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【詩】不自由なあなたへ

この頃睡眠薬を飲んでも眠れなくなってしまった 
悪夢と共にとびおきた昼下がり
ひりひりと体が痛むから仕方がないんだそんなのは
まともな眠り方を僕はもう覚えちゃいないから
ヤクて適切に効いたりはしないのに
だるさがずっと続いてる
今日は何のために生きようか?

夜は怖いけど 眩しい日差しにも心が耐えきれないから
こんな日々にどう名前をつけよう

教えてくれないか
相棒だと呼べるような ギターを奏でられる体があればそれでいいよ
何者かにもうなれないまま大人になったから

高望みしてるんじゃなくて
ただ 普通に生きてみたいよ
ただ すこやかに眠りたいよ

両手で光を叩くように 
なめらかに微笑んで踊りたいだけ
痛いのはどこだ
もうわけがわからずにいる

テレビの中で流れた、障害者の作家のことば、
健康な人に宛てた「傲慢」という響き

私もそうだった
自分の手とか足が 壊れる日がくるって思わずに 
当たり前に走って、遠い好きな場所まで出かけ 
何時間でも痛みを感じず立っていられたから 
好きなことを物理的に自由にできるのが日常で
障害者、てどこか遠くに思ってた
“「傲慢」だった側だよ”
全部普通にまっとうしてた 遊びに行くこと 学校へ行くこと 働くこと 
サボりたい時もあってさ 行きたくないなぁってさ
今はないものねだりの日々なのに笑っちゃうだろう

天地がひっくり返る
利き手も片足もやや不自由になって うまくうごかない

バリアフリーの案内表示をみて気づく

生まれてはじめて 自分は
‘’身体の不自由な方”になった

「身体障害者」

友人が言っていた
障害者、て自分も思いたくなかったけど 手帳持ったら楽になったよ、って

ショウガイシャ

大変だね、と誰かが言う
ひとごとみたいな言葉だな

治るものなの?と無邪気に問う声に微笑んで
ああ、なんで私なんだろうな
なんで 自分の醜さにむかついた 
胃が煮えくりかえるような気持ちの悪さ
ぐつぐつふつふつ

毎日普通に生きられる人が羨ましい
人それぞれの悩みがあるのに、苦しいことのかたちが違うだけなのに、
ぜんぶ、戯言だ

心配してるんだろ、て理屈では思っても 
心は同情を受け入れることを拒んだ

「今何してるの?」
寝込んでるんだよ、ばーか
365日、痛みがあるわけじゃなくて、いいよな、健康って
まがりくねった心に自分で傷をつけ
寝床でうずくまれば夜が私を嘲笑う

これは妬み 羨望
どんなに伸ばしても努力しても、足掻いて手に入るものじゃないから、
厄介だよ病気は

病院に通う、色んな医者にかかる
耳鼻科皮膚科婦人科脳神経内科整形外科
呪詛のような羅列

嫌い嫌い嫌い

この世の中からもし何か一つなくせるとしたら何にしますか?
病気に決まってる

飢餓や戦争、世界にはもっと苦しんでる人もいるのに
自分以外のことはおとぎ話なんだ 情けなくて 
でも泣くこともできずに ここにいる
今もいるんだよ

いつかこれを 笑い話にできる日はくるか?
誰かにやさしく傷つけずに生きることなどできようか

いつ治るかもわからない 手探りの洞穴の内で 
燻る思いを拾い上げてくれ 意味を持たせてくれよ
これは罪ではないと、そう、赦してくれ

みたくない心の吐息は、ためこんだら海になって
心臓の奥にぷかぷかたゆたうんだ

助けてもらうのは恥ずかしいことじゃない
ちゃんと働けないことも悪じゃない
好きなことをやるのはダメじゃない

あと何回 呪いを打ち消せるだろう
頑張りが足りないと言われ続けたあの日から 
呪われてしまったこの身を 希望で包み込むことだってもうできるはずなのに

被害者の顔して、不幸ぶるのはもうやめてくれよ 幸せになる覚悟もしてくれよ
身体がどんな時だって 心は自由なんだて、あんたが証明できなきゃ誰がするんだ 馬鹿たれが

いくつもの夜が私を越え遠ざかる
また朝が何回も訪れて 太陽は時に暴力だ

その営みの中で 私にとっての普通が確立されていく 薄い膜に覆われた世界
ふいに私に放たれた言葉が ぱちんとそれを弾いた

「これは単に僕の願いなんだけどさ、
今を笑えたらいいよね」

元気になったらそれはそれでいいけど、
今を笑っていれば、これ以上悪くなった時もそれほど苦しくないでしょ。

はっとしたのだそのとき
自分の身体が不自由なのを笑うことはできる
…いや、強がりだこれは 今の私にはとてつもなく 
まだ できないよ 怖い

でも確かにその時、ほんの少しだけ和らいだ気がしたんだよ
もしこれ以上悪化したら それはたえるときなのか
もうきっと進めないと怯えていた内臓に
終止符を打たれたような気がして

見透かされたようなその言葉に 心臓が安堵した

笑えたなら 
怖くないだろうな明日がくることが

使えたなら 他者に対して 変な気など使わず

言葉選び 難しいことばかりだ
だけどもう 現在を肯定し 躯が動かないことで心を微笑んで動かせるなら 
それはきっとみえぬ財産だ

だからきっと きっと

そんなことを思える夜があった
今を大丈夫にできたなら

もし治らなかったら、と怯える呼吸はだんだんすこやかになれるだろう 
なってくれ、どうか 私は私に対して祈りを捧ぐ
世界に向けて崇高に何かを願うほどやさしくもなくて 自分の幸せを探すのに必死
ぜんたいの幸福を願えるせいじんにはなれずにいる

でも揺るがない希望がほしい 明日はきっと、と
痛みを抱える誰もが唱える魔法のほんの一部 
少しだけ誰かにも私の願い事をあげる
だから一緒に 


しょうもない日々 過ぎていく 過ぎていくまたたく間に

できないことが増える
できること、みえなくなる それでもいつかはってね、思うよりね
今、今、大切な大好きなもの、逃さずここにいたいだけ

早く治るといいね、同情のやさしさだとわかっていてもなお、
いまのわたしには毒だった、ただそれだけ
だからいつか、なんて蹴っ飛ばしてさ
選べない人生、かわいそうかどうかなんざわたしに決めさせろ

いつ何が起こるかなんてわからない 身に染みて 
誰かの不幸を笑いたくなる最低な私
すこやかさが妬ましく
それでも、ともう一度祈りを天に、いびつに自由な片手を掲げ

どうか、どうにか、またいくつもの朝を迎えられますように
わたしが、あなたが、笑っていられること、願いながら

夜明けに、そんな夢をみて
未来に待ってろと嘯いた


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