東方小説「最近のオススメ長編」九選

とりあえず各位は、というか秘封に理解のあるひとは全員、まずこれを読んできて下さい。話はそれからです。

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1578312894


概要

昨日一昨日と長編読みの方々に文句を言い続けておいてこう言うのも何ですが、当方は決して長編が嫌いなわけではないのです。むしろ大好きと言ってもいいと思います。ただ短編も同じくらい好きで、そして短編を下に見る風潮があまり好きでないというだけです。

そしてご存じの通り(?)、長編作品は得てして読み手が不足しがちです。非常に面白い作品であるのに読まれず埋もれたままの作品というのも多くあります。ですので今度は、最近の長編作品のおすすめも語っていこうかと思うのです。ついでに作者についても。

今回も引用は全て東方創想話より。ここでの長編は「40KB(2万文字)以上」を基準としています。2019年中盤-2020年初頭までの期間に投稿されたものから、一人につき一作品のみ選出です。

では、どうぞ。


[“妖精憑きのマエリベリー”] 作者:よみせん

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1578312894

これについては、もはや言うことは何もありません。一年ぶりに3000点の大台へ到達した傑作秘封SFです。詳しくは、感想の2コメさんが語っていらっしゃるのでそちらを見ることをお勧めします。

作者のよみせんさんは、変わった伝承や言い伝えを収集し、それを物語に落とし込むということについて非常に秀でている方です。物語の口当たりもどこか童話的であり、読んでいてどこか満たされたような気分になります。

作品一覧
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/%E3%82%88%E3%81%BF%E3%81%9B%E3%82%93


[ブラッディー・赤蛮奇ー・ビキニ] 作者:いびでろ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1578818678

やらかしてしまった赤蛮奇と、その周囲の人妖どもの、ダークでちょっとロックな感じの群像劇です。赤蛮奇の揺らぎ切った精神描写とその立ち直っていく過程の様子が見事に魅力的に描かれていて、非常に泥臭く綺麗です。

作者のいびでろさんはあおりんごを中心に、パンクでロックでちょっぴり汚い、個性的で魅力的な作品を書く方です。特に作品の合間合間に挟まれる、まるでどこかの格言のような胡乱で愉快な文言は常に非常にそれっぽく、愉快な雰囲気を醸し出しているように思います。時折作品を消してしまう(とてもかなしい)ので現在の創想話にはこれ一作しか残っていませんが、一部はハーメルンにアーカイブされていますから、そちらも是非ご覧ください。

作品一覧
https://syosetu.org/?mode=user_novel_list&uid=243074


[元人間・雲居一輪] 作者:モブ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1580397572

血と暴力に焦がされ続けている一輪の、昔と今の話です。無骨で乱暴でどこか癇癪玉のような一輪のその在り方が、けれど非常に魅力的なように感じるような作品です。

作者のモブさんは非常に多芸な方です。強烈な勢いと反復表現の妙が愉快なギャグ短編から静謐で美しく幻想的な掌編、そして今回のような苛烈さを備えた中長編と、様々な味わいで読み手を楽しませてくれます。

作品一覧
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/%E3%83%A2%E3%83%96


[噂の眞相] 作者:灯眼

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/223/1556902789

質屋の旦那の不審な死と、その真実に気付いた霖之助のミステリ長編です。落ちの見事さもさることながら、登場する人妖たちの様子もたいへん生き生きとして魅力的です。

作者の灯眼さんは霖之助周りを多く書く、ミステリー的構築にとても秀でた方です。読み手をあっと言わせる構築や説得力のある落としどころが魅力的ですが、その上で登場人物の魅力なども見事に描かれていると感じます。

作品一覧
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/%E7%81%AF%E7%9C%BC


[菫は夏に薫らない] 作者:そひか

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/224/1563380772/

菫子がヒモを養う長編です。地獄のような後味の悪さが尾を引く類の作品なので読むには覚悟が必要ですが、非常に丁寧に組み上げられた悪夢のような光景は、一読の価値はあるでしょう。

