卓越した技巧と文学的な背景や引用に溢れた作詞家の仕事は素晴らしい。たとえいくらLorenz Hartの人生が抑鬱、依存症、自身の外見やセクシャリティに関する苦難に満ちていようとも、彼には技術と知識があった。こちらアジアの極東でも2月になるとあらゆる商業施設でこぞってかけ出す”My Funny Valentine“や、Woody Allenの映画でお馴染み”Manhattan”も、私が世界でいちばん親和性を感じるジャズスタンダード曲も、彼の作品だ。
でも、シンガーソングライターという生き物が作った、技術的にはほとんど洗練されていない、ただ言いたいことがあって、それが曲になってしまった、というタイプの曲も、ほんとうに魅力的。たとえば、Abbey Lincolnの ”The World Is Falling Down”。
私はこの曲の背景を何も知らない。私程度の検索能力では調べても情報に辿り着けなかった。でもその歌唱と歌詞と演奏と楽曲そのものが、雄弁に自身のことを語っている。たぶん、この曲の訳詞はインターネット上には上がっていない。私の中には相変わらず、何か美しいものに触れたときに、それを英語と日本語という二つの言語で表したいという欲求があるので、誰に頼まれるでもなく、いや、おそらく自分自身の為に、この歌詞を訳してみる。
これは葬送曲だ。人を弔うときに、歌ったり、楽器を奏でたり、踊ったりする、という文化が世界には存在する。ニューオリンズにも、その文化的遺伝子は引き継がれた。
優れた音楽家は言う、言語は、音楽を凌駕するのだと。私は思う、音楽は、言語を凌駕するのだと。でもこの楽曲はこの議論をその魅力によって一瞬で終わらせることができる。歌は言語であり、同時に音楽なのだ。
ここで “The World Is Falling Down” の訳詞は終わり。
この曲を含んだ美しくスウィンギーな楽曲たちを以下のライブで歌いたいと思います。
2023年
2/21(火)関内Venus
https://www.venus-hk-j.com
横浜市中区太田町2-27
ザ・バレル飛高ビル4F
045-228-8559
【出演】
加藤咲希(Vo.)
浅川太平(Pf.)
1st 19:40, 2nd 21:00, 3rd 22:20
私はこの文章をなぜかKeith JarrettのThe Köln Concertを聴きながら書いたりしている。次はやっぱりAbbey Lincolnを聴こうっと。
訳したのはこの曲ね。
https://youtu.be/UpzuSUVfXJI