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正体

夏は好きですか?


何故か、ここ最近この質問をよくされる。
夏か。去年は夏が好きだった。
過去を美化して捉えてしまうあるあるだろうか。
元彼と過ごした去年の夏は、何故かキラキラして見えた。
彼の夏季休暇に過した毎日や、毎週のように新しい街へ出かける日課はあまりにも幸せで、暑すぎてうだる気持ちすら失せさせてくれた。


夏は私が生まれた季節でもあるのですが。
自分にサプライズをするための少し帰宅をずらすという優しい嘘は、そして生まれてきてくれた日だからっていつもよりわがままを聞いてくれたそのこころは、私に「生まれてきてよかった」と思わせるに充分すぎるものだった。



社会人カップルに似合わない言葉かもしれないが、本当に毎日がきらきらしていた。


電車の窓から外を眺めながら思う。
今年は夏をまだ好きになれていない。
気温が高くなったせいか嫌でも浮き足立つ人々の表情は、照りつける日差しに応えるように青々と輝きだす木々は、今の私にはあまりにも眩しすぎる。


きっとこの感情は、そこにあったはずのものがなくなったときに感じる「切なさ」というものなのだろう。
自分の周りだけは過去の幸せだった情景を映し出しているのに、今ここには、隣に誰もいない私しか残っていない。
もう彼への未練なんてものもないけれど、あの幸せだった毎日には、時折すがりたくなるのだ。



今はそうだな、多分寂しい。
元々無いものが、やっぱりそこに無いと感じているからきっと寂しい。


だからといってその寂しさを誰かに埋めてもらおうなんて思っていない。
ちょっと大人ぶりたいのだ。
1人だって大丈夫なんだってところを、自分自身に知らしめてやりたい。


あーあ。
夏なんて嫌いだ。
みんなみんなきらきらしちゃってさ。
あの夏に閉じ込められていたかった。
出られなきゃ良かったのに。
もう記憶の中でしかあの夏のように輝けない。


backnumberの歌詞みたい。
この感情もすべて、夏の魔物のせい。

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