作者のそひかさんは元々、主に小説本の側で活動していた秘封・蓬莱系の方です。異常でぶっ飛んだ立ち上がりから綿密な構築で物語を組み上げていくその作風は、ギャグからシリアス・鬱まで様々な方向性を内包しています。

作品一覧
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/%E3%81%9D%E3%81%B2%E3%81%8B


[新月の下に導く仮説] 作者:Crapena

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/224/1559467461

少し昔、妹紅が竹林で赤子を拾ったところから始まる長編です。斬新な解釈を下地にして物語がしっかり丁寧に組み上げられており、するすると読めて楽しめます。

作者のCrapenaさんはここまで2本しか投稿していない、比較的新しい作者さんですが、どちらの作品も50KB以上と大変読みごたえがあり、また斬新な解釈とそれを補強するかのようなしっかりとした構築が魅力的です。

作品一覧
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/Crapena


[組長はクールでカッコいい] 作者:おすろのこ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/225/1567936471

鬼傑組組長、吉弔八千慧の秘密の趣味を中心にしたドタバタコメディです。冷徹なシーンと愉快なシーンのギャップ、そして物語全体の勢いが良質な笑いを提供してくれる力作です。

作者のおすろのこさんは現在のところ、投稿作は本作のみのようですが、代わりに普段は東方の実況を行っているそうです。鬼形獣が頒布されてからわりあい早い段階で投稿しているそのフットワークの軽さは見習いたいところです。


[スパナ] 作者:電柱.

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/226/1570802482

魔理沙の家に存在する「開かずの間」と、それをこじ開けようとするアリスの様子から始まる長編です。どたばたとした愉快な前半と一転してシリアスに展開する後半の配分が、実に絶妙で味わい深いです。

作者の電柱.さんは元々同人誌側で活動していた方で、18年末から創想話でも活動するようになりました。200KBを超す大長編から2KB程度の掌編まで非常に手広く書いており、内容も洗練されたシリアスものから活劇的作品、更には独特のテンポで展開されるわちゃわちゃコメディまで実に多芸です。

投稿作品
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/%E9%9B%BB%E6%9F%B1%EF%BC%8E


[閃光少女] 作者:ひとなつ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/223/1557574046

小鈴に頼まれて絵を描き始める阿求の、夢と現の入り混じったような不思議な長編です。幻想的で、幻覚的で、果てしない質量を感じるのにも関わらず触れようとしたら掻き消えてしまいそうなこの物語は、きっとこのひとの手によってしか書けないのだろうと感じさせるほどの凄みがあります。

作者のひとなつさんは、普段はレイマリを中心に、20KB行かない程度の中短編を書いている方です。砂糖菓子のような甘く蕩ける作風と、夜の廃墟のような強烈な不気味さと違和感を味わせてくる作風を使い分ける、鮮烈な情景描写がたいへん魅力的な方です。

投稿作品
http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/author/%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A4



終わりに

小説界隈というものは、創作の界隈の中でもいっとう、入れ替わりの激しい場所だと思います。それは「文字が読めれば最低限は書くことができる」という参入障壁の低さ故でもありますし、「上達がなかなか目には見えない」「読んでくれるひとが少ない」というモチベーション維持の難しさ故でもあるのでしょう。

去年は精力的に活動していた物書きさんが今年に入ってから見当たらない。つまらない作者さんだと思っていたひとがいつの間にか素晴らしい傑作を書き上げていた。或いはぽっと出の作者さんが驚きの完成度を見せつけてきたなどということが頻繁に起こるのが小説界隈ですから、比較的新しい作品にどういったものがあるのかだとか、最近出てきた作者さんはどういうひとがいるのかだとか、そういうことを知る機会というのはとても大事だと思うのです。

どうでしょう、興味の湧くような作者さんは見つかったでしょうか。もし見つけることができたなら、ここまで書いてきた甲斐があるのですが。見つからなかったとしても、これを機会に最近の作品を漁ってみたいと思う人が、この記事を読んで出てくるといいなと思っております。





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