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佐久穂町の昔の集落の暮らし 影② 〜同じ年のお二人のお話〜

佐久穂町の西側、北八ヶ岳の裾野にある上区。その一つに影という名前の集落があります。今回は、25歳で影へお嫁にきたお二人にお話をお伺いしました。
お話を伺ったのは…

<影在住>
岡部 光恵さん(86)
岡部 のぶゑさん(86)

[佐久穂町の昔の集落の暮らし 影 〜同じ年のお二人のお話〜]
は、①〜③編まであります。
▼最初の記事はこちら
佐久穂町の昔の集落の暮らし 影①

井戸のお話

インタビュアー(以下 イ)「他の地区では、生活のために川の水を汲んできたお話を伺ったのですが、影ではどうでしたか。」

光恵さん(以下 み)「そうだいね。井戸だいな。」

のぶゑさん(以下 の)「井戸だ。うちはまだ、井戸を埋めないで今もそのまんま。お花や野菜に水くれたりするのに使っているだ。」


「今も枯れないで残っているんですね。お嫁に来た頃は、周りの家も全部井戸でしたか。」

「影でも個人個人にあったわけでは、ないらしいよ。近所やマケ(周囲に暮らしている親戚)で汲みに来てたよ。」

「みんな共有で使ってたと思います。」

「うちの井戸はおじいさん(義祖父)が掘ったみたいで、コンクリートのところに大正何年て書いてあるよ。」


「お嫁に来た頃は、井戸水はどんなことに使っていましたか。」

「飲み水じゃないかな。今は、水道になっちゃったから、飲み水には使えないけど。それから、雨でもね、大雨になれば柄杓でくめるくらいね。たまってくるね。」

「料理でも井戸水を使っていたんですか。」

「みんなそうだね。うちにも近所の人が汲みにきたみたいだよ。昔は、水汲む桶があるんだよね。四角のやつがあってね。それで運んだみたいだよ。私が来たときには、近所の人たちは水道が入ってたから。」

「実家(余地)では料理に使っていたよ。深い井戸があってね。」

「お嫁に来てからは、水道があったんですね。」

「でも、貴重だったからね、子どものオムツ洗うなんて、向こうの川へ行ってね。ゆすいだり(すすいだり)。」

「洗濯は川でしたんですね。」

「ゆすぐ(すすぐ)のはね。」

大事に使われているのぶゑさんのお宅の井戸
中をのぞくと石でしっかりと囲まれた深い井戸でした


出産・子育てのお話


「子育てで大変だったことはありますか。」

「大変だったよ。必ず子どもを連れて山へ行っただもの。真ん中の息子なんて、私が畑に仕事に行くだっていえばさ、籠の中に入れてさ、おぶって行って。桑の木の下に籠をおいて、縄で縛り付けてさ。たまにのぞいてみれば、やだくな(いやにな)って泣いてね。泣き疲れて寝てさ。しょっちゅう子ども連れて畑に行った。」

「山っていうと、桑取りですか、畑ですか。」

「畑も耕したりさ、今でこそ何も作らないけど、昔はいろいろ蒔きものしたもの。」

「いろいろ蒔いたりしたから、その手入れをしたもの。」


「畑では何を育てていたんですか。」

「豆とか、大麦とか小麦とか。うちで食べるんだよ。麦は粉にして。」

「精米みたいにするところがあってね。」

「お粉にして、お饅頭にしたり、うどんにしたり。買うって言ったってお金がないから。今度1日のお墓参りだけど、お饅頭作ったんだよ。」

「大変だったね、昔は。よくやっただ。」


「出産は、どんな風にしていたんですか。」

「私はお産婆さんのところへ行って。」

「私も、役場に助産婦さんがいて、自分で電話してさ。」

「お産婆さんが子ども(新生児)をみてくれるから。お料理も出してくれて、一週間お世話になって。」

「お産婆さんは、上区にいたんですか。」

「四ツ谷にいた。役場に勤めていてね。」


「離乳食はどうしていたんですか。」

「そういうのはやらない。親の食べ物の柔らかいところをあげて。」

「今考えれば、よく大きくなったなって。うちでとったものをくれた(食べさせた)だけなのに。フフフ。」

「小学校に入学するまでは、ずっと家で育てていたんですか。」

「高野町に保育園があって。」

「2年くらい行ったいな。」

「どうやって通ったんですか。」

「役場から、スクールバスが出て。それで、影のバス停があって送り迎えして。保育園に行っている間は頑張って仕事して。」


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北沢川とその支流にそって広がる上区ですが、影では、川の水ではなく井戸水を使っていたんですね。今でも、活用されているお話がステキでした。また、当時の子育ては、お百姓との両立で大変だっただろうなと想像できます。お二人は、簡単に『山の畑』とおっしゃいましたが、実際にはかなりの距離を登って行くようで、大変さが伺えました。次回の「佐久穂町の昔の集落の暮らし 影 同じ年のお二人のお話③」では、手作りだった大豆製品と、十九夜という行事についてお伺いしていきます。

▼続きはこちら
佐久穂町の昔の集落の暮らし 影③


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文 川嶋愛香


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