌ってみたなどの収録をされる方に向けてSHURE SM58をレビューしている動画を参考に紹介する。


用途に合わせた「オススメ機材」

前置きが長くなったが、この記事の主題としてここからは用途に合わせたオススメの機材を紹介する。

ただし当然ながら筆者よりも機材について詳しい人は多く存在する。
中にはこの記事の内容にそれは違うと異を唱える方もいるだろう。
あくまで筆者の主観による内容であることを念頭に置いて読むことを推奨する。


「歌ってみた」をやりたい人向けのオススメの機材(予算3万円)

この記事を読もうと考えた人の要望としてこの題材に当てはまる方が多いことだろう、最初に歌ってみたを録音したい人に向けてのオススメから始める。

まず初めに、歌い手向け機材の紹介などでコンデンサーマイクを使うのが至高と唱える人がちらほらと散見されるが、この勘違いから正しておこう。

audio-technica AT2020の説明でも記載したが、コンデンサーマイクは周囲の音を微細に拾ってしまう。

もちろん遮音や吸音の対策を正しく行った環境で収録されるのであれば上述の意見も間違いではない、可能であるのならコンデンサーマイクを使った方があなたの声を原音に近く、色気を含んで収録することだろう。

ただし、何の対策もしないままでコンデンサーマイクを脳死で導入すると「声以外の音」に大きく悩まされることがあることを知っておくといい。

それでは実際のオススメの機材の話だが、ここは予算によって多少異なる。

例えば機材の導入が初めての方で出来る限り予算を安く抑えたい人にとってできることなら1万円から2万円で抑えたいという方が大多数いるだろう。

ここで知っておいてほしいことだが、無理やり低予算で抑えようとした結果、期待したほどの品質向上にはならなかったというのはよくある話ということだ。

残念ながら音響機材の導入はそれなりにコストが掛かる。

特に要となるオーディオインターフェースマイクはそれぞれが単体だけで先述の予算をはるかに上回るものが多い。

しかもその二つを買っただけでは、それを使うために必要なもの(マイクケーブルやスタンド、ポップガード)を導入することができないのだ。

しかし、低予算の中でもできる限りで質のいいものを作りたいと切望する気持ちも痛いほどにわかるので、どうにか頑張って30,000円くらいの予算を確保することを推奨する。

もちろん、予算を潤沢に確保できる方にはそれ用の機材を掲載する。

先んじて、最低限必要なものとして周辺機材を3点用意したい。

まずは自立式のマイクスタンドだ。
ここではなるべく安価で入手できる周辺機材を掲載する。

CLASSIC PRO MSB-BLACK

続いてポップガードに金属製のものをチョイスする。

布製のポップガードはポップノイズを取る機能こそ高いが、若干高域の成分が削られてしまう傾向にある。

布製の方が安価ではあるが、ここでは金属製を紹介する。

TOMOCA MS-130

続いてマイクケーブルに最低限の品質保証でCANAREをチョイスする。

実際にマイクケーブルでも音は変わるのだが、宗教のようなものだ。

深入りしたくなければとにかくこれでいい。

CANARE EC03-B(XX) 3m

この時点ですでに7,140円となってしまうため、30,000円くらいの予算を推奨している。

次にオーディオインターフェースの選択肢だが、この記事を書いている2023年6月26日現在で1万円前後で買えるオススメは羅列すると以下の通りだ。

PreSonus AudioBox iONE
Steinberg UR12

これら4機種のうち、MINIFUSE 1、AudioBox iONE、UR12はそれぞれマイク入力は1つ、ギターなどのライン入力が1つ(MINIFUSEは同時使用不可)の製品で、MINIFUSE 2は2チャンネル(ステレオ入力可能)なモデルだ。

これらは入門機として用意されている機材であるため、先述している一括りにされる「オススメ機材」の項目で触れているようなアンプ部分へコストを掛けている機材というわけでもない。

そのため、特筆して音質の良い機材というわけではないが、低予算で導入できて専用のオーディオドライバー(PC用のソフトウェアコントロールドライバ)が用意されている製品であるためトラブルが少ない。

