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遠藤保仁の移籍に思うこと

 ここ数年間「そろそろ覚悟しなきゃな…」と言い続けながら、実際はほとんど心の準備ができていない。そうやって現実を見て見ぬ振りをし続けていたツケだろうか、その瞬間が訪れた瞬間は全身から力が抜けていくような感覚に襲われた。

 10月2日早朝、遠藤保仁がジュビロ磐田へ期限付き移籍するというニュースが各メディアで報じられ、そして今日10月5日、正式に移籍のリリースが出された。

 受け入れがたい現実が唐突に突きつけられた10月2日、私も多分に漏れずかなりの衝撃を受けた。驚き、狼狽し、この感情をどう受け止めればいいのかわからずにいた。ただ今朝方行われた移籍会見を見て、この移籍劇はクラブと選手双方がプロであるが故のものであり、摩擦や痼りが存在しない円満な形であることを確信できた。

本音を言えばどこにも行って欲しくなかった

 もちろん1人のサポーターとしてのワガママを全面に押し出すのならば、どこにも行かないままガンバで選手生命を全うして欲しかった。サポーターのエゴでしかない身勝手な思いではあるが、ガンバを愛する人ならば程度の差はあったとしても共通して持っていた思いだろう。遠藤のポジションには矢島や山本などの若手が台頭し、昨年から徐々に出場機会も減ってきていたものの(それでも30試合近く出てはいたが)、ひとたびピッチに立てば独特のリズムで試合の流れを変え、チームに勝利をもたらしてきた。中盤に多くの運動量が求められる今となっては全盛期のようなスタメンとしての貢献は望めなくとも、スーパーサブとしてなら間違いなく現在のガンバでも必要とされる場面は、先日の名古屋戦(◯2−1)のように少なからずあるはずだ。

クラブが求める役割と、ヤットが果たしたい役割

 ただ、遠藤からしたらどうだろうか。今季も半分を過ぎた中で、出場試合数は全18試合中11試合とそこそこだが、プレータイムは全1620分中わずか363分。スタメン出場は3試合にとどまり、10年ぶりとなる2試合連続ベンチ外も経験した。もちろん不惑を迎えたベテラン選手としては妥当、むしろ未だにコンスタントにメンバー入りを果たしていること自体素晴らしいことではある。

 ただ彼は遠藤保仁だファーストチョイスになり得ない現状や、スーパーサブという役割に甘んじる男ではない。

 なにせ今年7月にJ1歴代最多出場記録の金字塔を打ち立てた際にも「次の目標?次の試合に出ることです」と発言した男だ。1人のフットボーラーとしてまだまだ第一線で戦えるという自信、試合に出続けたいという欲は一切衰えていない。クラブが現在の遠藤に求める役割と、遠藤が果たしたいと望むチーム内での役割の間にギャップが生まれたのは事実だろう。

言ってしまえば『よくある移籍』

 選手が出場機会を求めて他のチームに活躍の場を移すのは、世界中で当たり前のように行われている。「クラブからバンディエラが去る」という文脈で語られがちな今回の移籍も、言ってしまえばよくあるパターンの移籍でしかない。そもそもあのヤットさんが出場機会が少ないことを黙って受け入れ、大人しくスパイクを脱ぐ方が違和感が残る。ヤットさんにとっての最優先事項は試合に出ることであり、今回の移籍もそれを実現するための手段に過ぎない。

 最初は慰留につとめながら、最終的に選手の意向を尊重して快く送り出す決断を下したクラブも同様だ。リスペクトの欠如や摩擦が生じた事による移籍劇、なんてものではない(聞いてるか◯ッカンスポーツ)。

 2001年にガンバに加入してからというもの、それまでクラブに無縁だったタイトルを9つももたらしてくれた。アジアの頂点に導き、クラブW杯では欧州のトップクラブと心震える打ち合いを演じて見せた。2012年、J2に降格した時には、代表から遠ざかるかもしれないという周囲の不安の声を一蹴して、率先してクラブに残ってくれた。もしあの時移籍していたら2年後のJ1復帰後即三冠はまずあり得なかったし、今でも再建に苦しんでいたかもしれない。

 クラブ史上最高の時間をもたらしてくれたヤットさんに報いる方法があるとすれば、遠藤保仁のサッカー人生に最大限の敬意を払い、彼の意向を尊重して決断の後押しをすることだ。

上記の高村さんの記事を引用させていただく

本人が「簡単な決断ではなかった」と振り返るように、悩み抜いて「楽しむこと」を新天地に求めたのであれば、彼と同じようにワクワクした気持ちで、そのチャレンジを見守りたい、と。

 20年間過ごした安息の地を離れ、新天地で一からポジション争いに挑む40歳の元日本代表MF。なんとワクワクさせられるものだろうか。

 そしてヤットさんが再び何かしらの決断を下す時には、また快く受け入れたいと思う。もちろんそれがガンバ復帰であれば最高だが、他クラブへのさらなる移籍であったとしても。

 ヤットさんのチャレンジを祝福し、前途が明るいことをひたすらに願うのみだ。

行ってらっしゃい!ヤット!


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