『ミッドサマー』感想/花、ドラッグ、多幸感について
いま話題のスリラー映画『ミッドサマー』観てきましたので、感想を書きます。わたしはあまり映画に詳しくないので、知識の浅さや知見のなさを露呈してしまうかも知れませんが、それでもそういう人間の感想にも需要はあるのではないかと思い、感じたことを純粋に書こうと思います。ですので、あくまで個人の意見と捉えていただけるとありがたいです。また若干のネタバレを含みますので、そういうのが気になる方は映画をご覧になってから読んでいただけると幸いです。
まず印象的だったのは、物語の舞台である村の、独特の宗教的文化の強度が非常に高いと感じた点でした。これはわたしが映画に詳しくないせいかとも思いましたが、元カルト信者の方もその点について言及していたので、おそらくそれなりに正しい感想なのではないでしょうか。
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村人たちが「大真面目にこれをやっている」という表現へのこだわりが、全編通して作品を包んでいる異様な雰囲気の大きな一因でもあり、演出にも一役買っている点だったと思います。
たとえば中盤、話題のミステリアスギャグセックスシーン。周りでも笑いが起こっていて、わたし自身も上映時は笑いを堪えて観ていましたが、帰路に着いてから思い返して初めて、ゾッとする気持ちが湧いてきました。行為中のインガの手を握る女性の笑顔。満面の笑みで、善意100%という感じでした。そう、村の方々は基本的に優しく、親切なのでしょう。大真面目に、善きことと捉え、あれをやっている。ユーモラスであると同時に、実は一番怖いシーンだったのではないかとも思います。
また、この不気味さは作中に留まらず、作品の外からの目線に対しても感じられます。というのも、この作品は常に明るく、牧歌的で、たびたび花が舞い、美しい映像で構成されているからです。変に不気味さや恐ろしさを演出することは本当に少なく、あくまで『ある穏やかな村の日常』のような感覚で、恐ろしいシーンを描いているように感じられました。後半の熊の内臓を切り取るシーンなんか、村の子供に優しい父親が料理を教える、とても微笑ましい一幕のように見えます。その横に死を待つのみのクリスチャンがいなければ。作品を撮る側の目線が、客観的というよりは『村側の価値観』に寄り添い、そしてこの演出による「現実世界にも『あっち側の人』がいるような感覚」が、不気味さの拡張・増幅に関係しているのではないかとわたしは感じました。(この点に関しては意見が割れそうな気がしています)
この映画に関して『セラピー』と称する方をたびたびお見かけします。視聴した時点ではあまり意味がわからなかったのですが、帰路に着き、自宅に戻って思い返してみると、だんだんわかってきたように感じます。あの世界は個の身勝手を決して許しませんが、逆に個の痛みや悲しみに対して全体で親身に寄り添い、共有しようとしてくれます。あのミステリアスギャグセックスシーンを目撃してしまったダニーの嗚咽を、村の女性達で輪唱するシーン。花と光に包まれた世界で"家族"が寄り添ってくれる優しさ。頭では怖いものを観ていると認識しているはずなのに、目に入ってくる画面の眩しさや優しい笑顔、耳に入ってくる美しい音楽に、脳が混乱するようでした。
ただその裏で恐ろしいのは、直接的に言及はされずとも、色々な場面で誰かの打算が蠢いている点です。これは何人もの方が指摘されているのを拝見しましたが、ペレは村の主義とは異なり、個人的な体験を用いてダニーへの共感を説き、ほだそうとしています。論文のテーマに悩んでいる友人をメンバーに選ぶ点なども、かなり打算的で狡猾な部分が見て取れます。終盤で村の長がペレの「直感」を褒め称えるシーンがありましたが、直感ではなく明らかに謀略を練っているように思えます。
またミステリアスギャグセックスシーンをダニーは目撃してしまいますが、そもそも周囲の女性も彼女が神殿へ向かうのをもっと真剣に止めておけば、彼女が悲嘆に暮れることもなかったように思えますし、彼女が女王として人力車に乗り込み、村を周るタイミングであの行為に及ぼうとする点など、純粋さだけでなく、その裏には村全体の意向を統括しようとする意思が見え隠れしています。それも直接的な描写はなく、なんとなく頭の片隅に予感させる程度のものでしかないところが、ずっと自分の中で認知のアンバランスさを生み、脳の混乱を呼ぶ一因となっていたように感じます。
映画の視聴直後は頭がフワフワし、謎の多幸感と共に帰路に着きましたが、家に帰ってゆっくり思い返すにつれ、ドッと疲れが湧いてきました。映画の良さについて、後からジワジワと来る体験はこれまでもありましたが、それと同時に恐怖が遅効性の毒のように、後からゆっくりと回ってくる経験は初めてでした。この作品ではたびたびドラッグが登場しますが、まるでこの映画自体がある種のドラッグと言えるかも知れません。ドラッグやったことないですが。
以上、個人の感想でした。
https://www.phantom-film.com/midsommar/sp/
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