#ヒロアカ・峰田実の才能(むっつり編)


 場所はプールサイド。デッキチェアで優雅にくつろぐ峰田実(みねたみのる)。


 目の前のプールでは水着美女たちが大きなビーチボールを水面に落とさないというルールのもと、きゃあきゃあ言いながら楽しんでいる。


 不意に、大きく弾かれたビーチボールが飛んでくると、峰田のお腹のうえに着地する。


 水着美女たちは、ボールを追いかけるようにプールからあがると、峰田のもとに一斉に駆け寄ってくる。胸元を軽やかに跳躍させ、峰田の心を踊らせる擬音語をまといながら、めいめいにプールサイドを駆けている。


 そんな情景を、サングラス越しに目元をニッコリと微笑ませながら眺めていた峰田は、この上ない幸せを感じていた。よきかな、よきかな。


 峰田を取り囲むように集結した水着美女たちは、峰田を見下ろすように屈み込む。


 峰田にとってそれは素晴らしい景色だった。峰田の胸も大きくはずんだ。


 お腹のうえのボールを渡そうと手を伸ばしかけたところで、峰田は夢から目覚めた。



 真顔で目覚め、しばらくじっと天井を見つめていた峰田は、夢で見たイメージを繰り返し詳細に思い出していた。

 それからゆっくりとベッドから出ると、体操服に着替えて外に出た。


 時刻は早朝で、朝の日差しがうっすらと辺りを照らし始めた頃だった。


 峰田は「もぎもぎ」をふたつ手に取ると、じっと眺めた。

 夢で目の当たりにした景色を思い出しながら、両の手でそれを押し合わせた。

 もぎもぎはぷるぷると震えながら合わさり、一つになった。

 峰田はそれを繰り返し、ビーチボールほどの大きさまで膨らませた。

 それは弾力があり、そして吸着力もあった。


 そこに、たまたま早起きしていた上鳴電気(かみなりでんき)が通り掛かった。

「おい、それって――」峰田の手元を見た上鳴は聞いた。

 峰田は、起床の直前まで見ていた素晴らしい夢の情景と、そこから得たアイデアを事細かく説明した。

 それを聞いた上鳴は口元をニヤニヤさせながら頷いた。「まじか、お前、天才か?」


 さらに、そこに朝のトレーニングをしていた八百万百(やおよろずもも)が通りかかる。

「一体どうやって、いつの間にそんな新しい技を思いついたのですか?」朝っぱらから峰田の新しい動向に驚いた八百万は尋ねる。

 正直に答えようにも、答えづらかった峰田は少し口ごもった。

「悪いけど、まだアイデアがまとまってなくてさ。もう少し確実にできるようになったら教えるわ」

 峰田のそのクールな返答に、ヒーローとしての思慮深さのようなものを感じ、八百万は感心した。

 隣では上鳴が何かを言いたそうにしながら、ニヤニヤ笑っている。

 八百万はトレーニングの続きのために足早に立ち去る。

「誰かに言ったら、お前とは絶縁だからな!」峰田は上鳴に脅しを入れたが、上鳴は「わかった、わかった」と言いながらニヤニヤし続けていた。



 数日後、「中華食べたい」という芦戸三奈(あしどみな)の発案により、芦戸と上鳴と峰田の3人で、休日を利用して町の中華料理屋に行くことになる。

 中華屋への道すがら3人は、コントロールを失ったパラグライダーがビル群に突入してしまい、いまにも何かに衝突しそうになっているという危機的状況に出くわす。

「助けてくれー」パラグライダーの人物は懸命に叫ぶが、声はかき消え、誰にも聞こえない。遠くの山で不吉な風に包み込まれ、そこから不規則に吹き荒れる強風に押し流され、抗うことも身動きすることもできないまま、はるばる流されてきたようだった。

 猛スピードで建物にぶつかりそうになっているパラグライダーを見つけた3人は、必死で目で追いかける。突発的な出来事に、他のヒーローはまだ出動していないようだった。

「そうだ! いいから、オレを投げ飛ばしてくれ!」峰田は芦戸に頼む。

 勢い良くパラグライダーに向かって投げ飛ばされた峰田は、もぎもぎを大きく合わせていく。それから間一髪のところで巨大もぎもぎをビルとパラグライダーの間に投げ込む。巨大なもぎもぎは遭難者を受け止め、無事に救助に成功する。キングスライム!!

 (後に峰田は技を磨き上げ「飛行機を無傷で捕捉できるヒーロー」という稀少な存在の一人として数えられることになる)

 ビルの窓ガラスも割れることなく、パラグライダーの人物もぐったりとはしていたものの無事のようだった。

「誰かオレを受け止めてくれー」峰田は落下しながら泣き叫ぶも、不意にハッと思い直し、もぎもぎを必死に組み合わせ、それをクッション代わりにしながら、かろうじて地面に着地する。

 その瞬間、峰田は夢で見た感触を全身に感じる。「おおっ!」


 落下地点に駆けつけた上鳴と芦戸に引き起こされながら、峰田は無事を伝える。

「あんた、なにそれ!?」芦度は峰田の技に驚いている様子。

「結構もぎっちまったよー」峰田は自分のおでこを優しく撫でる。

「回鍋肉でも食えば元気出るって!」峰田を励ましながら、芦戸に何かを伝えたくてニヤニヤしている上鳴。



 再び歩き出した3人と、重そうな荷物を背負ったモブの女の子が、道の上ですれ違う。

 なにかにつまずいたのか、前のめりに転びそうになる。それに気がついた峰田はヒョイッと女の子と地面の間にもぎもぎを投げ入れ、何事もなかったかのように軽々と、女の子を危機から救う。

「お嬢さん、足元には気をつけたほうがいいですよ」劇画調のキメ顔で微笑みながら女の子を引っ張り上げると、そのまま立ち去る峰田。

 峰田本人には何の他意もなかったが、それを目の当たりにしたモブの女の子は一目惚れしてしまう。「ありがとうございます……」


 先を歩いていた上鳴が振り返る。

「おーい、峰田ー、どうしたー?」上鳴が言う。

「うーん。待ってくれー」峰田が二人の後ろに駆けつけながら、それに答える。

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