ダ・ヴィンチ12月号に掲載いただきました

映画『君の忘れ方』撮影の真っ最中。
朝一で撮影後、夕暮れ時を狙うまで撮影はお休みです、という日があった。
そんな日は基本弁当は用意されず、バレ飯になる(バレ飯、撮影現場用語。バラバラにご飯を食べてね、ということ)。

880円までならば、領収書で後日精算しますよという素敵なルールが、撮影の現場には基本的に存在する。
超えた分は自腹で払えば大丈夫なので、高山ラーメン屋に入った僕は、チャーシューと煮卵をトッピング。普段なら撮影中は腹いっぱいに絶対しないのだが、仮眠を取る時間もありそうだったので、思い切った選択をした。
結果、至福の時間が訪れた。ラーメンというのは、本当に疲れに染みる食べ物。じっくり味わいつつ、スマホでメールチェックをしていると、会社の問い合わせフォームからメールを見つけた。そしてまさにそれが、月刊ダ・ヴィンチさんからのものだったのだ。

ダ・ヴィンチは、高校時代によく読んでいた。図書委員をやっていたことがあり、退屈すると書架に置かれたそれを熟読していた良き思い出。
ダ・ヴィンチのおかげで出会った小説も多数ある。
そんな雑誌からのメール。
それはかなりメモリアルな瞬間で、今でも記憶にしっかりと焼き付いている。その時食ったラーメンが、もう素晴らしく美味かったということ。興奮したせいで、その後仮眠を取れず、夕方はちょっと眠かったということ。


実際にインタビューいただくのは、映画の撮影終了を待っていただいた。
クランクアップの翌日、僕は飯田橋に向かった。

実に不思議な感覚。
ここでのことは、もう本当に記憶にないのである。

映画の撮影は、身も心もあらゆるものも奪っていった。
基本的にオンタイムで進み、目だったトラブルやもめ事もなく、スタッフ全員で駆け抜けた幸福な現場だったにも関わらず、撮影後から2週間、朦朧と生きることになった。
それはもうひとえに僕の体力や精神力の鍛錬が足りないだけなのだけど、とにかく朦朧とした。
どれくらい朦朧とかというと、2時間起きたらもう眠たくて2時間寝る、を繰り返す生活。夜はまともに眠れず、昼は起きて寝るを繰り返す。寝るたびに撮影現場の夢を見る。つくづく、映画監督の仕事の大変さを痛感した。

まあそれはさておき、そんな朦朧DAYS幕開けの日だ。
インタビューしていただいた時のこと、具体的には、自分が何を話したかの記憶が本当にない。

もちろん、頑張った感覚は残っている。
とても頑張ったのに、なんにも覚えていないのが奇妙なのだ。

幸い、編集のSさんとライターの冨田さんが、もう全力で僕を後押ししてくれて。僕としては延々頭から湧き出てくるものを口から放出した、という感じ。それをお二人が絶妙に導いてくださった。

記事にも冨田さんは、最後拍手をした、と書いてくださっているが、あの席で本当に冨田さんは拍手をしてくれた。しかし。しかしだ。取材を終えて建物を出て歩きながら、僕は「はて……何を言って拍手してもらえたのだろうか……」と、もう思い出せなくなっていた。そんなこと、人生で初めてだった。

それから2週間。
朦朧WEEKSを経た頃にゲラを送ってもらい。読むと……たちまち蘇る記憶。たしかにそこには、僕が普段思っていることが書かれていた。
良かった……なんとか仕事になった……

編集のSさん、ライターの冨田さん、大変感謝です。

よろしければぜひ、ダ・ヴィンチ12月号。読んでみてください。
取材いただくきっかけになったこちらの小説も、もし興が乗りましたら。




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