佐野徹夜「透明になれなかった僕たちのために」感想
両親が好きな人は、生まれてきたことに感謝している人であり、
両親が嫌いな人は、生まれてきたことに嫌悪感を抱いている人。そして何より生まれてきたくなかった人であろう。
これはそんな、生まれてきたくなかった人達による、両親やDNAへの愛と憎しみ、苦しみの物語だ。
主人公アリオは、「恋愛は性欲の詩的表現」だと考え、また「性欲が殺意に転じる」ことを恐れている。この物語には、性行為にて孕まれ、この世に生を受けた人物はほぼ描かれていない。いわゆる"愛の産物"が存在しなく、どこにも愛がない。自分を嫌悪し、人を愛せなくなった人ばかりが登場する。
この物語は、登場人物全員が嘘をついていたという衝撃的な独白から始まる。近未来風な作風で、遺伝子操作をしていた過去を淡々と描き、当事者達が全員が乾いた性格をしていて感情を語らない。ただ、真実に気づいたとき『うんざりした』と綴る、主人公アリオによる死生観のモノローグは随一で、我々読者に強く訴えかけてくる。
物語はすべてアリオの推測で進められ、真実は完全には明らかになっていない。翻弄される彼らから何を読み取り、どれを真実と選ぶのか、挑戦状のような本だと感じた。
私はミステリをあまり読まないので誤読かもしれない。正直自信がない。親所以子が自暴自棄になるのか、子所以親が狂っているのか。どちらでもないのだろうけど、卵が先か鶏が先かのような曖昧とした感じが尾を引いた。アリオは、一体誰を救いたかったのだろう。揶揄され続けた自分自身か、自殺した(と言われている)双子のユリオか、二人が同時に好きになったという昔馴染みの深雪か…。
今回、サイン本を頂いたのでひとまずの感想を綴ってはいるのだが、現時点では手放しに絶賛というわけではないのでこの通りnoteに書いた次第だ。 真相をしっかり紐解こうとノートに事項を抜き出して発売してから三回読んで、淡々とまとめて続けていたのだが、自力ではどうもしっくりくることができなかった。現状私は、社畜にとって死のムーブと呼ばれる12月を生きているせいか、夢で毎日誰かが死んで、目覚めるために夢か現実か??と慌てて最悪の目覚めを繰り返している。とりあえず疲れているのかもしれない。
生まれてきたくなかった類の人間なので、親の性行為やそもそもその親という存在への嫌悪感を日々募らせており、鬱々とした死生観のシャワーを然るべきタイミングで巡りあえたことには感謝している。
落ち着いたら、きちんとこの話を読み終えた人と語り合いたい。野崎みたいな人間ってうんざりするよな、とか、人間って猟奇的でやだなとか、アリオと蒼って次会ったときどうするの、とか。 妙に他人事にできない魅力が詰まった話を書く佐野徹夜さんが大好きだ。ひとまずは、彼の思考レベルに追い付けるように成長したい。
佐野徹夜さん、FLAT STUDIOさん、サイン本ありがとうございました。
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