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上司が部下に対して「叱るために罰を使う」についての個人的な見解

行動科学を使って褒める話をしているときに、切っても切り離せない話題が「罰」の話題と感じています。

また、同様のシーンで
「罰の使い方」
「罰を与えていいのか」
「叱ると罰は何が違うのか?」
も、多くの方の関心を惹いている質問に感じます。

今回は「叱るために使う罰」について、個人的な見解をまとめます。
誰かを育てている企業の方、子育て真っ只中のお父様、お母様に伝わると幸いです。
今回の記事の中に出てくる罰に関しては、私がイルカ調教師時代に学んだ応用行動分析学(以下、ABA)や経験の中からのお話となります。

結論から申し上げると、2点
①罰は非常に強力だが「人が使えるものではない」
②「叱る」と「罰」の効果は別

罰とは何か

ABAにおける「罰」の定義では以下のようにあります。

罰は、行動が発生する頻度を減少させるために、望ましくない刺激や結果を行動に続けて結びつけるプロセスです。簡潔に言えば、罰は望ましくない行動を抑制するために不快な結果を導入する手法。

罰の効果

上記でもあるように、罰を使うことで行動の頻度は減少します。
また罰の効果は、行動の頻度を下げる以外にもあり
・即座に行動を止める
・回避、逃避行動を誘発させる
これら二つも、罰の効果として考えることができます。

例えば、現場作業においてスタッフが行った危険な作業を、罰を使うことで即座に停止させ、より危険な結果を生むことを阻止したり、ある場面において適切な行動が出ていないスタッフを、罰の存在によって適切な行動が出るように仕向ける際に使われます(負の強化)

罰の危険性・副作用

「行動を減らす」「即効性」という魅力的なワードが出てきました。
部下の行動に責任をとる上司の立場からすれば、非常に興味が湧くのも頷けます。

ですが、もちろん様々な危険や副作用があり、罰の運用には注意が必要です。(個人的に罰は人間が使える代物ではないと思っています。)

罰の危険性は、複数あり
・中毒性
・エスカレートする
・罰に対して使用者も相手も慣れる


罰を使うための大切なルール

罰には中毒性があり、使えば使うほど罰の使用を繰り返してしまう恐れがあります。そのため、もしあなたが使う場合は、ルールに則った運用を意識しないといけません。

ルール1

罰を適用する際は、同じ行動に対しては一貫して同じ罰を適用し、公正であることが重要です。不公平な罰は信頼を損ない、行動の変容に寄与しません。

罰の使用は少なからず、相手との関係を悪化させることが予想されます。
そこには「恐怖」という感情が生まれてることも考えられます。
また、相手との関係が元から悪い場合、罰は効果を表さないこともあります。

ルール2

罰の効果を高めるためには、行動と罰の結びつきができるだけ迅速であることが望ましいです。行動と罰の時間的な関係が明確であるほど、効果が高まります。

罰は基本「現行犯」でなければ効果を発揮しない。ということを知っておかないといけません。
遅れて罰を与えても、頻度を減らしたい行動とは違う行動に対して罰を与えることにつながる危険性が高いので、遅延罰は使わないのが良いです。

ルール3

罰の強度は行動に見合ったものでなければなりません。強すぎる罰は避け、行動の変容に十分な刺激を提供することが重要です。

また、強度は「相手がどのように感じているか」が重要です。
そのために、行動の頻度が減っているのか?という視点で、常にモニタリングが必要になり労力を使います。

ルール4

罰を行う際には、具体的な行動を対象とし、抽象的な概念や個人全体に対して罰を与えないようにします。対象が特定されていないと、効果が期待できません。
今の社会でも問題になる「パワハラ・モラハラ」に通じる部分ですが、罰は行動に与えられる手続きであり、人格や個人を罰するのではありません。

ルール5

行動の代わりになる望ましい行動ができるようにサポートを提供することが効果的です。単に罰を加えるのではなく、適切な行動への切り替えを促すことが重要です。

罰には「行動の頻度を減らす」という効果はありますが、正しい行動を伝える効果はありません。
正しい行動を伝えるためには、正しい行動を引き出し褒めて伸ばすしかありません。

