雑木林

魚の視界Part2(すごい色感覚)

以前書いた記事「魚の視界 〜水面、空中に対して〜」に関して、こんな話もあるよ、と教えていただきました。以下の記事、掲載は少し前のことのようですが、なかなかに面白いので、今回の更新は、これを実際の釣りに落とし込んで解説/考察していこうかな? と考えました。

研究室に行ってみた! 東京大学大学院新領域創成科学研究科 色覚の進化
第3回 魚の色覚はすごい!

 パッと見ても「なんだかわからない」という人は多いと思います。そこで、一般釣り人向けに大くくりにしてしまいましょう。

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●ざっくり言えば……

:我々人間の属する哺乳類は、進化の過程で一度色覚を失っていますが、霊長類(サル、類人猿、ヒト)だけは、3色の色覚が復活しています。ただし他の脊椎動物が見ている色覚とはシステムがかなり違って、赤を感じるものから緑を感じるものが分化し、紫外線を感じるものを青を感じるものとして使えるようにしています。
(※魚や爬虫類が見ている色と我々に見えている色が同じかどうか、筆者としても以前から疑問でした)

:魚は色覚がないとか、いろいろ言う釣り人はいますが、きちんと4色+明暗という色覚があるうえに、それぞれ複数の感度を持った知覚を備えています(これは「諸説ある」ようなレベルではなく確定事項)。おそらくは淡水/海水、濁度とその原因、深さによって届く光の波長が異なるなど、水中の光環境が非常に多様であるためであろうと推測されています。

 ちなみの透明度の高い水域(黒潮などの海洋)では、赤い光は早々に吸収され、青い光が一番深くまで届きますが、植物プランクトンの多い淡水域などでは青い光は届きにくく、やや緑に振れたところの光のほうが届くとされています(引用元図版を参照ください)。
 ガンガンに濁ってくると、青や緑の光は通らないので、オレンジや黄色=蛍光黄色のような色か、どんな光線状態でもシルエットがはっきりする黒のルアーを使うのはよく知られていますね。

:海水域と淡水域では水質やプランクトンなどで深くまで通りやすい色の光が異なりますが、そこにいる魚の視細胞が異なった適応をしているだけでなく、サケウナギなど淡水と海水を行き来する魚は、淡水にいるときと海水にいるときでそれぞれ専用のセットを使い分けています。

:こういった複数のセットは純淡水魚であっても持っている魚がおり、研究が進んでいる種では、網膜のなかでも、水面に近いものを見る場所と、水中、水底を見る場所でその見易さに応じた分布をしている(引用元図版参照)ことが確認されています。これは他の魚種にも存在する可能性があります。

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●ということは……

 強引ですが、わかりやすく簡単にまとめてしまうと
・魚には人間が見ているよりも、かなり豊かな色彩感覚がある。
・環境に合わせて複数の色感受性を切り替えている魚種もいる。
・見る方向の光線状態に合わせた色彩感覚を持っているものさえいる。
 つまり、釣り人が明るさや水色で偏光サングラスの色を変えるようなことを、身体的メカニズムとして初めから身につけている、ということになるわけです。なかなかにすごいですよね。

●これを元に、釣り人向きに「推論」を進めると……

 水深や濁度によって到達する光の波長=色が変化するために、ルアーなどは実際の水中での発色が違う……という話は昔からあります。
 けれども、魚の側からしても、眼の中の光を受ける部分の感受性が異なるために、遊泳層の上方/水面近くにあるルアーと、遊泳層ぴったりにあるルアー、遊泳層の下(たいてい水底)にあるルアーでは色の見え方が変わっている可能性があるわけです。
 さらに言えば、発見接近捕食というように、下から上目遣いで獲物に近づき、捕食のために獲物に正対するように姿勢を変える=獲物を見る角度が変わることによって、色の見え方が変化している可能性もあるわけですね。
 さらに可能性の話で続けてしまいますけど、この変化で異常を感じて、ルアーや毛鈎、餌に対しての捕食動作を止めてしまう魚もいる、かもしれません。本体の色だけでなく、糸や鈎がバッチリ見えてしまうとか。

 生息している水深によって、魚種により、いや同じ魚種でも見え方が違う/切り替えている可能性もあります(水面直下から100m以上の水深まで動くカンパチヒラマサマグロの一部など)。普段は深いところにいるが産卵回遊で浅いところに来る魚(マダイなど)は、光や色の感受性を切り替えているかもしれませんし、もともと深いところにいる魚種なのに浅場の岩礁に居ついた個体(これもマダイとか……)は? 魚種としては夜行性が強いはずなのに昼間も行動している個体(メバルナマズとか)の光感受性は他の個体と何か異なっているのか?などなど、考えると面白いですね。

 そもそも、人間が見ている色が魚の見ている色と同じと言えるのか? という問題。リアル・イミテーションでは大きな差がないかもしれませんが、実際の餌とかけ離れた色の場合は、魚から見たらどうなるのか? 全く違うものを見ている可能性もなきにしもあらず……と考えると、なかなか興味深いものがあります。
 例えば「チャートリュース」「ホットオレンジ」のようなギラギラの蛍光色や、「ケイムラ」をはじめとする控えめな蛍光色、蓄光の「グロー」、アワビなどの貝/動物の角の持つ「オーロラ」的な煌めきについても、魚の眼を通して見た場合には、人間が見ているものと全く違う色が見えているのかもしれません。
 一見して同じ色でもメーカーによる釣果の違いがあるなら、あるいはモデルチェンジ前後で釣果が変わるなどの事象が発生しているなら、それはこういう部分での発色の差異なのかも? とかね。

 さらに! フライフィッシングの主力ターゲットであるサケマス類が、淡水域と海域で色の感受性を切り替えるとするなら、それが環境要因で変化するのか? 成長が要因となるのか? といったことも考えなければなりません。
 また、昨今釣りものとして人気の海サクラマス、海アメマスと、河川に遡上したサクラマス、アメマスの光/色感受性はどうなのでしょう? 川/海のどのあたりで切り替わっているのでしょうか? この延長上には、環境のほか外見や摂餌、回遊習性などが大きく異なる河川型湖沼型は異なっているのか? など、気になることもたくさんありますね。湖沼型でも、沖合を小魚の群れを追って回遊するタイプと、湖岸に居つくタイプではどうか? なんて……普段からこういうことを気にされている方は、何かピンとくるものがあるかも?。

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 今回は本当に雑談になってしまいましたが、こういうことも考えつつ、毛鈎を作ったり、ルアーを選んだり、カスタマイズすると、面白いこともあるかもしれないな、というお話でした。

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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