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モバイルヘルス介入の報告ガイドライン(mERA)を読んでみた。

報告ガイドラインとは?

論文の報告の質の標準化によって、より良いエビデンスを構築することを目的として、様々な研究デザインに対して、報告ガイドラインが定められています。(無作為化比較試験のCONSORT声明など

近年、mHealthの論文ヒット数もかなり増えており、諸外国で多くの臨床試験が実施されています。

2011年だけでも500以上のmHealthプロジェクトがあったとのこと。(Qiang CZ, Yamamichi M,et al. 2011

しかし一方で、現状は介入の有効性や効用に関する質の高いエビデンスの不足も指摘されています(Agarwal S, Perry HB,et al. 2015)。

そこで今回は、2016年にBritish Medical Journalより出版されたmHealth領域における報告ガイドラインの

「Guidelines for reporting of health interventions using mobile phones: mobile health (mHealth) evidence reporting and assessment (mERA) checklist」

を読んでみて結構勉強になったのでまとめていきます。

この記事を通してmHealth関連の論文を読む上でもチェックするべきポイントを絞ることができるかと思います。

作成には誰が関わっているのか?

WHOのmHealth Technical Evidence Review Groupが中心となって研究を報告する上でのチェックリストを作成しています。

メンバーはJohns Hopkins大学、North Carolina大学、San Francisco大学などに所属されている研究者から構成されている模様。

CONSORT-EHEALTHと何が違うのか?

もともとmHealth関連では2011年にCONSORT-EHEALTHというインターネットやmHealth領域の研究報告の質を高めるためのガイドラインが発表されていました。

こちらの報告ガイドラインでは、ウェブベースの介入を対象としているため、必ずしもモバイル端末による要素を含んでいる訳ではありません。

また、既存のCONSORT声明のeHealth版ということもあり、研究デザインに焦点を当てているため、介入の詳細、実行可能性、持続可能性に関しては言及されていません。

チェックリストはどんなもの?

これらのチェックリスト作成における原則は介入方法の再現性を担保するために以下の3つが挙げられています。

・介入内容

・どこで実施されたか

・どのように実施されたか(技術的特徴)

これらの原則をもとに16項目のチェックリストを提示。

チェックリストの下位項目

設定されたチェックリストの項目に事例を交えて紹介します。

①インフラ:mHealthプログラムの管理を可能にするために必要なインフラについて。

これは、電気や電力、現地での接続性などの物理的なインフラを指します。これらの情報を記載することで国内および国をまたいで他の環境下でのイノベーションの実施可能性、一般化可能性、再現性の理解を深めることができます。

記載例

“The rapid increase of teledensity, from under 3% in 2002 to 33.5% in 2010, combined with a total adult literacy rate of 75% (2008), allowed this mHealth intervention to reach a large population.”(Jamison JC, Karlan D et al. 2013

②技術プラットフォーム:プログラムの実施に使用されたソフトウェアとハードウェアの組み合わせについて、介入の再現性を確保するために十分な詳細。

mHealth介入の開発に使用されたソフトウェアとハードウェアの選択を説明することで他の環境下でも同じアプローチをとることが可能となります。

そのため、もし使用されているソフトウェアが公開されているシステム(例:Open Data KitCommCareなど)である場合、変更や設定とともに明示的に記載(コードのリンクも含め)する必要があります。

記載例

“RapidSMS® is an open source SMS application platform written in Python and Django. The SMS-based project was developed to track the pregnancy lifecycle . . . alerting health facilities, hospital and ambulances.”(Ngabo F, Nguimfack et al. 2012

③相互運用性:mHealth戦略が国や地域の保健システムおよびプログラムとどのように連携し、相互に作用するか。

これはmHealth戦略が既存のプログラムの改善や補完になるかの理解に繋がります。

記載例

“Text messages were sent using a customized text-messaging platform integrated with the institution's immunization information system.”(Stockwell MS, Kharbanda EO et al. 2012

④介入の提供方法:mHealth介入の種類、頻度、および強度。

対象者とどのような通信技術(例:SMS、ボイスメッセージ、USSD)を使用し、どれくらいの頻度、時間帯を記載することが求められます。この記載により類似した介入における効果のバラツキが判断可能となります。