個人的にはマイクに割く予算を抑えてもっといいものを使うことを推奨したい、2万円未満の価格帯で信頼性が高いオーディオインターフェースというとFocusrite Scarlettシリーズだろう。

Focusrite Scarlett Solo

Focusriteは業務用コンソールを製作している老舗メーカーでオーディオインターフェースのみでなくマイクプリアンプ自体も製作しているため、プリアンプ部の信頼性は高い。

また、AIRスイッチという実際に商業スタジオにも設置されている有名プリアンプのアナログ感を再現する機能が付いているため、色気のある質感で収録できるオススメの製品だ。

続いてマイクだが、これは先述しているとおりで使用する環境が遮音、吸音の対策がなされている場合とそうでない場合で異なる。

使用している環境で遮音、吸音の対策がされているのであれば
下から上までしっかり収録できるコンデンサーマイクもありだろう。

その場合に管理が容易という意味ではaudio-technica AT2020は推奨しやすいマイクではある。

いわゆるコンデンサーマイクの中でもいくつか種類があるのだが、その中でもaudio-technica AT2020およびAT2035は「バックエレクトレットコンデンサーマイク」という種類のマイクだ。

audio-technica AT2035

小難しいことは置いておくが、これは一般的なコンデンサーマイクと比較すると湿度管理なんかをせず部屋で出しっぱなしにしておいてもある程度壊れにくい構造をしている。

その構造故か音質面では特筆して優秀というわけではないが、機能面では要件をじゅうぶんに満たしている。

ただし、高域(固体や環境次第のようだが主観では8,000Hz~11,000Hzあたり)にクセがあるマイクなので、組み合わせるアンプ次第では耳に痛い音になってしまうことが多々ある。

上述の内容をふまえ、「出しっぱなしにせずにちゃんと湿度管理ができる
人に向けたオススメで近い価格帯のマイクはLEWITTLCT240PROだ。
このマイクは専用ショックマウントも付属するValuePackが用意されている。

LEWITT LCT240PRO Value Pack

LEWITTはもともとAKGの製品を開発していたエンジニアが開発に携わっているマイクだけに、変なクセも無くバランスの良い綺麗な音像で収録できるため、環境音などの対策ができるのであればこの価格帯ではオススメできる製品だ。

環境音の対策が難しい人にはダイナミックマイクを推奨する。
先述しているSHURE SM58も信頼性が高い製品だ。

その他のダイナミックマイクであれば、AKGD5も信頼性の高いメーカー製で価格的にも手を出しやすい製品と言える

AKG D5

ダイナミックマイクを扱う場合コンデンサーマイクと比較すると入力される音量が小さいため、アンプでの増幅幅が多少大きくする必要に駆られるのは留意すべき点だ。

余談ではあるが、こういったダイナミックマイクを利用する人の中には4,000円程度で購入できるマイクブースターを使うなどの工夫をする人もいる。

CLASSIC PRO CSB1

さらに安価な価格帯であれば、筆者が実際に波形編集をしたことのあるマイクであればBEHRINGER Ultravoice XM8500というマイクも価格帯を考えるとオススメできる製品だ。

BEHRINGER Ultravoice XM8500

環境が整うまでの安価な代用品として、これらの機材を組み合わせることで予算を抑えるのもありだろう。

なお、筆者がゼロから機材を買うのであればなるべく質のいいオーディオインターフェースを導入し、マイクはこういった安価な製品を使う。

オーディオインターフェースを重視するのは結局のところ、
音を増幅するアンプ」の質が悪いと「良いマイク」を使っても満足のいく音像で収録できないからだ。

マイクは良いものを使うけれどオーディオインターフェースには拘らないという風潮が見受けられるが、録音の質をよくするのであれば音を増幅するためのオーディオインターフェースまたはマイクプリアンプにも着目することを推奨する。

なお、ヘッドホンについては予算3万円以内でオススメできる製品が無いので、しばらくはカナル型などの耳に差し込むことで音漏れを軽減できるタイプのイヤホンを使うとよいだろう。


「歌ってみた」をやりたい人向けのオススメの機材(予算10万円)

ここからは予算10万円まで検討できる方向けの紹介だ。
前提としてゼロから買いそろえる場合で、周辺機器に関しては先述した3点(7,140円)も合わせて購入するとして紹介する。

