私の出逢った方言どっつことない

私が出逢った佐久穂の方言

私がこの佐久穂町大日向に息子と越して5年になる。当初、来て間もない私たちを大日向の方々は、歓迎し、バレーボール大会ソフトボール大会、マレットゴルフ大会などの行事に誘って下さった。
私たち親子は仕事、田んぼ、薪割り、花咲く太鼓、日本舞踊、市民ミュージカル、ウオーキング、山登り、おやじバンドに参加。息子は、ご近所の昭雄さんと親方、小方の師弟関係を結び、息子の周りには、色んなことを教えてくれる魅力的な素敵な大人たちがたくさんいる。

移住した年の10月にいきなり台風19号が来て家の目の前の道が川に削られて落ち、私たちは、仮住まいを余儀なくされた。息子は、その方たちから仕込まれた方言を使い、私に、「どっつことねえ、色んなとこ住めて楽しいずら」と笑った。不安だった気持ちが、方言を楽しむ息子のおかげで和んだ。
皆さんも被災し、周りの方たちも大変なのに引っ越しの手伝いをして下さった。仮住まい先(畑)の皆さんにもとても親切にしていただいた。そんな方たちのお陰で折れそうな気持ちの時も「どっつことない」は、いつも私たちを勇気づけた。
転校した時も息子は私に「心配しないで、どっつことねえから」と私に言う。佐久穂町の皆さんに見守り可愛がっていただき、今では、息子は、私の背を越し、安心して成長し続けている。


今年も稲がたわわに実り収穫を迎えている。畑仕事をしていると、「水くれ」してと言われる。「水やりですよね?」というと、ここらでは、「水くれっつうだ。」と教えていただく。
「なから、良い塩梅だな。」「なから?」「90%ぐれえ出来たっつうことずら、わからねえか、わからねえよな、ハハハ」っと笑われる。
「おらとはほー、ここで生まれ育ってよ。昔は、学校行くに4~5キロあるいただよ。山から学校さ通うもんはみんな足が速かっただよ。」
「かけっこのことを『とびっくら』っていってたな。」
「学校行くのに3つか4つの家の井戸水飲みながら学校に行くだよ。田んぼ仕事の時じゃ湧水飲んでたから、回虫なんてみんなお腹にいたからな、虫下し飲んだりするのは、当たりめえだったな。」
「学校にはヨタ野郎(悪ガキ)がいてな、よくぶん殴られてたな。」
「親にもへえぶん殴られて育ってるからどっつことねけどな。はしっけえ(要領のいい)奴もいたな。昔は子どもがメタ(たくさん)いたから賑やかだったよ、とっても。そんでも戦争で父親やへー子どもが死んだりしてさ、おやげねえ(可哀そうな)ことがあっただよ。」
「おらとも80だの90だつう歳になるとへーずく(根気)が続かねえよ。しんのだ。(疲れる)」

そう言いながらも作業の手を休めることがない。
働いて、働いて生きてこられた手は、しっかり大きい。穏やかに、にこやかに笑う笑顔に、深く刻み込まれた年輪を感じる。

山や川や雪深さなど地形や風土で方言が短く使われたり、暖かい場所は、言葉が、おおらかだったりする。この佐久穂も広いので、高低差で雪深い地域と方言が少し違うらしい。方言遣いも世代差がかなりあると話を伺っていて感じる。
 
だが、若い方が高齢者の方に「~おくんないし」と話されるのを聴くと素敵だな、と思う。方言は、人と人との距離感を縮めてくれているように感じた。私も覚えた方言を使ってみようと思うこの頃だ。今年も「どっつことない。」と笑顔で生きている人、佐久穂の人の言葉が私は、好きだし探求したいと思っている。

文・大波多 志保


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