記載例

“Parents of children and adolescents in the intervention group received a series of 5 weekly, automated text message influenza vaccine reminders.”(Stockwell MS, Kharbanda EO et al. 2012

⑤介入内容:どのようにして介入内容が開発および特定され、カスタマイズされたか。

情報コンテンツ(例:行動の推奨、意思決定支援ガイドラインなど)の出典を特定のプロジェクトにどのように応用したのかを明確にしておく必要があります。

記載例

“Best practices for health communication programs were used to systematically develop the family planning text messages which are largely based on the WHO Family Planning Handbook. The m4RH system is provided in the language Swahili and offers information about side effects, method effectiveness, duration of use and ability to return to fertility.”(L’Engle KL, Vahdat HL et al. 2013

⑥ユーザビリティテスト:システムのエンドユーザーが介入の開発にどのように関与したか。

ユーザーがどのような流れで介入に参加しているか、コミュニケーションの内容やその時の状況に即した技術的な解決策についての記述が必要になります。また、エンドユーザーの定義や取り込み、エンドユーザーに関わってもらうために実施された作業内容等の記載も求められます。

記載例

 “Designing the system began with formative research with overweight men and women to solicit feedback about dietary behaviours, current mobile phone and text and picture message habits, the type and frequency of text and picture messages helpful for weight loss, and nutrition-related topic areas that should be included in a weight loss program.”(Patrick K, Raab F, Adams MA 2009

⑦ユーザーのフィードバック:介入に関するユーザーのフィードバックまたは介入に対するユーザーの満足度について。

一見当たり前に思えることですが、mHealth介入のエンドユーザーからのフィードバックなしに開発されることもあるみたいです。

フィードバックの内容には、コンテンツやユーザーインターフェイス、使いやすさ、アクセスなどの感想が含まれる。

このフィードバックを通して、当該のmHealthプログラムにどのような期待がされているのかも知ることができます。

記載例

“Most telephone respondents reported that the platform was easy to use and simple, and appreciated the ability to obtain health information via mobile phone.”(Vahdat HL, L’Engle KL et al. 2013)

⑧参加者のアクセス:研究参加者の間で介入を採用する際の障壁または促進要因について。

誰のためのプログラムなのか、また、誰がこのプログラムにアクセス困難なのかを念頭におく必要があります。

アクセスに対する課題としては社会経済的地位、地理的位置、教育と識字率、資源と情報へのアクセスを制限する性別的な規範などが挙げられています。

記載例

“It is possible that this intervention is less effective among certain subpopulations that may be considered harder to reach (i.e., males, those with a lower level of education and those who do not regularly attend health services)”(Gold J, Lim MS, Hocking JS 2011

⑨コスト評価:mHealth介入の基本的なコストを記載すること。

既存の介入に対するコストを提示することで費用対効果に関する重要な情報の提供が可能となります。また、システムに関与していない者から介入実施の設計や開発、維持に必要なコスト関する情報提供も求められています。

記載例

“Health workers in Salima and Nkhotakota with no access to the SMS program tend to spend an average of 1,445 minutes (24 hours) to report and receive feedback on issues raised to their supervisor at an average cost of USD $2.70 (K405.16) per contact, and an average contact frequency of 4 times per month.”(Lemay NV, Sullivan T 2012.

⑩プログラム参加における適応:介入内容に適応するためのプログラムや手順について、人々がどのように情報を得ていたかを記述する。

mHealth介入においてエンドユーザーが介入内容を理解しており、ツールを適切にしようする能力を有している必要があります。そのため、事前に実施したトレーニングに関する内容の記述も求められます。

記載例

“Training on how to use the cell phones and on text-messaging protocol took place in 2 2-hour sessions on consecutive days. The first day involved training on how to use the cell phone—using pictographic instructions and interactive exercises—which was conducted in small groups (3-6 participants) and facilitated by a bilingual (English and Twi) proctor.”(Andreatta P, Debpuur D 2011.

⑪規模での提供の制限:介入をスケールアップするために予想される課題の提示

パイロット研究から規模を広げる際に障壁となることを記載すること。介入の実施可能性の判断基準にもなります。

記載例

“Despite our findings that the intervention was not burdensome and was indeed well accepted by health workers, sending 2 messages daily for 5 days a week over 26 weeks to each health worker leaves limited space for other similar, non-malaria quality improvement interventions.”(Zurovac D, Larson BA 2012.)