オーディオインターフェースのオススメはいくつか存在するが
その中でもマイクプリアンプが優秀なのはAudientiDシリーズだ。

Audient iD4mkII
Audient iD14mkII

Audient iDシリーズに搭載されているマイクプリアンプは商業スタジオに設置されている業務用コンソール「ASP8024 Heritage Edition」と同一の回路を搭載していることを売りとされており、マイクプリアンプの性能では近年で世界的な音楽機材の品評会での賞を3つ受賞している。

この価格帯では珍しくAD/DAコンバート用のチップがそれぞれ別々で搭載されており、いずれもRMEAntelopeといった高級機にも採用される信頼あるベンダーのチップを搭載していることで有名だ。

iD4mkIIはマイクプリアンプが1機のみという点とPCの電源を落とすとボリューム設定がすべてリセットされてしまうという点が歯がゆい製品だが、
iD14mkIIではその歯がゆい点も解消されている。

また、iD14mkIIにはデジタルインプットが用意されているため、別でデジタル入力可能なアウトボード機材(プリアンプやコンプレッサー、マスタークロックジェネレーター)を導入する場合でもフレキシブルに対応できる

大きな難点を挙げるとするならば、iD4mkIIに限り操作がなかなか複雑で慣れるまでに少し手間がかかる点だ。
ヘッドホンアウトの音量とスピーカーアウトの音量が同じノブで管理されており、筐体についているボタン操作で切り替えて音量調整を行う必要がある。

また、ノブをクリックすると音量を下げる機能(DIMスイッチ)があるため、操作に慣れないうちは音が出ないとか音が小さいといった誤操作をしてしまいがちな機材となる。

操作に慣れてしまえば入力音のクリアさとパワフルなアウトプットに作業中の気分が高揚するような良質な機材のため作曲やミキシングなどのDTM活動にもオススメだが、そちらではiD24を紹介するため本項目では割愛する。

続いてMOTU(Mark of the Unicorn)のMシリーズがオススメであり、こちらの方がアマチュアからもプロからも人気が高い。

MOTU M2
MOTU M4

こちらは一体型のAD/DAチップが搭載されている機材だが、昔からプロミュージシャンに愛されているMOTUらしい妥協のない品質の製品だ。

Audient iDシリーズが入力面に注力している機材だとすれば、こちらは出力面に注力している機材とも言える。

しかし、決して入力面を妥協しているわけではく、マイクプリアンプの品質は極めて良好でクリアで低歪みな音の増幅ができる機材だ。

価格帯的に惜しい部分はあれど難点らしい難点もなく、操作性も一般的なオーディオインターフェースと大きく変わらないため、シンプルな構成で使い方が分かりやすい。

価格帯的に惜しい部分」については個人の歌ってみたを作成するという面では一切関係のない部分のため、DTM向け機材の項目で詳細を記す。

続けてはおそらく歌ってみたの界隈で一番人気ではないかと思われる機材、
Solid State Logic SSL2/SSL2+だ。

Solid State Logic SSL2
Solid State Logic SSL2+

SSL2は商業用スタジオで長く愛され続けていて憧れを抱く人も多く、今なお現役で使用されているコンソールを製造している老舗のSolid State Logic社が製造している一般向けオーディオインターフェースで、往年の名器であるSL4000の回路を再現する「4Kスイッチ」が搭載されていることで爆発的な人気を博している。

ここまでに挙げた三機種の中では搭載されているAD/DAチップは最も安価なため音像という点では上記二機種に劣るのだが、往年の名器を生み出したSSLの回路設計故か、録り音はとてもクリーンでパワフルな機材となっている。

実際、これら三機種を並べて同じマイクを使って録音した場合、良くも悪くもどれがSSL2で録音したのかわかるという人もいるのではないだろうかという程に録り音の印象が強い機材だ。

近々でファームウェア自体のアップデートが行われてループバックに対応するなどあまり耳にしないアップデートが行われたりと現在もなお開発が止んでいないプロダクトなのに、一時期の価格高騰から今は嵐の前の静けさのごとく価格が落ち着いた機材。