ルール6

罰を伴う場面でも、コミュニケーションを大切にします。理由を説明し、改善が期待される行動についてのサポートを提供することが、長期的な変容に寄与します。

罰を与えても、チャンスを奪わないことが相手の成長に対して非常に重要な部分です。
しばしば、チャンスまで奪ってしまうような罰の使い方をされる方がいますが、それは成長の機会までも奪っていることと同義です。

叱るに期待すること

ここまで、罰についてお話をしてきました。
では「叱る」とは何が違うのか。個人的な見解を書きますので、何かあればコメントをいただけると幸いです。

叱ると罰では、その対象が違います。
・罰は行動の頻度を減少に貢献する
・叱るは人格の形成に貢献する

と認識しています。

叱る場合、相手の行動を減らすことに用いられますが、それと同時に
・一人前になって欲しい
・真っ直ぐに、正しくあって欲しい
など「この人をしっかり育てたい」という思いに重きがあると感じています。

もちろん、相手との関係が成り立って初めて成立しますので、この部分を蔑ろにした「叱る」は、本来の意味をなさない別物ということになってしまいかねません。ここが注意です。

家庭内であれビジネスシーンであれ、誰かを叱るというのは度々、機械として訪れます。
これは、非常に大切な機会なので
「叱らない方がいい」
「褒めるだけでいい」
などというような、短絡的な結論にはなりません。

需要なのは
「褒める」「叱る」「罰」をバランスよく、正しく運用することができる
こうしたところにあるのではと感じています。

ビジネスシーンでの罰の運用

つらつらと書きましたが、もしビジネスシーンであなたが罰を使うとしたら?
ここまでの話を読んで「正しく運用」なんてプレッシャーがかかるかもしれませんね。

ですが、冒頭の結論でお話ししたように
「罰は人間が扱うものではない」
というのも、私の個人的な答えです。

この理由としては、運用方法が非常に限定的で、日常で使うには使えなさすぎるという点です。
家電で例えるなら、
ハイテクすぎるが、使い方を間違えると大爆発を起こしてしまう電子レンジ
か、なんかだと思ってください。

怖くて気軽に使えませんね。
なので、罰は「環境」に与えてもらいましょう。というのが私の答えです。

環境が与える罰

ビジネスシーンで使いやすいものであれば「会議への遅刻」です。
行動に対しては具体性が非常に重要なので、今回は「会議」と、シーンを限定しました。

度々、会議開始の時間に遅れるAさん
このAさんの行動を観察していると、どうやら会議に間に合うか合わないかギリギリの時間に移動を開始しているようだ。ということがわかります。

そこで、会議室の扉を開始時刻に施錠することを徹底します。

もちろん、間に合わなかったらAさんは
・ドアノブに手をかけても開かないを体験(ガチャガチャ音が鳴るかも)
・ドアをノックして入室許可をとる(絶対気まずい)
・全員の注目を浴びて入室(地獄)

次の行動はどうなるでしょうか?
もし、あなたがAさんの立場なら、少し早めに移動を開始しませんか?笑

ここで、重要なのは
無言で迎え入れることです。
罰を与えることで、関係の悪化があるかもしれませんし、すでにAさんは開かない扉で地獄を見てますので。傷口に塩を塗り込むことになりかねません。

彼は十分に環境から罰を受けました。
今後の行動変容に期待です。

まとめ

今回は、よく聞かれる「罰」と「叱り方」について、私的な見解を混ぜながら執筆した内容になりました。
いかがでしたか?

罰は非常に効果が大きく、一見魅力的に映るかもしれませんが、運用を間違えると悲惨な未来を引き起こします。
この記事で伝えたいことは、罰を使うな!ということではなく、正しく理解しようとすることが大切であり「褒める」「叱る」「罰」のバランスを意識して相手の成長の機会を作ることが重要ということです。

本日はここで終了です。
最後までありがとうございました。




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