詩「ぬいぐるみ」

会って話したいことなど無いのに、会って話がしたかった。
ひさしぶりにお昼いっしょに食べよう。
再生されるあなたの声には、わたしの声が少し、混じってる。

わたしはあの頃よりわたしなのよ。それはもう、間違いがないのよ。
繕いが上手になりました。自分の孤独は自分自身にやさしく詰めこんで、丁寧に縫い合わせよう。
あなたをやさしく愛したいから、まず必要なのは細やかな麻酔だった。
嘘はつかないこと。嘘以外のもので、もっと丁重に、あなたを愛せない自分を隠すこと。
ひとりでいるとき、こんなにも、可愛いぬいぐるみが作れたのにね。
どうしてだれかといると、どんどん不細工になっていくのだろう。

でもあなたには、このぬいぐるみは、見えていないんだろう。
いっしょに食べるオムライス、ちっとも咀嚼できないこと、
グラスの水をドバドバこぼして濡れた毛並みも、
汚らしくケチャップがついた口もとも。
あなたには、見えていなくてわたしには見えて。
どんどん醜くなっていく。



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