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London Day0

 いま働いている部署は,いわゆるトラブル対応の部署.
機器に不具合があって大ごとになると,夜中だろうと休みの日だろうと対応が発生する.
これまでも終電で名古屋→静岡に向かって徹夜したり,GW初日の朝から緊急呼び出しを食らったこともある.センター試験の日には朝5時からご飯も食べれずに気づいたら夕方だったり.

 そんな部署だったけど,旅行好きの上司は夏休みをとった.全く悪く思ってはいなくて,むしろ休めない雰囲気を打ち破ってくれて感謝すらしている.まあでもたいていこういう時に限って何かが起きるのが世の常であって,急ぎの案件やトラブルがボチボチあった.上司がいない穴をなんとかみんなでカバーして乗り切ったわけだけど.
上司の不在期間にバタバタと仕事をしていたある日,上司のさらに上司が,
「あいつが休んでるせいで大変だなあいつは管理者なんだから休まず働くんだよ.」
と言ったことがあった.
こういうところがいまの会社の嫌いなところ
「そんなこと言ってたらだれも休めないしだれも出世したいと思いませんよ」
と正直に言ってしまったけど.

そんな会話もあったので,自分も意地でも夏休みをとろうと思っていた.
結局夏休みを取れたのは11月だったけど.

これには仕事以外にもちょっと理由があった.
宇宙飛行士選抜の結果を待っていた.
1次選抜が7月~8月にあって,結果発表が9月.
それに合格すると11月ごろに一週間ほどの時間をかけて2次選抜が始まる.
幸運なことに0次選抜を突破し1次選抜にコマを進めており,
1次選抜の結果次第では,2次選抜のために夏休みを使おうと思っていた.
残念ながら結果は1次選抜でお祈りだったけど.
思ったよりショックは大きかったけど.
夏休みをとる口実がなくなってしまった.
そう思った絶妙なタイミングで,ニュースで海外から帰国する際の規制が緩和されることが発表された.
卒業旅行以来3年半ぶりに海外に行く機会を手に入れたのだった.



ーーーーーーーー11月11日 旅0日目ーーーーーーーー
平日の金曜日,今日は月に一度の終日会議の日だった.
22:30の便で,2時間前には着きたいけど名古屋から成田までは片道3時間くらいかかる,一旦帰ってシャワー浴びてとか逆算してくと,,,,,,
昼過ぎには帰らないと.自分の担当議題は終わらせようと思ったら自分が喋りすぎて終わらない,
結局議題途中でそそくさと退室することに.ちょっと申し訳なかった.
同じ部署の先輩に社用スマホを預ける.土日も昼夜も関係なく鳴り響き,たまごっち並みに世話してやっていたスマホ,2年ぶりに手放すことに成功.

走って準備して駅へ.
とにかく成田空港が遠い.名古屋から新幹線,成田エクスプレスに乗り換えて計3時間以上.
久々に社用スマホからも解放されて,仕事のことを考えなくてよくて,車内でひたすらにNetflixを見ていた.休まることのない緊張感から久しぶりに解放された気がした.

解放されたのも束の間,空港に到着すると,別の緊張感が.
「満席なので早めに搭乗口に来てください.」
満席にも驚いたけど,満席だと早く行かないといけないのか.そんなの聞いてない.
両替所が混んでいる.Wi-Fiも受け取らないといけない.お腹も空いた.
これはまずい.
空港内を駆け回る.
Wi-Fiの受け取り期限まであと5分.
両替所が混んでいて受け取りまで30分.
ご飯食べる時間残り10分.
口の中を火傷しながら,チーズカルビ丼頭の大盛りを書き込んだ
(なんで時間ないのにそんなの選んだんだ).
急いで保安検査を抜けて搭乗口へ.

突然だけど,ぼくは空港の搭乗口までの道が好きだ.
保安検査を抜けたところから,なにか世界が変わるような,
昔のRPGで,そこからいろんな世界へ移動できる,ワープポータルみたいな場所があった気がするんだけど,
クラッシュバンディクー3のステージ選択画面的な,
ドンキーコング64の最初の島的な,

そんな気分になる.

眠気まなこながらこれから乗る飛行機を目の前にテンションが上がる.B777.卒業旅行以来だ.


機内で天井を見上げると,星空見たいなキラキラと青いライト.同じ飛行機でも,航空会社で機内の様子が全然違うみたい.ビジネスクラスを通過したけど座席大きいしもうシャンパンで夢見心地の人がいた.いつか乗ってみたい.


離陸してすぐにまさかの機内食.チーズカルビ丼頭の大盛が出そうだ.
日本で積んだからか.キューピーごまドレで安心感あり.
機内食の容器ってどの航空会社でも同じみたい.学生時代の旅を思い出す.
飛行機の中って,いい意味でやることが制限されていて,
一つのことに集中できる.
久しぶりにスマホも触らず,ご飯だけに集中した.
初めてずっと嫌いだったミニトマトを味わった.
おいしくはなかったけど,不味くもなかった.

