ぐりとぐら@サクビス

cocシナリオとか気まぐれで小説かいたりすると思います。 読んでくれたらうれしい限りで…

ぐりとぐら@サクビス

cocシナリオとか気まぐれで小説かいたりすると思います。 読んでくれたらうれしい限りでさぁ……。

記事一覧

フローレンス家の狼執事

Ⅰ のらりくらり――くらりのらり。のうのうと――うとうとと。 それは風前の灯火ともいえるもので、どうして自分が存在しているのか。 どうして生という名の道筋から未だ…

死の商人

「……。」 橙の照明が薄暗い店内を照らしだし、彩色に富む様々な色の酒瓶が燦爛と輝いているのだろう。 一人、カウンターの奥でグラスを吹いている人物がいた。 カマーベ…

姫金魚草の酒場

1 家に帰るまでの事は覚えていない、といえば嘘になる。 しかし覚えてないといってもいいほどにその帰路は何も無い平穏で、ついさっきだって実は何も無かったんじゃないか…

灰土の青

一  大切に仕舞っていたはずの,、色鮮やかなカンバスだった。  何処を見渡しても色彩で溢れかえった長く尊い物語のはずだった。  けれど目下、それがどうでもいいガラク…

[CoC小説]不幸なヴィランは水晶に啼く 花は風に撫でられて

※注意 ・本作はCoCシナリオ「不幸なヴィランは水晶に啼く」のネタバレを含みます。シナリオ本編通過後に閲覧することを『強く』推奨します。 Ⅰ  大きな壁にぶつかっ…

【CoC】【小説】慧可断臂

 注 ) 本作は前作【戦戦慄慄】の続編となります。  ――信念は決意へ。  研ぎ澄ました心象は、深淵の闇を切り裂く刃と化す。  待ち構える巨大な夜と蠢く陰謀。  行…

【CoC】【小説】戦戦慄慄

――ただの押しつけだ。 ――ただの自己満足だ。 その本質はどこまでも自分本位で、渦巻いた理性の中にひっそりと隠した利己主義。 獣である枷は決して千切れることはなく…

フローレンス家の狼執事


のらりくらり――くらりのらり。のうのうと――うとうとと。
それは風前の灯火ともいえるもので、どうして自分が存在しているのか。
どうして生という名の道筋から未だ踏み外さずにいるのか、まるで分からなかった。
旧い記憶まで探りを入れてみても、あるのは凍原を吹き付ける吹雪の潔白と、冷気が尽く熱を奪い去ってゆく感覚だけ。目蓋の暗闇に映るのは、寒冷を湛えた雪原。
腫れ上がる霜焼けと、頼りない小さな手。臓腑

もっとみる

死の商人

「……。」
橙の照明が薄暗い店内を照らしだし、彩色に富む様々な色の酒瓶が燦爛と輝いているのだろう。
一人、カウンターの奥でグラスを吹いている人物がいた。
カマーベストにネクタイを締めた若い女性だった。驚くことに、僕よりも遥かに若く見える。
僕を店内に招き入れたこの男とは違いきっちりとした身嗜みで、そしてどこか無愛想だった。
彼女はこちらを一瞥し、男に対して問う。
「……誰?」
「多分客っすよ」

もっとみる

姫金魚草の酒場

1
家に帰るまでの事は覚えていない、といえば嘘になる。
しかし覚えてないといってもいいほどにその帰路は何も無い平穏で、ついさっきだって実は何も無かったんじゃないかと錯覚してしまいそうだった。
……だが染みついた絶望は、確かに心の奥底に重く降り積もっている。
宛てなく彷徨うように、そして100日ぶりに帰ってきたのだ。
一人で。
鍵を開けて入れば、すっかり整理された玄関だった。
滞在する拠点が無いなん

もっとみる

灰土の青


 大切に仕舞っていたはずの,、色鮮やかなカンバスだった。
 何処を見渡しても色彩で溢れかえった長く尊い物語のはずだった。
 けれど目下、それがどうでもいいガラクタのように思えてしまったんだ。
 途端画材が全て黒く変色して、どの色を塗っても黒く染まるつまらない絵を見ているのがこの上なく不快だった。
 だから叩きつけて壊してしまった。
 ガソリンを撒いて燃やて――烏有に帰す世界を眺めていた。
 す

もっとみる
[CoC小説]不幸なヴィランは水晶に啼く 花は風に撫でられて

[CoC小説]不幸なヴィランは水晶に啼く 花は風に撫でられて

※注意

・本作はCoCシナリオ「不幸なヴィランは水晶に啼く」のネタバレを含みます。シナリオ本編通過後に閲覧することを『強く』推奨します。



 大きな壁にぶつかった時、その壁を乗り越えてゆくには時間とナメクジ程度の推進力が必要だ。
 逆に言えば、それさえあれば乗り越えられない壁なんてない。
 たとえどれほど巨大で絶望的な厚さのある壁だったとしても、時間と前に進むことが出来れば必ず壁は乗り越え

もっとみる
【CoC】【小説】慧可断臂

【CoC】【小説】慧可断臂

 注 ) 本作は前作【戦戦慄慄】の続編となります。

 ――信念は決意へ。

 研ぎ澄ました心象は、深淵の闇を切り裂く刃と化す。
 待ち構える巨大な夜と蠢く陰謀。
 行く先はきっと残酷な選択。
 それでも構えた刃は――月光に鈍く煌いた。

 12/21
 19:34分発
 ――線
 ――行き
 天候 曇り
 気温 10℃

 ――――。
 ――――。

 喧騒が街を支配する。
 フラッシュバッ

もっとみる
【CoC】【小説】戦戦慄慄

【CoC】【小説】戦戦慄慄

――ただの押しつけだ。
――ただの自己満足だ。

その本質はどこまでも自分本位で、渦巻いた理性の中にひっそりと隠した利己主義。
獣である枷は決して千切れることはなく、そして誰に解けるものでもない。
僕が人である限り、それはどこまでも付きまとい追いかけてくる。
逃げることはできない。
助かることもない。
縛られている僕達に、逃げ場などあるわけがなかった。
……それでも。
何も知らない赤子の様に何もか

もっとみる