第11回六枚道場感想

今回は色々重なって、とても遅くなってしまいました。短いですが、それぞれの作品について、

〇個人的に好きなところ

☆個人的にひっかかったところ

で書いていこうと思います。☆はネガティブというわけではありません。一応、本人の解説や他の人の感想は読まないように書きました。

Aグループ

「ワルハラ探題」
〇「ワルハラ」とある通り、北欧神話がベースの句が続きますね。悪い意味ではなく、中二っぽくって私は好きです。「半仙戯」はブランコのことなんですね、知りませんでした。「翁オイデ童オイデ」は「オーディーン」と「おいでおいで」を引っかけているんでしょうか。冒頭の「北窓をひらく…」と、韻を踏んでいるように見える句の羅列から、私は歌劇を想像しました。

☆「銀化光」、田中さんは他の句でも使ってらっしゃるようなんですが、(うつくしきノイズあなたへ銀化光)素敵な表現ですね。今回「半仙戯」「水圏戯」「秋水裡」など、3文字しばりが多いように見えたのですが、これは意図的でしょうか。だとすると、「三日の月」は、「三日月」で読みを変える形もありかな、と思いました(見当違いだったらすみません)

「ピンクちゃんのだいぼうけん」
〇とても可愛い掌編で、ラストまでの展開、おしゃべりのしかたも好感のもてる流れでした。あきのやま、かぜのとかい…と続く表現もいいですね。前作でも思いましたが、基本的にやさしさが基調にある物語が夏川さんの持ち味なんでしょうね。

☆細かいところなんですが、最後に「モモ」と名前がわかるわけですが、一年一緒にいたのに名前がわからないのかなあと、気になってしまいました。

「迎春奉祝能「清経」」
〇「能楽」というタグを初めて見たんですが、素直に面白かったです。世阿弥の「清経」なんて不勉強で読んだ(みた)ことがないので、ちょっと調べてみたのですが、平清経の恨みつらみがを本歌取りして現代的な諧謔の中に落とし込んだ、という感じでしょうか。これが「迎春奉祝」というのが、とても皮肉めいていていいですね。

☆ちょっとリズムが合わないところが気にはなりました…

Bグループ

「ふたり」
〇「ふたり」は分解するとどうなるのだろうと考えました。(双子の日の翌日)(消しゴム)の「ふたり」は自分自身のように読めますが、(洞窟)の「ふたり」はちょっと違う印象を受けました。「友人」がキーワードになりそうですが、ちょっと考えあぐねました。「親殺し」のテーマを感じ、これは子供の成長かなあという印象です。

☆何作か草野さんの詩を読みましたが、今回が一番難しかった...

「肺とミステリアス」
〇リズムがあって、曲が聴こえてくるようでした。noteを読むと「定時退社」のタグがついていたので、「黄色いliquid」はビールかな、「押し込め!」というような書き方から、社会(仕事)や人間関係への怨嗟のような印象を受けました。

「歴史眼」
〇この中だと「365日」が好みでした。「溶けない白」は、アスファルトの白線でしょうか、都会の孤独のようなものを感じます。印象としてはお若い感じを受けました。

☆ところどころ行がまたがっているのが気になりました。「い)」となっていたりするところ。

Cグループ

「ミナコちゃんの不倫」
〇「ドサッて嫌な音」から始まるミナコちゃんの語りがいいですね。「ドサッ」を中心に据えたところに、作者のセンスを感じました。「奥さんの目に...」という最後のセリフもいいですね。

☆会話を一字下げ、地の文を下げないところは理由がありそうです。奥さんを「鬼」と最初に表現したところがちょっと気になります。ただの恐怖の対象としたら少々安直だし、「私が欠片ほどもいなかった」ような奥さんの状態を示すとしたら、「鬼」は不釣り合いな気がしました。

「秋月国小伝妙『最後で最初の1日』」
〇秋月国は変人しかいなさそうで大変ですね…。スプレーで長い詩を書くのは大変そうです。

☆「辞表」を出しにきたのか、それにしては「私とそのほかニ三人いれば...」というのは、ちょっと「ん?」となりました。

「太閤黄金伝」
〇六枚道場で歴史ものは初めて読みました。割がゆの話は有名ですが、怒った話はあとから付け足されたものかもしれませんね。このまま高野山のガイドに読んでもらってもよさそうな表現でした。

☆全体的に荒筋っぽい感じになってしまうので、やはり六枚だと特に多少説明の必要な歴史物は起伏はつくりにくそうですね。

Dグループ

「中毒症状」
〇どんな「薬」なんでしょうね。どんどん薬をすがって求める人が出てくる展開が面白かったです。

☆個人的には、この「薬」に何かもう少し想像を働かせる隠喩のようなものがあると面白かったかなと思います。

「一月十四日」
〇若々しい「成人」に対して煩悶する描写がよかったです。そう言えば、自分はこの歳の父親を主人公に据えたことがないかもと思いました。受験勉強をする息子がこの年の「成人」とするなら、浪人生という感じでしょうか。この父親の息子に対する微妙な気持ちも味を添えています。

