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『うちの男子荘がお世話になってます!』⑤

〇EP4『怒りのハル』


 お餅ちゃんと解散したのち、おれは榛くんの部屋を訪れた。
 訳を聞いたら教えて欲しい、と言われていたのだ。
 榛くんの部屋には、部屋主である榛くん、コンビニから帰宅した東西くん、東西くんに巻き込まれた殿下がいた。殿下とは、東西くんの親友の青年で、かなりの無口ということで通っている。
 「にしても、綺麗な部屋だね。それに、味もあるし」
 おれが言うと、
「まさに、小説家先生って部屋だよね」
 と、東西くんが同意した。
 榛くんの部屋は、おれの部屋とは正反対だ。1Kの限られた空間に、普段使いのテーブル、小説を書くテーブル、天井まで届く巨大な本棚等、さまざまな物が敷き詰められているのにきれいに整理整頓されていて、物が少ないはずのおれの部屋より断然、広く見える。
「本棚もさ、著者の名簿順に並んでるし。見た目に似合わず几帳面だよねえ」
 座椅子を占領する東西くんは、本棚を横目にくつくつ笑った。
「オレの部屋の評価はいいんすよ! 」
 さっきからソワソワしている榛くんが言う。
「師匠のことっす! どうだったすか? 」

 おれは、お餅ちゃんから聞いたことをそのまま話した。
 みんな、驚きが隠せないようだった。
「ありゃ、思ってたより深刻だったね」
 東西くんが目をパチクリさせながら言う。
 殿下も、しゃべらない設定を自分に課しているためしゃべれないが、口をパクパクさせている。
 一方で肩を震わせているのは、リョクさんの弟の榛くんだ。
「信じられないっす! 」
 囲んだ机を両こぶしで打った。どうやら震えていたのは怒りのためだったらしい。
「兄貴が犯罪者だったんすね! 師匠を! いや、師匠に限った話じゃないっす。人として到底ゆるされない行為っす! 」
「申し訳ないけど、確かにそうだね」
 東西くんも同意を示す。
「まあ、まあ」
 白熱する若者をなだめるのは、おれの仕事だ。
 たしかに人のゴミを漁るのは褒められた行為じゃない。が、船長やリョクさんのことだ。きっとなにか理由があるに違いない。
「いっかい聞いてみた方がいいよ」
 言うと、榛くんは「いや! 」と否定した。
「警察っす! 」
 榛くんは怒鳴る。
「警察に通報するっす! 悪者は捕まんなくちゃダメっす! 」
「ちょ、ちょ、榛くん」
 いつも飄々として人を面白がる東西くんでさえ、この迷いなき決断には戸惑いを見せたらしい。殿下と一緒になって、電話に向かう榛くんをとめている。
「キミたち兄弟でしょう? 晴さんの言う通り、いっかい事情を聞いてみた方がいいと思うよ。船長にもさあ! お餅ちゃんも、ことをおおきくしたくないんじゃない? 事件解決を急ぎたいんならさ、お餅ちゃんが警察に言ってるはずでしょ? 」
 まくしたてる東西くんの言葉が届いたようだ。
「それも、そうっすね……」
 榛くんはようやく落ち着きを取り戻し、もといた場所に腰を落とした。
「この事件ではオレは、同じアパートに住んでるだけで、完全なる部外者っす。でも、それだけオレは師匠が心配なんっす。わかってほしいっす」
 落ち込む榛くんの肩を、慰めるように殿下がやさしく叩いた。
「でもお餅ちゃんもさ」
 シンとしかけた中、東西くんが口を開いた。
「どうして今までボクらに相談してくれなかったのかね。わざわざポエムに落とし込むなんて遠回しなことなんかしてさあ。榛くんが気付いてなきゃ、ずっとこのままだった訳でしょ? 」
「言いだしにくかったんじゃないの? ゴミ漁られてますってさ、なかなか自分から言いだしにくいでしょう」
 おれが答えると、榛くんが、俯いたまま、
「違うっす」
 と反論してきた。
「師匠のことっす。きっと、深い理由があるに違いないっす」


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