歌ってみたで使うという用途で録り音に迫力や色気を求めるのであれば選ぶ価値のある機材だ。

続けてマイクだが、実はマイク選びは「自分の声との相性」も重要になる。
基本的に10万円も機材に使おうと考える人であれば前提として環境音の対策などはしていると考えるため、基本的にオススメのマイクとしては定番のものをセレクトしていく。

例えばウィスパーボイスが得意ならばBlue Bluebird SL / Baby Bottle SL

Blue Bluebird SL
Blue Baby Bottle SL

独特なボトルタイプ形状のコンデンサーマイクで、おそらく音響機材でマイクを調べたことのある人なら一度は目にしていることだろう。

Blueのマイクは近い距離でささやくような発声をする場合に相性がよい。
もちろん声を張って歌いあげるようなボーカルも輪郭のはっきりした音像で収録できる。

注意点として、Blue自体は企業としてLogicoolに買収されているため、
今後サポートが受けられるかはわからない機材だ。

あくまで壊れたらそれまでといった豪気な人なら気にしないと思うが、
購入するかどうかはしっかり考えて選択しよう。
なお、正規ベンダーでなくともマイク修理くらいなら承る企業はあるが
純正パーツは生産されておらず取り寄せ不可、多少料金が嵩む、といった具合になる可能性がある程度だろう。

現状、同社の下位モデルであるSpark SLなどにはすでに製品名自体にLogicoolの社名が入っているだけで通常とおり販売されているため、
案外Blueの企業名が消えるだけで製造販売は今後もLogicoolが継続する可能性はゼロではないと思われる。

ハイトーンボイスの得意な方はAKG C214

AKG C214

ドラムレコーディングのシンバルマイクとしても使われることのあるAKGC214は高域が綺麗に収録できるマイクで、人気の高いマイクだ。

歌い上げる系の楽曲を得意とする女性や、ハイトーンボイスを得意とする男性にはオススメの一本と言える。

声にぬくもりと太さが欲しいのならaudio-technica AT4040

audio-technica AT-4040

こちらもよく定番として挙げられるが、ミドルトーンの太さを求める人や
エッジボイスの迫力が欲しい人に向けては中低域の太さをしっかり出してくれるこちらのマイクがオススメだ。

バランスよく綺麗な音像を収録したい人はLEWITT LCT440PURE

LEWITT LCT440PURE

クリアでクセのない音像を収録したい人に向けてはこちらのマイクがオススメだ。
過去には24,000円台で販売されていた中、飛びぬけて価格が高騰してしまった機材だが、録音における音のクリアさでは前述しているマイク郡の中でも価格帯的に考えても遜色ないといったマイクだったため、今の価格が妥当とも言える一本だ。

力強く前に出るような音像を求めるのならWARM AUDIO WA-47jr

WARM AUDIO WA-47jr

NEUMANN U47のコピーモデルで、FET回路を搭載しているマイク
アコースティックギターなどの録音にも向いていて、煌びやかな音をしっかりと収録してくれる。
FET回路を搭載しているためか倍音成分をしっかり収録し、前に出しやすいような音像となる。

続けてヘッドホンだが、密閉型のヘッドホンであれば概ね問題ない。
これに関してはMDR-CD900STがノイズの確認にも役立つので細かくチェックしたい方にはおすすめだろう。

しかしながら録音物のチェック以外の用途でも使いたいというのであれば、先述したMDR-CD900STの説明にも書いているとおりあまりオススメできるものでもない。

音楽や普段の作業を楽しみつつ、しっかりと録音やそのチェックをしたいという方に向けてはSHURE SRH440やその上位機種のSRH840がオススメだろう。

SHURE SRH440A-A
SHURE SRH840A-A

近い価格帯のモニターヘッドホン(audio-technica ATHシリーズなど)はだいたいがリケーブル(ケーブルの変更)に対応していることから、断線してしまった場合でも公式のケーブル及びサードパーティ製ケーブルに取り換えることが容易な設計となっている。

