BFC21回戦一言感想

なるべく読まないようにしてきたので、基本的に初読の感想です。オチについても触れます。一晩で書いたのでだんだん疲れてきています。

Aグループ

「青紙」
設定が面白く、最後の「俺たちはやさしい国に住んでいる」を作者は最後に書きたかったのだな、と思いました。ただちょっとあらすじ的で消化不良。連作短編などにすると味わいがもっと出そうでした。

「浅田と下田」
「蒸発」の使われ方が何とも秀逸でした。「帰るきっかけをみつけられずにいる」という文章もいいですね。言葉の選び方に作者の力を感じました。浅田の様子がおかしくなるくだりと、前後の内容のつながりが、ちょっと私には処理できませんでした。

「新しい生活」
短歌の連作は、推し歌ができるのでいいですよね。個人的には「経済的につけっぱなしの冷房を消す 夏の確認のため」です。すごく個人的な話をすると、口語短歌の中に文語が入っているのが私は好きなので、もう少しひんやりした語が欲しかった。あと、これは作品内容でなくて、BFCのこの字数の形式だと、変なところで改行されるので、そこで現実にちょこっと戻されるのが残念でした。半角と全角の数字に意味はあるのかな?

「兄を守る」
最後を読むと、いい題名だなと思いました。「あなた」と呼びかける話者を誰か想像することで、物語の広がりも感じます。これも個人的にひっかかってしまうところなのですが、鳥の言葉がわかる兄弟の話というと、小川洋子さんの「ことり」、「はやくわたしを裏返して」という表現は、恩田陸さんの「エンド・ゲーム」を思い出すなど、ちょっとした設定や言葉で現実に引き戻されてしまいました。

「孵るの子」
私は方言のない国で育ったので、こういう文章がネイティブで書ける(んですよね?)方がとても羨ましいです。一人称の話者で書く時は、私はいつも話者の立ち位置を深く悩んでしまうのですが、この「うち」の独白のような言葉のさざ波は本当に心地が良いです。


Bグループ

「今すぐ食べられたい」
これはちょっとnot for meでした。宗教と外国を扱う物語は、ただの設定としての借用のにおいが感じられると、私は苦手なのです、すみません。

「液体金属の背景 Chapter1」
三回ぐらい読んでようやくなるほどと、思いました(あたまがわるい)。構成が巧みでした。チェイスシーンがもっとシンプルな方が自分好みでした。

「えっちゃんの言う通り」
面白かったです。BグループはアイデアSFグループなのでしょうか。文章もとっても読みやすいです。昔、どこかのハンバーガー屋で大幅値引きがあった日に、厨房の処理が追い付かなくて一時間ぐらい待たされたんですが、店内には謎の連帯感が生まれていて、私が商品を受け取った時に、拍手で見送られたことを思い出しました。

「靴下とコスモス」
うまいです。片方の靴下という話だけで、とても印象深く締めてもらった感じです。

「カナメくんは死ぬ」
ちょっとよくわからない。わからないけど、もう一回読みたくなる。読んでみると、面白いか面白くないかと言われるとよくわからない。でももう一回読ませたくなる時点で作者の勝ちだな、と思います。


Cグループ

「おつきみ」
色々な意味でずるい物語です。何となく、最初の段落を読んだところで、この子供は生きていないだろうという予感がありました。自分に子供がいるのといないので、読後感が変わりそうだなと思いました。言葉の選び方がとても自分好みで、「あぜ道」の表現が悲しくて美しいですね。

「神様」
作者名を伏せたかぐやSFは面白かったなと思うのですが、北野さんだと思うと、読みながらどうひっくり返すかなと考えながら読んでしまうので、さすがだなと思いつつ、まあそうかという気持ちになってしまいました。

「空華の日」
ふんふんと読んでいくと、なんだなんだと物語と一緒に転がっていく感覚です。なんか最近こんな感じの話を読んだ気がします。1ページ目の「後藤田さんがマンガの連載をっている」は「っている」の誤字?違うかな…

「叫び声」
最後の一文を読み、なるほど、と思いました。女性が逃げられた場所は(もしくは戦う場所は)そこだったんですね。平板な語り口ですが、骨格がしっかりしている物語だと思いました。

