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私は二の次、三の次

友人が入院の時の体験をシェアしてくれた。

同室にいらした彼女のお母様と同年代の女性。

子ども達に迷惑をかけないようにと
一人暮らしで頑張ってきた。
さみしいことも、不便なことも、心細いこともあったけど、
子ども達に迷惑をかけられない
その一心で今日まで頑張ってきた。
なのに、体調を崩し、入院し、
今度は介護認定という話になってきた。
要介護になんて認定されたくない。
でも、認定してもらえなくて、動きがとれなくなってきたら、
やっぱり子どもに迷惑をかけるから、
認定してもらえるように頑張ろうと思いなおす。

ところが、今度は介護認定を受けるために、スマホで電話をかけねばならず、
スマホは受けられてもかけ方がわからなくて、それで子どもを煩わせる。
それまで、迷惑をかけまいと頑張って頑張ってきたことが、
入院をきっかけに全部崩れてしまって、
彼女は病室で泣き出してしまったのだという。

友人は、自身のお母様の言葉のようでつらかった、と。
昭和一桁は「迷惑をかけてはいけない」がしみこんでいるのかなぁ、と言っていた。

同じく昭和一桁の母も、口癖は、「大丈夫よ。」
でも、その前後に大抵、「あなた、忙しいでしょ。」がついてくる。
3人の悪ガキの子育てに追われ、仕事に追い回されていた時期は、
母に「忙しいでしょ」と言われると、「うん、ごめんね」と流してきた。
でも、最近、その「忙しいでしょ」の裏に、「どうせ、私は二の次でしょ」が
潜んでいるような気がしている。

いいのよ。アナタは私より優先順位の高いことがいろいろあるんだから、
そっちを先にやりなさい。
私は、アナタに迷惑をかけないようになんとかやっているから、
優先順位の高い方を優先しなさい。

こう書くと、すごく美しい母親の愛のように見えるけれど、
きっとその裏で、

いいのよ、私、二の次、三の次だったんだから。
今までも。これからも。
大丈夫よ、あなたの迷惑にならないように、頑張っているから、放っておいて。

なんとなく、裏の母がそういっているような気がして
遅ればせながら、いやいや、あなたの優先順位は高いわよ、
というデモンストレーションを展開中(伝わっているかどうかは甚だ疑問だけれど)

母の裏の声を感じるようになったのは、子ども達が育ち、
私が年をとってきたせいだ。
何かしでかすと、明らかに「俺らに迷惑かけるなよ」という顔をされることがある。

例えば、自転車で転んでこっぴどくすりむいたとき

だからいい年して、自転車なんか乗るなっていってるだろう
おばさんがふらふらチャリンコ乗ってんのは、運転する側からすると迷惑なんだよ
気をつけて運転してってあれだけいってるよね

と散々子ども達に怒られた。

心配しているからそういう言葉が出てくると言われればそうかもしれない
でも、私が受けたメッセージは、
「とにかく俺らに迷惑かけないように余計なことすんなよ」
だった。

自転車乗りの友人にことの顛末を話して
「とりあえず、大事にいたらなくてよかった」
と言われ、
「ヘルメットはかぶってたの?」
と確認され、初めて、誰かに心配してもらったという気持ちになれて、
とても落ち着いた。
もちろん、友人は自転車仲間だから、私が迷惑をかけることはない。
だから、脳天気に心配できるんだ、と言われればそれまでだ。
でも。それでも。
迷惑かけるな
と言われる前に
あぁ、無事でよかった、
と言われたら、うれしかったなぁ。
そして、きっと、素直に、今後は心配させないように、気をつけようと思えた
と思うのだ。

迷惑をかけるな
というとき、言う側は、他に優先すべきことがある。
仕事だったり、恋愛だったり、趣味だったり、他の家族だったり。
まぁ、いろいろ。
そして、その優先すべきことを中断させられることが迷惑をかけること
なんだろうと思う。

例えば仕事優先の夫がいたとして。
彼の出張中に、交通事故にあって、彼が出張を放りだして帰ってこなければならなかった。
もし、彼が、「気をつけろよ!」と怒ったとしたら、
それは、オレに迷惑をかけるな、
オレは仕事を中断して戻ってこなければならなかったじゃないか、ということだ。
言い換えると、お前より仕事の方が優先なんだから、
それを中断しなきゃならないような事態を引き起こすな……ということになる。

成長過程で散々こちらに迷惑をかけまくり、
稼げるようになると、全く迷惑をかけずにここまで来たようなでかい顔をする子どもは、
同時に、親よりも優先順位が上のものがいくつも出てきて、
何かあると「迷惑だ」という顔をするようになる。

まぁ、私より順位の高いものがゼロじゃ困ってしまうのも実際のところだから
実は子ども達が「迷惑だ」と思うのは悪いことでは、ない。
いや、見方によっては、それはちゃんと子どもが育ったという証でもあるわけで。
親としては、グッジョブだった、と自画自賛してもよい状況、ではあると思う。
そして、実際、子ども達が親を二の次、三の次だと感じるほど、
外で頑張って生きていると思えば、それはそれで、安心もするし、
誇らしいことでもある。悪いことでは全然ない。

悪いことではないんだけど、あまりあからさまに「迷惑だ」という顔をされると
がっかりするのも、人情で。
だから、迷惑だっていう顔をされないように、予防線を張るようになる。
それが、「迷惑をかけないように頑張る」だったりするわけだ。
母に言わせると、「大丈夫よ」になる。
実は、ちっとも大丈夫じゃなくても。

黙って家事をやって、子ども達の世話をして、家族を最優先にして生きてきた人が
最後は、あなたは二の次三の次だから、というメッセージを当の家族から受けながら
申し訳ない、迷惑をかけたくない、と思いながら老いていく。
それが子どもの成長であり、家族の成長だと言えばそうかもしれない。
でも、なんとかして、アナタは二の次ではなく、他のことも大事、でも、あなたも大事
だと思われているんだなぁって思って年をとっていってもらうには、
一体どうしたらいいのかなぁ。


2020/09/03

#迷惑をかけない #老後  


得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)