コストパフォーマンスの面からみてもそれぞれ推奨できるため、好きなメーカーでリケーブル対応のものを選択するとよい。

なお、SONY MDR-CD900STと同じくらいにオススメされる頻度の高い製品でSONY MDR-7506という製品がある。

SONY MDR-7506

この製品は日本の有名歌手が愛用していることで一時期話題になっていたり、海外のスタジオだとよく使われているということで話題になっていたりする製品だが、これもMDR-CD900STほどではないもののユニットが耳から近く位置していて長時間使うのには耳疲れしやすい製品だ。

また、MDR-7506に関しては楽曲の分離感をあまり感じることができず、のっぺりと平べったい音という印象がある。

自分で歌の録音をする時に音源と自分の声の境目が意識しづらいため、筆者としてはオススメしようと思う製品ではない。

なお、この2機種に関してはリケーブルには対応していないため、断線した場合は修理に出すか自身で分解してハンダ付けしなおす必要がある。

自分で修理ができる人なら問題はないが、断線したときにリケーブルで済む製品を選んでおく方がベターではあるだろう。


「配信活動」をしたい人向けのオススメ機材

ここからは配信活動をしたい人向けにオススメの機材を掲載するが、
配信活動において求めるものは「操作の利便性」と「配信上の音質」と捉える。

つまり、「歌の収録」や「声の収録」に関しては場合によってはスタジオで収録する人もいるであろうことから副次的なものと捉え、買い足していけるような基本的な機材を予算を決めずにオススメしよう。

まず初めにオーディオインターフェースだが、配信での利便性を考えるのであれば先にオススメとされているYAMAHA AG03/AG06と、先日リリースされた同シリーズのフラッグシップ、AG08が挙げられるだろう。

YAMAHA AG03
YAMAHA AG06
YAMAHA AG08

残念ながら筆者はAG08を使用したことがないので所感などは執筆できかねるが、ライブストリーミング用の機材で配信に便利な機能が搭載されている機材のため、機器のデジタルコンソールなどではなるべく細かい設定をしたくない・物理筐体であれこれ切り替えたり設定をいじりたい人には使いやすい機材だ。

上記のAGシリーズがオススメであることを前提に、音質改善に主題を置いて
AGシリーズ含めてMOTU M4Audient iD14mkIIのような通常のオーディオインターフェースでも組み合わせできる機材を紹介する。

まずマイクについては配信活動をされる人で声が売りならコンデンサーと思われがちだが、収音範囲の広いコンデンサーマイクを吸音や遮音の対策なしで使うと配信上の音は結構周囲の音を拾ってしまうので逆に音質が悪くなったりしてしまうこともあるのだ。

壊れにくく音質もよいダイナミックマイクはちゃんと存在する。
それがSHURE SM7Bだ。

SHURE SM7B

このマイクは単一指向性のダイナミックマイクでなおかつ配信やラジオ向けの設計がされており、マイクのケーブルを接続する位置もデスクに取り付けるアームタイプのスタンドなどで干渉しづらい位置に設置されている優れものだ。

音質は極めてクリアで近い価格帯のコンデンサーマイクにも引けを取らず、なおかつダイナミックマイクなのでコンデンサーマイク程に気を遣った湿度管理などをしなくても壊れにくい製品だ。

ただし、このマイクはデフォルトの入力音量が小さいため、マイクブースターやアウトボードプリアンプで音量を稼いで使う必要がある。

定番の組み合わせとしてはCloud Microphone Cloudlifter CL-1だろう。

Cloud Microphone Cloudlifter CL-1

AG03SM7BCloudlifter合わせて買えば90,000円以上と値が張りがちだが、実はすでに何かしらのオーディオインターフェースやAT2020などの安価な配信用マイクやその他のコンデンサーマイクを使っている場合でも音質改善に役立つ機材が存在する。

それがdbx 286sだ。

dbx 286s

この機材はこれまで紹介してきた中で最もサイズ感が大きい
ラックタイププロセッサー」と分類される機材だ。
置き場所に困るから導入しづらいと思うだろうが、もしこれを読んでいるあなたが環境ノイズなどに悩んでいるのなら、その悩みを丸ごと解決できる可能性を秘めている機材だ。