☆万年筆は成功の象徴でしょうか。それを壊し、それを贈るという感じでしょうかね。もらった方は戸惑いますね…

Eグループ

「見知らぬ獣」
〇ユニコーンの次は謎の生き物ですね!恐らく作者の意図とは違うはずなのですが(前半の奇妙な姿の描写と齟齬が生じるので)、私はこの獣はきっと「見知らぬ」ものではない印象を受けました。猫とか、犬とか。私は猫が好きで昔飼っていたんですが、あるときネズミをとってきて、それをむしゃむしゃ食べたんですね。その様子が私には何か別の生き物のように見えました。たぶん、自分が見ないようにしてきた獣の一面を見せられたからだと思います。よく知っているペットが見せる獣の姿、というのを感じました。

「カルラ様」
〇伝承みたいな話が好きなので、個人的に好みでした。カルラ様は最初は読みながら鯨かなあと思っていたのですが、角が出てきたので、角かあ…とわからなくなりました。「人狩り」と言っているので、カエデたちは人ならざるものだとはわかるのですが、なんでしょうねえ。

☆物語のオープニングのような形で終わってしまったので、作者の中には続きがあるのかな、と思いました。

「いたことだけはおぼえてて」
〇宮月さんは学校の子供の描き方が、毎回うまいなと思います。描写もそうですが、ちょっとひりひりとした雰囲気というか…前回のバルブの話もそうですが、この話も、大人と子供の分断があるように思えます。同窓会の主人公と他の同級生の立ち位置の対比は、その分水嶺のようです。

☆ちょっと今回、いつもより解像度が低めで、話の核心を、何回読んでもつかみ損ねたかんじがあります。

Fグループ

「冬列車」
〇今回の道場は、あまりギミックが少ないかなと思ったのですが、このお話は最後まで読んでもう一回読み直しました。スイッチバックです。うーん、ちょっと混乱します。母が氷柱で刺そうとしたのは誰なのか?(刺そうとしたのか?)というのがどうしてもわかりませんでした。ただ文章がうまいので、現実と幻想のないまぜだけで満足はしてしまいます。

☆母も私も「お姉さん」も立っている位置が窓の外なのか窓辺なのか壁なのか、どうも私の頭では解決しきれませんでした…

「然り、揺らぎ」
〇ご本人も書いておられましたが、最近の物語は信仰をめぐる物語だったのだと合点がいきました。読んでいて、カラマーゾフの大審問官と悪魔のくだりを思い出しました。奇跡による信仰ではなく、自由な信仰をキリストは望んだわけですが、この主人公の揺らぎはどちらを選んだのでしょう?

「Soup.」
〇料理の描写がきちんと料理をしたことのある人の描写ですね!料理の手順をちゃんとかける人の文章はとても好感がもてます。つくっているものはどうも普通の料理じゃなさそうですけど…。ウインナーの数を数えるところとか、ぞくぞくします。

☆駿さんはたぶん、何か過ちをおかしたのだろうと推察しますが、作品内ではもう一段階、ヒントを与えてもよいのかなと思いました。でもこれは好みの問題かもしれません。

「青空に分身の憤死」
〇いや、分身いいですね。ただの分身でなく、分身が気持ちを説明する、コミュニケーションの道具というのがいいアイデアだと思いました。ただ、主人公はコミュニケーションの道具ではなく、怒りの表出に限定してしまっているから、最後憤死してしまうのが、おかしくも悲しいお話です。

Gグループ

「形而上学としての野球」
〇前回の道場の話が私は好きだったのですが、そうか、こういう話が猫太さんの書きたいものだよな、と思いました。あることないこと書いていくはったりの文章が私は好きなので、この小説もすごく好みです。

☆でも、形而上学というより神学ではないか、と思いました。

「信太山」
〇なるほど、信太山は旧遊郭のあった地区なので、そういったお店が多いんですね。こういう知識があると、タイトルの記号的な意味がわかって、初読の感想が違ったかもしれません。何となくこういう話はラストでひどいことが起こりそうなので身構えましたが、女の子のセリフが切なく余韻を残す感じでよかったです。

☆ちょっと状況説明が多くて、最後が尻切れトンボのようだったかなと思いました。描写が丁寧なので、そこらへんを絡ませてもうちょっと長く読みたいと思いました。

「オーバーフロー/B」
〇「オーバーフロー/A」で「A」はなんぞやと感想に書いたのですが、A/B面だったんですね。マリカちゃんが不穏だった感じも解決しました。

☆でも、独立した作品ということで考えてしまうと、Aの方が好きだったかな、と思ってしまいます。

「新年あけ迷路」
〇以前、幻BFC2で似たタイプの作品を読みましたが、こちらはもっと文学寄せなイメージです。私はこれ、小説ではなくて詩と呼んでいいのではないかと思いました。一番お正月らしい作品でした。

☆私はWとBをいったりきたりしました。生まれたくないものも生まれでなければならない、人間の業みたいな感じでしょうか。

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