車内の両サイドは日本人だったけど.英語でメッセージを送っている人,
英語のパンフレットを読んでいる人.みんな当たり前のようにやっていて,
ちょっと羨ましかった.



昔から英語に関しては苦手意識というか劣等感というかがあった.
高校・大学とまあ人並みにはできたし,それ以上の必要性には駆られなかったから,なんとなくで来てしまっていた.
生活のなかで当たり前のように英語が使える人が羨ましかった.


これまでに,もっと英語を勉強しとけばよかったと思った瞬間が3回ある.


最初に思ったのは大学3年のとき.
周りでちらほら留学の話とかを聞くようになったとき.
とはいえ大学生に留学はつきものだったし,なんかみんな大学生っぽいことしてんなーくらいにしか思わなくて,このときは他にも楽しいこともたくさんあったし,なんとなくいいなあ,くらいで終わってしまった.

その次が大学院のとき.留学生がいて,ゼミも英語発表があったり,
みんなあたりまえのように英語の論文を読んでいたり.
自分は前述のとおりあまり得意ではなかったから,なんとなくそのせいで研究とか,知識とかで遅れをとっている気がして,焦る気持ちがあった.
実はこの気持ちも,博士にはいかず就職を選んだ理由の一つかもしれない.
と,後になって思った.
そんな気持ちがあったから国際学会にも出ようと思ったのかもしれない.
結局うまく発表できたかとかはあまりよく覚えていないけど,あの経験は自分の中でも大事だったと思っている.あのときの経験が今に影響してるんだ,て思うことが偶にあるから.気付くのは少し先のことだけど.
この2回目の焦りも,就職してからのバタバタでまたどこかへ忘れさられてしまったのである.

3回目はコロナが始まったころ.
コロナ禍で時間があったというのもきっかけだけど,もう一つのきっかけは,とある本との出会いだった.
不思議な縁があった本なのだけど,その本にはぼくが書いた文章も載っている.ちょっと読まれるのが恥ずかしいのでタイトルは伏せておく.
当然ぼくひとりで書いた本ではなくて,いろんな人がいろんな思いを綴った本だ.
この本からなんで英語勉強しおけばよかったなあってなったのかは話すと長くなるのでそれはまた別の機会にするけど,本を読んで,色々と思うことがあって,それ以来ずっとこの気持ちは続いている.今回の旅も,そういう気持ちもあっての旅なのかなと思ったりもするけど真相はよくわからない.



こんなことを考えていてもまだ時間を持て余せるのが国際線のいいところ.
スマホも使えない,自由に動き回ることもあまりできない.ぼーっとするか,何かを考えるか.
普段こんなになにもしない時間てなかなかないと思うし,すごく貴重な時間だと思う.
学生の頃はお金がなくて,片道30時間くらいかけて海外旅行にいっていたけど,これからもそういう時間を持て余せる旅がしたい気がした.
今回は社会人になって初めての旅.さすがに片道30時間もかける時間はなかったけど,円安で高騰した直行便のチケットを買うほどの稼ぎもないので,折衷案でドバイ乗り継ぎの片道18時間コースに.おかげで適度に時間を持て余すことができた.
おかげで旅の備忘録をつけようなんて気持ちにもなった.


このドバイの乗り継ぎが,密かに楽しみにしていた一つだった.
ドバイは有名な建造物がいくつもあるから,それが上空から見えるかも,と思って.ドバイーロンドン便はAirbusのA380.2階建の巨大な機体.幸運にも座席は景色を楽しめる窓側の席.テンションが上がる.
離陸して眼下の景色を眺めていると,一面砂の世界が広がっていた.
砂の中にたくさんの家が,規則的に並んでいて,これまでに見たことがない景色だった.

ちょっとわかりにくいけどこんな景色


もちろんドバイはこれだけじゃなくて.世界有数の金持ちの国なので,
だんだん大きなビルが増えていった.なかでも驚いた光景が,


雲を突き抜けるブルジュハリファ.
天気は良くて,雲は少なかったけど,なぜかブルジュハリファの所だけ雲があって,それが逆にブルジュハリファの大きさをより際立たせているようだった.

すんごかった.テンション上がって隣の奥様に話しかけちゃった.
快く話を聞いてくれて,写真を撮って.隣の旦那さんととても仲が良さそうで,いい感じの夫婦だった.
電車とか,日本の巷で見かけるカップルは,なんというか,
ベタベタしてる感じがして,見かけるとちょっとなんともいえない気持ちになったりするけど,
このときの二人はなんというか,
寄り添っている感じがして,えもいわれぬ気持ちになった.
機内食でビーフを頼んだら,ビーフは旦那さんの分で品切れとのこと.旦那さんが譲ってくれようとした.
流石に遠慮したけど,えもいわれぬ気持ちになった.

ロンドンへの道のりは長い.

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