まずdbx 286sがどういう機材かというと、一般的にはチャンネルストリップと呼ばれる機材で、分類としては「プリアンプ」というジャンルの機材だ。
この機材はマイクの音を増幅するマイクプリアンプなのだが、
そこに音量感を整える「コンプレッサー」、歯擦音(さしすせそちつ)を低減する「ディエッサー」、声の低域と高域を調整する「エンハンサー」と
目玉とも言える機能で「ゲートエキスパンダー」が付いているのだ。

それぞれ見慣れない言葉だと思うので簡単に説明すると、コンプレッサーは声の大小を均一に整えて(圧縮して小さくする)、そのあとで音量のつまみを持ち上げることで音を大きく、なおかつ入力過多による音割れを防いでくれる機能だ。

例えばあなたが対人戦闘系のゲームをプレイして負けた時、大きな声をだしてリスナーの鼓膜を破りそうになってしまうタイプの人であっても一定レベル以上の音量を圧縮するためリスナーの耳を守護ることができるだろう。(当然最終段のアウトプット音量が常識外れな値だと無事鼓膜はなくなる)

続いてディエッサーはあなたがトークで発する「さ行」や「ち、つ」の発音の際に生じる歯が擦れるような痛い音を丸くしてくれる機能だ。

エンハンサーについては簡単に言えばイコライザーで、低い音や高い音に色気を出したい時にちょっとだけ聞き心地がよくなるつまみだ。
ただし、掛け過ぎるともこもこと篭った音になったり、キンキンとした耳の痛い音になりかねないため、基本はあまり使わない方がいいだろう。

重要なのはゲートエキスパンダーで、これはいわゆる「ノイズゲート」だ。
設定した閾値以下の音をマイクに載せないようにマイクの入力に「ゲート」を掛けてくれる機能だ。

つまり、マイクが拾って配信に載ってしまう音はマイク近くで使うだろうキーボードの打鍵音と自身のしゃべり声だけにすることができる。

空調の音や周囲の虫の鳴き声なども設定や組み合わせ次第では一切入れずに綺麗な音質で配信ができるようになる優れものだ。

もちろん配信以外の用途で歌ってみたの歌を録ったり、何かしらの企画収録の音声収録にも使うことができる。

ただし、そういった収録物を録る場合にはコンプレッサーやディエッサー、エンハンサーはすべてオフにしてマイクプリアンプとノイズゲートのみを使うことを推奨する

なぜならあなたが提出した先で音声編集を行う作業者からするとコンプレッサーが掛かっていたりディエッサーが掛かっていたりエンハンサーで調整されていると作業がとってもしづらくてリテイクの依頼をしなければならないような状況になる場合があるからだ。

その点に留意しておけば音質改善に向けての切り札とも言える機材だ。
ちなみにこれはオーディオインターフェースのインプットに接続して使う機材のため、接続するためには別途「ラインケーブル」と呼ばれるケーブルが必要になる

dbx 286sのマイクインプットにマイクを接続し、dbx 286sのアウトプットからLINEケーブルでオーディオインターフェースのLINEインプットに接続して、ライン接続でつなぐのだ。

マイク入力とLINE入力が一つのXLR端子で管理されていてオーディオインターフェース側でもボリューム調整を行う必要がある製品(AG03など)の場合、ボリュームは基本的にdbx 286s側で十分に増幅したうえで、オーディオインターフェース側での増幅は控えめにするとよいだろう。

上述したようにAG03や通常のオーディオインターフェースでも問題なく接続できるが、通常のオーディオインターフェースの場合は背面にLINEインプットが付いているもの(例:MOTU M4等)を用意すると配線する際に便利だろう。

オーディオインターフェースから離れた位置に置くのであれば2~3m、オーディオインターフェースの近くに置くのであれば1mの両端子ステレオのラインケーブルを使うことを推奨する。

CANARE SPC02-SA

「DTM」をしたい人向けのオススメ機材

最後にDTM(Desk Top Music)をやりたい人に向けたオススメ機材だが、
DTM」をひとくくりにすると様々な語弊があるため、作曲向けミキシング向けといった括りで簡単に説明する。

