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初歩の指導は簡単じゃない

 学生時代から「ピアノの先生」という仕事を続けてきました。
途中産休だったり、ほぼ開店休業に近い時期もありましたが、大体30年ちょっとはこの仕事をやっています。

 その中で私が最も多く仕事として手掛けてきたのは
「導入・初歩」の指導です。
習い事人気上位に入っているピアノは、幼児からスタートすることも多い習いごとです。私も、ピアノを習い始めたのは4歳のお誕生日後から。

 初歩の教本、というものが多く存在します。多くの方に知名度の高い「バイエル」つまり「バイエルピアノ教則本」はロングセラーではありますが、これだけを使っている先生ばかりではなく、バイエルは一切使わないという先生もいます。
 他にも多くのよい教本が存在しますが、いずれも1巻初めはとても簡単そうに見えます。音符の玉が大きいもの、数が少ないもの、中央C音(ド)しかない曲。

 少しピアノを「かじった」保護者の方は勘違いします。
「私にも教えられるわ、こんな簡単なもの」

 私がそれで、肩透かしを食らったのは、音大生の頃初めて生徒を持った時でした。
3歳の利発なお嬢さんに、中央C音(ド)を覚えてもらうのに1年かかったのです。
こちらの言うことは通じない。
相手の言っていることの3分の1は意味不明。(それでも、生徒さんは利発な子だったので3分の1で済んだ)
 これは私が学生だったから、ではありません。
 「たまごからかえったばかりの、殻をまだ頭にもお尻にもつけているひよこちゃん先生」だったから、つまりある意味経験値が低かったからです。
音大生と言えども、まだ「学ぶ立場」です。その「生徒」サイドから指導する側つまり「先生」サイドに立ち位置を変えることを簡単に考えていましたが、とんでもない間違いだった。

まだこの仕事を一生涯の仕事にするなどという想いすらなかった頃に、こういう痛い経験をしたことは私にとってはとても意味がある者だったのではと思います。

 それから20年ほどたったのち…。

 「こんな簡単なことなら私でも教えられる」
と保護者に言われ、「貴女の教室に通わせたのは無駄だった」と言われたことがありました。

 私は言い返すことをしませんでした。
何を言っても、この方には無駄だろうと考えたのです。

 初歩の教本ってとても簡単そうに見える。実際簡単だと思われるでしょう。幼児の初歩指導で最も大変なのは、その「かんたんなことをおしえる」ことなどではありません。

 相手の生徒に、大人から見て「かんたんそうにみえること」は必ずしも簡単ではない。また覚えたと思ってもすぐに忘れる、つまり定着しないのも幼児の特徴です。そして、もう1つややこしいのは、必ずしも親が教えて上手くいくわけではないということです。

ま、本音は乱暴な言い方をすると


「導入指導なめんな」


ってことなんですよ。

ひとりうまくいっても、全員そのやり方でOKなんてことはわからないわけですから。
 だからこその教材研究、指導法研究です。
導入は最も大切で責任のある部分だと、いつも胆に銘じています。

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