⑫状況への適応性:その状況における介入の適切さ、および考えられる適応性を記載すること。

特定のニーズやユーザーの地理的な要因によって発揮すべき機能が異なってきます。

ここでは状況に即した介入をしていることを示す記述が求められます。

記載例

“Our mobile phone based survey apparatus may be particularly suited for conducting survey research in rural areas. In surveys where multiple research sites may be remote and dispersed, and where vehicles have to be used to travel from site to site to download data onto laptops, the mobile phone based data collection system may be a significantly cheaper option.”(Tomlinson M, Solomon W 2009.)

⑬再現性:再現性をサポートするための十分な技術的および内容の詳細を記載すること。

mHealth介入により良好な結果が得られた際、その介入の手順の標準化により、新しい対象により効率的な介入が可能となります。そのため、開発に関わるソフトウェアのソースコード、ワークフロー、ダッシュボードのスクリーンショット、アルゴリズムのフローチャート、コンテンツ例などの記載が必要になります。

記載例

“The mobile phone application, CommCare, developed by Dimagi, Inc., was iteratively modified into Mobilize (Figure 1 - Screen shot images of Mobilize on the mobile phones).”(Chaiyachati KH, Loveday M 2013.)

⑭データのセキュリティ:セキュリティと機密性のプロトコル記載すること。

データの損失やデータ収集のリスクを最小化するために取られたハードウェア、ソフトウェア、手続き上の手順の簡単な説明をすること。データセキュリティの報告は情報の収集、送受信、保存、アクセスの管理方法などをモラ的に記述することが求められます。

記載例

“All survey data were encrypted, thus maintaining the confidentiality of responses. Communication between the browser and the server was encrypted using 128-bit SSL. System servers were secured by firewalls to prevent unauthorized access and denial of service attacks, while data was protected from virus threats using NOD32 anti-virus technology.”(Tomlinson M, Solomon W 2009.)

⑮国のガイドラインや規制法の遵守

mHealth介入が健康情報の提供や意思決定支援、医療従事者への診断支援に用いられている場合、国内のガイドラインや他の権威のある情報源からコンテンツに引用されていることを記載する必要があります。医療的なアドバイスが連邦通信委員会アメリカ食品医薬品局など特定の期間の監視下にある場合もあるため、この透明性の確保も求められます。

記載例

“The research assistant programmed the message into the automated, web-based, and HIPAA compliant Intelecare platform.”(Dowshen N, Kuhns LM. et al. 2013)

⑯介入の忠実性

計画当初の介入内容がどれだけ遵守されたかの記述になります。介入の忠実性を評価するためにシステムの安全性の監視だけでなく、参加者のシステムへのエンゲージメントの度合い(アプリケーションの使用頻度など)を測定するシステムの設置が望ましいようです。

記載例

“On average, users transferred data manually (pressed the button) 0.9 times a day, where the most eager user transferred data 3.6 times a day and the least eager none. Six of the 12 users experienced malfunctions with the step counter during the test period—usually a lack of battery capacity or an internal “hang-up” in the device that needed a hard restart.”(Arsand E, Tatara N. et al. 2010.)

以上、16項目になります。(分かりにくい部分も多いと思います。。。)

現在のmERAの利用状況

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Google Scholarで検索したところ現在295件引用されているみたいです。

(4年間でなかなかの数引用されていますね。)

厳しめな16項目な気もしますが遵守率など実際どうなのでしょうか?・・・

まとめ

今後のmERAの活用方法として、以下の活用法が重要かと思います。

・論文を読む際の批判的吟味。

情報を鵜呑みにせず、批判的吟味をした上で内容を解釈することでよりよいサービス提供や質の改善につながることが期待されます。

・研究計画にmERAの内容を盛り込むこと

計画段階でmERAの内容を盛り込むことにより、(良くも悪くも)信憑性の高い結果が得られることが期待されます。そのため、事前にmHealth領域の研究ではどのような点に留意する必要があるかをチェックしておくことが大切です。

今回、mHealth介入の報告の質改善を目的とした報告ガイドライン(mERA)を紹介させていただきました。

また、デジタルヘルス関連で気になる論文や記事が見つかったら自身の勉強もかねて投稿します!

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