なお、DTMに関する用語についての説明はいたずらに長くなってしまうため触れない。

それではまずオーディオインターフェースだが、作曲する人にもミキシングをする人にも「歌ってみた」をやりたい人向けのオススメ機材(予算10万円)の項目で説明しているオーディオインターフェースの内、Audient iD14mkIIMOTU M4は入力/出力ともに良好な機材のためオススメできる機材だ。

特にAudient iD24という上位機種は強くお勧めできる機材となっている

Audient iD24
Audient iD24

このオーディオインターフェースはiD14mkIIの一つ上のモデルなのだが、特筆すべきは「デジタル入出力」が付いていること、「センド・リターン」が付いていることだ。

デジタル入出力とプリアンプセクションにセンド/リターンが付いていることでアウトボードとの接続などの拡張性が非常に高く、なおかつオーディオインターフェースとしての質も高い製品なのに販売価格5万円を切っているという機材だ。
※2023年9月現在、価格改定により56,650円となっているが、お買い得であることには変わりない性能を有している。

さらにラインアウト(スピーカーアウト)とヘッドホンアウトは2系統ずつ存在し、ギターやベース用の倍音豊かなディスクリート入力もついている。

5万円未満でDTM活動用のオーディオインターフェースを選ぶ中では最も多機能でまず困ることが少ない機材と言えるだろう。

「歌ってみた」をやりたい人向けのオススメ機材(予算10万円)の項目でMOTUM4について価格帯的に惜しい部分があると記述したが、
これは「デジタル入出力」が搭載されていないためだ。

追加で機器を拡張する際の自由度が限られてしまうため、アウトボードを取り入れたいと考えたときや例えばドラムRecなどで多チャンネル使いたいといった時にプリアンプの増設が行えないということが難点になる。

もちろん、外に持ち出してRecしたり、自宅環境でデジタル入力系のアウトボードを組まないのであればMOTUのM4はオススメだ。

MOTU M4

5万円以上の機器となると求める機能や質感といった判断基準になってくるため当記事では割愛とするが、「機材の新調などをする際はなるべくケチらない方が後悔しない」ということを覚えておいてほしい。

筆者はできる限り安く良い機材はないものかと結局無駄に色々な機材を試した人間だが、最終的に行き着いた先はやはりそれなりに良い値段のする機材となった。

今メインで使っている機材に行き着くまでにいくら使ったかを考えるのは頭が痛いとだけ記そうと思う。

続けてヘッドホンやスピーカーについて言及しようと思うが、これらも「何をどこまでしたいのか」で分岐する。

作曲をしたい」人に向けて、生楽器や録音物を扱う人であればヘッドホンのオススメは記事の前半でも書いている「SONY MDR-CD900ST」はオススメだ。

なぜならノイズに気付きやすいため、ミキシングを外注する場合でもギターやベースなどの録音物のハムノイズなどにも気づきやすいからだ。

また、アンプシミュレーターなどを用いてギターやベースの音作りなどをする場合も色付けの少ない音で始められるため、きちんと特性を理解したうえで使用すれば音作りで変に色を足してしまうということが少なくなる。

