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須川崇志さんのベースについて思うこと

作曲カフェ第2回「リズム」のゲスト
須川崇志さんのベースについて

須川さんのベースの音に出会ったのは、ちょうどニューヨークから日本に一時帰国された頃だったと思います。

なんだか、その演奏は、とても懐かしく思えたのでした。
それは、おそらくずいぶん前にどこかで聴いたことがある、そんな音色でした。そんなわけは、ないのですが、理由はよく見当たらず、でも、懐かしく、子守唄を思い出したのを覚えています。

それ以来、「須川崇志」の名前は、懐かしい音色のベースを弾く人として、覚えていました。
それから、しばらく、コンサートやライブに行くことから遠ざかっていました。

子育てに終わりはないように思いますが、自立し始めるこどもを見ていたら、わたしも親として、子離れしなければ、と、親子ではなく、それぞれの時間も大事にして行こう、と、そうすることで、こどもの行動範囲も広がるんでは、と、思います。

そうして、行ったことがなかった、小さなジャズのライブハウスにぶらっと行きました。
偶然には出来過ぎていて、そこで、須川崇志さんは、トリオの一人として、演奏されていました。

こんなご時世だから、そんなことが、接頭語で使用されていた時期に、blue note 東京で、ビル・エヴンス特集のライブがあり、配信で聴いていました。その時のコントラバス奏者は、須川さんでした。

ビル・エヴァンスと言えば、もともと、クラシックのピアノを弾いていた方で、聴いているとメロディーの中に、ショパンやドビュッシーを感じてしまいます。なぜかは説明できない。織りなすのは、マイナス1の立体的な形で、ほんの少し後に響く、残る、そのリズム、なんだこの人、と、思います。説明できなさは、オイラーの法則に似ているかもしれません。その美しさを説明できる人がいたら、教えてください。

ひとまず、エヴァンスは、10代の頃、エフゲニー・キーシンやルービン・シュタインと並べて、よく聴いたピアニストです。

ビル・エヴァンスは、セロニアス・モンク、デューク・エリントン、ローランド・カークを聴き始め、へぇーなんかおもしろいかも、と、チャーリー・パーカー、などなど、ジャズを聴く、きっかけとなった人でした。

エヴァンスは、身近な人を傷つけ、亡くしてしまうエピソードは、ちょっとGoogle検索したら、いろいろ……現代に生きてなくて、よかったかもしれません。そんな、エピソードは、終わってしまったことなので、また、身近にあっても困るので、遠くにおいて置くとして、

いつも、完璧な演奏を目指していて、そして、完璧な演奏をやってのけてしまう、自分の感情を差し引いて、冷静に弾く人、と、聴いていて、思っていました。

ところが、ライブアルバムに収録されている「Minha(All Mine)」(日本語の民話やみんな、に近い発音でおもしろいタイトル。ブラジルのフランシス・ハイム作曲。「On A Monday Evening」の演奏が特に好きなんですが、)では、今まで、感じなかった音割れするほど、力が入り過ぎる感情的な演奏で驚きました。

そんな感情的な演奏を静かに温かく、支えているのが、ベーシストです。
ライブアルバムでは、一番、いろんな意味で泣けてくるのが、1976年のアルバム「Monterey III」

モントリージャズフェスティバルでのLive録音なんですが、このジャケットの写真がいいですね。
ピアニストとして、愛された人ですが、エヴァンスは、身近にいる大事な人を亡くします。悲痛な顔で俯いたエヴァンス、そして、隣で白い歯を出して笑うゴメス。

「いいんでないの?2人でも。おれは、一緒に演奏できて。嬉しいよ。」

と、笑っているようです。
トリオだったんですが、ドラムがいなくなり、長年のパートナーは、地下鉄へ飛び込み亡くなり、その原因は……。

エヴァンスは、ゴメスと2人でツアーを続け、そして、ジャズフェスもデュオで出演しています。

喪失感をやり過ごしていくゴメスの陽気なまでなベースと痩せこけた頬と抜けた歯を隠すような髭のエヴァンスのピアノは、どうしようもなく冴えていて、いいなと思います。

モントリージャズフェスのアルバムは、Ⅰ とⅡが名盤と評価する人が多いようですが……。

そうそう、最初の話題に戻りますと、須川崇志さんのベースに、どうしようもなく孤独なエヴァンスの側で弾いているエディ・ゴメスのベースを思い出したんです。懐かしさの原因、そういうことか。と、ゲストの回が終わって、今ごろ、気づきました。

そして、須川さん主宰のバンクシア・トリオは、レコード盤が出ました。
レコード盤の歪みは、完璧ではない人生の割りきれなさみたいな音楽の揺れも感じられて、まあ、それでも、いいんじゃないの?と、笑うゴメスの写真みたいで、楽しいアルバムです。ちなみに、ドラマーである石若さんが、曲をかいています。貴重な必聴の一枚。ぜひ、アルバムを購入して、聴いてみてください。

バンクシア・トリオの近々のライブは、
2023年11月15日、blue note東京にて。

追記:思うことで、いったら、なんか、武士みたいですね。

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