「聡子の帰国」
どことなくずれている感じと、空恐ろしさの感じがうまい感じで合わさっていました(かんじかんじ)。作者名が文中に登場すると気になってしまう。

Dグループ

「字虫」
前に異常論文という語を見かけて、少し考えてみたのですが難しいなあと思っていたので、お手本のような物語でした。全然関係ないんですけど、「インジニオ・インセクトゥム」を読むと、昔ちょっと流行ったマリオをFF風にするみたいなコピペを思い出してしまう。

野村 「うーん。Aちゃんさあ。キノコ王国じゃ余りに平凡じゃない?」
A 「はい?」
野村 「サンクチュリアス・オヴ・マッシュルムスでどう?」
鳥山 「ですね」
https://getnews.jp/archives/41386

「世界で最後の公衆電話」
いい設定でした。こう「最後の」とつくとワクワクしますね。なぜ中国にしたのか、というところがちょっと引っかかります。

「蕎麦屋で」
滋味があります。「上、二つ」を言い足す終わりもうまいです。多少文章表現がちぐはぐしている印象を受けました。

「タイピング、タイピング」
文の端々から書くことがとても上手な人だということが伝わってきます。それこそ、指の先まで練られた文章だと思いました。

「元弊社、花筏かな?」
思わずツイートしてしまうぐらい、自分好みのよいものでした。短歌の中では、私はこれが一番好きです。

Eグループ

「いろんなて」
ちょっとホラー風の話かと思ったら、オチがあれでしたね。あれは中指があるのか?などと考えてしまいました。

「地球最後の日にだって僕らは謎を解いている」
そういえばミステリ物ってどの程度応募があったんでしょうか。うーん、ちょっといい悪いの判断ができない。

「地層」
題名の意味が最後にわかるという物語が好きなのです。でも長雨の影響で地層ができるのか…というところは気になりました。

「ヨーソロー」
ミイラ取りがミイラ系話ですね。伝承のような形の形式も味を出しています。

「虹のむこうに」
設定もりもりなのに、六枚の中にきちんと収めているのがすごいです。私は犬が好きです。

Fグループ

「馬に似た愛」
いや、これはよいですね…松原堂の国語辞典を検索したくなるほど、現実の調査に迫った書き方でした。そして終わり方がしびれます。このBFCの中で一番好きかも。

「どうぞ好きなだけ」
うまいです。三田文学っぽさと行儀のいい波乱具合が絶妙です。

「人魚姫の耳」
人魚と秀吉をこんな風に結び付けられるのかと感心しました。

「ボウイシュ」
新旧の代謝が起こる瞬間を描いているのですが、それに「日本」が関わっているところに不穏なものを感じます。

「墓標」
先ほども書きましたが、最後を読むとタイトルの意味がわかるという話が好きなのです。うまい小品です。

Gグループ

「ミッション」
私も似たようなミッションをするので、ちょっと読んでていたたまれなくなりました。

「メイク・ビリーヴ」
この設定から、最後の文はたどり着けない。才能です。すごい。

「茶畑と絵画」
洒脱な短歌で、他のものとちょっと一線を画していました。その微妙な違いをうまく文章にできないな…

「ある書物が死ぬときに語ること」
読まれなくなった本はどうなるんだろう、とセンチメンタルな気持ちになりました。「本の死」をこんな形で表現できるとは思いませんでした。それにしてもみんなKが好きだな。

「Echo」
概念谷の概念猿なんてどうしたら思いつけるんだろう、という感じです。今まで概念猿は何と引き換えに光を取り戻してきたんでしょう。

Hグループ

「量産型魔法少女」
「祈りに似ていた」と書くけれど、本当は「呪い」と言いたかったのではないかと思わせる、やるせないお話でした。

「PADS」
私も猫は好きなので、最後は涙ながらに応援しました。

「voice(s)」
いやうまいですね。六枚の中でどうやって設定を開示していくかというのは力量が問われると思うのですが、抜群にうまいと思いました。うちも赤鬼さんを時々使うんですが、きゃっきゃっと喜んでいます。

「ワイルドピッチ」
最後を読むとタイトルが(

「盗まれた碑文」
今回のBFCの中で最も正攻法で書かれた物語ではないでしょうか。作者の力量と度胸に感服します。

***

私は「馬に似た愛」がこの中では一番好きでした。ジャンル違いということで「元弊社、花筏かな?」も。文章のうまさとしては「voice(s)」、設定を生かし切れていたと思うのは「メイク・ビリーヴ」でした。推し作家を見つけられる機会なんてあんまりないので、楽しい時間でした。

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