ただし、長時間連用するとユニットの近さゆえに耳疲れしてしまうため、YAXIのイヤーパッドに換装して少しだけユニットを耳から遠ざけて耳を労わることを推奨する。

続けてオススメなのは装着感が軽くて疲れにくいという点で
SENNHEISERHD300PROはオススメできるヘッドホンだ。

SENNHEISER HD300PRO

こちらはミックスのチェックに使えないこともないヘッドホンだが、やや低域の主張があるためバランスよく調整する必要のある作業にはあまり向かないと言える。

しかし、装着感は軽く長時間使用していても疲れにくいため、スピーカーから音を出せない環境で作曲をする人にはなかなかオススメのヘッドホンだ。

続けてSHURE SRH840
こちらは録音物のチェックにもミキシングにも使えるため
個人的には密閉型では一番オススメと言える。

SHURE SRH840

こちらは耳からユニットまでの間の距離はすこし遠目で多少重たい印象を受けるヘッドホンだが、クリアで色付けのないシンプルな音を鳴らしてくれる。

悪く言えば音を聞いていてあまり面白味を感じないヘッドホンだが、
イコライザを調整する作業などでは逆にそのシンプルさがオススメできる。

続けてスピーカーだが、スピーカーに関しては鳴らす環境の影響が大きすぎる機材なので一概にこれとは言えない。

可能であれば自身が行動できる範囲内にある楽器店や音響機材専門店に実際に赴き、それぞれ音を確認して好みのものを選ぶことをオススメしたい。

しかし、そのうえで特定の環境で使うという条件のもとでオススメできる製品を紹介する。

あまり大きな音は出せない、置けるようなスペースも限られているという場合はIK MULTIMEDIA iLoud Micro Monitorがおすすめだろう。

3インチサイズのモニタースピーカーでそれなりにパワーもしっかり出る上、本体をマイクスタンドのネジに挿して立てることができるので設置の際に場所やスタンドで大きく悩まずに済む。

ただし、強い低域を出し過ぎるとユニットが耐えられず音割れすることがあるため注意が必要だ。

その他のオススメとしては自身が使用していて満足しているのはFOCALSHAPE50というスピーカーだ。

FOCAL SHAPE50にする以前ではADAM AUDIO A3Xをメインに使っていたため、ギターを演奏する際の高域の煌びやかさはA3Xのほうが好みだったものの、ミキシング作業における音の判断はSHAPE 50の方が迷わずに行えるようになった。

また、モニタースピーカーを導入するのであればキャリブレーションソフトの導入も検討することをオススメしたい
定番と言える製品はSonarworks SoundID Reference

Sonarworks SoundID Reference

これは端末のサウンドシステムに介入して動作するソフトウェアで、付属する測定用マイクでスピーカーからの出音に対しての部屋鳴りなどを計測、最終的に測定結果をイコライジングしてスピーカーからの出音を調整するものだ。

これを導入した場合はサウンドシステムにSoundIDのアプリケーションが常駐し、DAW作業時のみでなく普段YouTubeやNetflixなどで動画配信を楽しむ際やローカルに保存した音楽の再生を行う際などにもすべて測定結果に乗っ取りフラットな音にイコライジングされた音を聴くことになる。

DAW作業時のみ有効にしたい場合はアプリケーション側でキャリブレーションを切るか、からっぽのプロパティファイルをセレクトすることで解決できる。

筆者はミキシングをメインに作業をしているが、SoundID Referenceを導入する前と後で音の判断の仕方がまるっと変わったと言える。

感覚で言うのならば、自分のことを悟空だと思っていたが実際はヤムチャだったことに気付けたという感じだ。

モニタースピーカーを導入してミキシングの作業をする人は導入することを推奨したい。
※執筆している当日は何かのセールで安くなっていたが、通常価格は40,000円超なのでセール時期に購入することをオススメする。


さいごに

ここまでつらつらと独断と偏見でモノを書いたが、超長文になってしまったため、これを最後まで読んでいる人はきっと藁にも縋る気持ちで知見を深めたいと思う人か、究極の変人なのだと思う。

特に収益化を目的とした記事でもないのにこんな独り言を連ね続けた自分も間違いなく変人だという自覚があるのだから、これを読んでいるあなたもきっと変人だろう。

昨今ではあの機材は良い、この機材はだめだという両極端な意見が多く、見ていると辟易することが多い。

色々と良いも悪いも書いたが、あくまで個人的な意見としては自分の好きな機材を自分の好きに買って使えばいいと思う。

音が良いとか悪いとかよりも利便性を求めたいときだってあるし、利便性は悪くとも音の判断がしっかりできる機材を導入したいときだってある。

自分自身が満足していれば、他人は関係ないのだ。

人から「これは悪い」と言われても自分が満足しているのならそれでいい。
自分でも満足できないときに藁にも縋る思いで調べた先で
とにかくこれを買えば間違いないというようなよくわからない広告まみれのアフィ記事に釣られてしまう人がひとりでも減ることを願っている。

あと、用途を考えずに適当に機材をオススメする輩は滅びればいいと思う。

なお、この記事に書いてある以上のランクの機材(1つ数十万円とかするもの)なんかは自分が使ったことがない、音を聴いたことがないものとして紹介することはしなかったが、そういった高額機材についてはちゃんとしたプロの方のレビューを参考にすることを推奨する。

佐久間


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