「親指、すごく曲がるんだね」
ちょっとした癖まで知ってるのに、
あなたと私は付き合ってない。
足と手の親指がひどく反り返る。
私だけが知っている秘密にしておきたい。
横になって、見える足先。指。
親指だけ力がぐっと入ってるみたいに、
他の指より反っている。
手の親指もそう。
ふと広げた時に、ぐっと反っている。
親指だけ。
それに気づいているのが私だけならいいのに。
そう思うから、言えないでいる。
何気ない会話の時に、話すことがない時に。
言えばいいのに、言いたくない。
私だけの秘密は、みんな知ってることかもしれないから。あなたが誰かに話してしまうかもしれないから。
こわい。
秘密じゃなくなることが。
ひとつくらい、私だけのあなたがほしい、
全部秘密にしておこう。親指のことも。
私とあなたがこうしていることも。
「じゃあ。また連絡する。」
そう言って、こっちも見ずに部屋を出て行くあなた。
私は些細な癖すら知ってるのに、あなたは私のこと見もしない。私だけのあなたは2時間だけ。
散らばった服を手に取った。
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